悪役令嬢の皮肉
オチなしです。彼女は病んでいます。それでも良ければよろしくお願いします。
「ザーラ・フォルスター!お前という奴にはもう愛想がつきた。婚約は解消させてもらう!」
その言葉に私は小さく笑った。そもそも尽きるほどの愛想なんてないでしょう?
そんな私に気づいた彼は、眉を顰める。
「何がおかしい?」
それもわからないのね。可哀相な人。何もかもに決まっているじゃない。
この遣り取りも何度目かしら。
◇
私はザーラ・フォルスター。フォルスター公爵家の娘。そして、シュレーゲル王国第二王子の婚約者だ。
つまり、婚約を破棄すると言いだしたのは、第二王子であるアレス殿下だ。
何故婚約破棄をしたいかなんてわかりきっている。彼の側にいる少女のためだ。ピンク髪に緑色の瞳をした少女は、殿下の腕にしがみついて涙目で私を見ている。その姿は哀れで庇護欲を誘うものだろう。私には全く通じないが。
冷めた目で見ていると、彼女は怯えたように、さらに殿下の腕にしがみつく。それに気づいた殿下は険しい顔になった。
「やっぱりお前がリネットを虐めたんだな。こんなに怯えて可哀相に…リネットを階段から突き落としたのも、教科書を破ったのも、罵倒したのもお前なんだな。はっきり言ったらどうだ!」
「…わたくしには覚えがございません。どなたかとお間違えではありませんか?」
「しらを切っても無駄だぞ。証人はちゃんといるんだからな」
だったら何で聞いたのかしら、とはもう思わない。
これも決まっていることだからだ。
◇
私はいつからか、この遣り取りを何度となく繰り返している。それに気づいたのは突然だった。どうして気がついたのかはわからない。それでももう数えるのも嫌になるくらいは繰り返しているはずだ。
私の役割は断罪されること。彼女と殿下が結ばれるためにいるようだ。だが、こうして断罪を繰り返すということは王子と彼女は結ばれたとしても、そこで終わってしまうということ。
何という皮肉だろう。彼らは幸せの絶頂でそれを繰り返すのだ。不幸の最中でその人生が終わることと、幸せの絶頂で終わること、どちらが悲しいのだろうか。
ただ、彼らは幸せなことに、このループに組み込まれていることにまだ気づいていない。もし気づいた時に彼らはどう思うだろうか。彼らは本当の意味で幸せになれないのだと。
こんなに胸がすくことなんてないわ。
私だけ不幸になるなんて許さない。貴方達全員道連れよ。
そうして私はまた断罪される。ある時はギロチンで首を刎ねられ、ある時は国外追放になる。それでもその後気づけばまた同じ場面に戻るのだ。
でもその時が貴方達のある意味では不幸の始まりなのよ。精々頑張って幸せになろうとすればいいわ。
その時はまた私はほくそ笑むだけよ。
ありがとうございました。