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15話 ヘイメルシュタット商会



 イグは頭痛で目が覚めた。


 昨日は飲み過ぎてしまったと後悔しながら目を開けると、灰色の髪に青い瞳の少女が顔を覗き込んでいた。


「痛ッ……いて、くっ」


「ぷっ。大丈夫?お水持ってこようか、イグ?」


 イグはベッドで仰向けで寝ていた。リュオはその横に寝そべり、頬杖をついて斜め上から彼の顔を見ていた。彼が片手で頭を押さえて痛そうにしている姿を少し微笑ましくも心配そうに。


 昨晩二人は宿に泊まった。

 宿屋のロビーで酒が飲めたからイグは久しぶりの酒に喜び旅で疲れた体に注ぎ込んだ。リュオは久しぶりの固いパン以外の料理に頬を染めて夢中で食事を楽しんだ。


 これまでイグは街にいる時も殆ど野宿をしていた。馬車の荷台は彼にとって寝床でもあったから。それを知っていたリュオは野宿でよいと言ったのに、街中で女が野宿をするのは危険だとイグが言い張って馬屋のある宿を取った。

 格安の部屋はベッドが一つしかなく床で寝ると言うイグに一緒にベッドで寝てとリュオが言い張って同じ床で寝ることになった。


 今二人が横になっているベッドはシングルサイズで二人で寝ると狭いが、それでも足を伸ばせない馬車の荷台から比べれば、寝心地は圧倒的に良いと言えた。


「ヘイメルシュタット商会に行くんでしょ?」


「ああ」


 リュオは机の上にあった水瓶からコップに水を注ぐとイグの所まで運び今日の予定を聞く。


「……準備するか」


 イグはベッドの柔らかさと温もりを名残惜しそうにしながら起き上がって、ベッドに座り水の入ったコップを受け取る。


 窓の外は晴れていて気持ちの良い朝だった。





 宿を出た二人は荷馬車の御車台に乗り込む。

 オルトハーゲンに引かれながら荷馬車は街中を走る。路面は石畳でこれまでにないほど振動が少なく滑らかに進む。

 街にはイグの様に馬車で移動する商人や工房で働いてる前掛けを掛けた職人、市場に向かう女達、下働きをする子供等、たくさんの人がいた。

 リュオはビッツ村とは違う立派な街並みに、垢抜けた人々に胸を躍らせて周りをキョロキョロと見回した。


「田舎者ってばれるぞ」


「むっ、イグだって元は田舎者でしょ!」


 街を見回すのを止めて自分を睨むリュオにイグは少し顎を上げて無精髭を撫でながら自慢気に話し始める。


「まぁな。俺も初めて大きな町に行った時は今のお前に様になっていたな。周りが物珍しくて見ずにはいられなかった」


「ほら、同じじゃない」


「ただ俺は親方に注意されても口答えはしなかったけどな」


「……性格悪い」


「ふん、商人なんて皆こんなものだ。これから行く所はそういう奴等の巣窟なんだ」


「それじゃ商人は皆、起きてる時と寝ている時の格差が激しいのかな。寝ている時は頭を撫でちゃうくらい可愛いのにっ!」


 その言葉に『まさか』と何かに気付いたイグは焦ってリュオを見る。


「……お、お前、今朝寝ている時に俺の頭を撫でていたのか?」


「髪、サラサラだったよ」


「はぁー」


 イグはリュオのことを弟子だと思っている。酔っていたとは言え弟子に頭を撫でられる親方なんて面目ないとイグは溜息を吐いた。

 ただ実は普段からリュオは寝ているイグの頭を撫でているし、今日に限ってはおでこに軽くキスしたことは秘密である。


「ふっ、ふふふ」


 イグの反応を見てリュオは可笑しそうに笑った。




――――――




 二人の目の前には一際大きくて重厚な二階建ての建物があった。

 たくさんの人がその建物の周りに集まっている。


 建物の一階は倉庫と店になっていって大きな出入口がたくさんあった。出入り口には様々な店が並んでいて、店は建物からはみ出して道の方まで進出していた。テントが張られ出店の様になっている。各店の売り場台の上には様々な商品が並べてあった。店は買い物客で賑わい喧騒に包まれている。


 荷馬車はそのまま建物の中へ入れる。たくさんある出入口からは商人を乗せた荷馬車が出入りしていた。


「着いたぞ。ここがヘイメルシュタット商会。このクロッフィルンで一番大きな商会なんだ」


 イグはその建物の中へ荷馬車を進める。



 建物の中は倉庫になっていて、こちらにも大勢の人がいた。皆賑やかに商談している。ここは商社とデパートが合体したような所だった。

 その中を二人の荷馬車は進む。


 リュオはそんな光景に目を丸くし田舎者丸出しでキョロキョロ見渡しては驚いた表情を浮かべている。

 その横にはそんな弟子の姿に小さく笑みを漏らす親方がいた。






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