笹田という男
ーーー‥‥
あの日あの時から、俺はオープンオタクではなく内に隠すオタクになった。
好きだったあの子はエスカレーター式だったこの高校への進学を辞め、都内のお嬢様学校である女子校を希望した。この学校、オタク多いしな。懸命な判断だろう。
やけに冷静になったなって?‥‥フッ、フフッ‥。
もう俺は昔のデブオタクじゃなーーい!
高校デビューとやらを果たしたのだ。
ダイエットで痩せて中々イケてる顔立ちであった事が発覚し、これでハーレムも実現可能に‥‥!!!
「おーい、やまちゃん。やーまーと!聞こえてる?」
!!
(おっといかんいかん‥。ここは学校だった。)
「悪い、寝ぼけてた‥‥。」
垂れかけた涎をグッと制服の袖口で拭うと、こちらを呼びかける声の主の方へ向き直り眉を下げてハハッと笑って見せた。
「最近そうゆうこと多いねぇ。寝不足?あー、また深夜アニメリアルタイムで見てたとk‥‥!フゴッふごふご」
咄嗟にヤツの口を塞いでやった。
オープンオタクは辞めたっつってんのに学習しねーやつだなこいつは!!何年俺の親友やってんだよ!
とはっ倒したくなる気持ちを抑えつつ様子を伺っていたら悪びれもしないようなにこにこ笑顔で「ごめんごめん。」とアイコンタクトしてきたので、バッと雑目に手を離してやった。
「で、今日俺んちくる?」
「ん、まあ行くかな。」
「やった!じゃあ学校終わったら即集合な!お前が見たがってたアリスちゃんのフィギュア、もう届いてるぞぅ〜」
こそこそと囁かれた耳元がこそばゆい。
奴なりの配慮なんだろうが、男同士でこの距離感、正直辞めてほしい。奴‥‥否、笹田は昔からの幼馴染でアニオタなのだが、顔面偏差は俺達オタグループの中でもずば抜けて高かった。よく町中を歩いていても一人だけスカウトされてたし。
今もきゃあきゃあと黄色い声が飛び交っている。
「笹田くんかっこいー!目の保養すぎ!」「キャアー!光輝×大和ーー!!」「何言ってんの、大和×笹田くんでしょー!」
「ねぇ大和、幼馴染カプってなに?」
「‥‥とりあえず、お前は俺に必要以上に近づくな。ホモに見られたくなくばな。」
乙女達の禁断の会話に興味を持ってしまった幼馴染に釘を打つ。疑問符を頭に散らばせキョトンと首を傾げるも、深くを語らぬ大和にちぇー、といったように唇を尖らせれば「じゃあ、また後でなー。」とヒラヒラ手を振り、その場を後にした。
時間を置かずに授業開始のチャイムが鳴り始めれば、各々散らばっていたクラスメート達も席に着く。「今日も平和だなぁ…」なんて、少し退屈そうに頬杖を付きながら窓の外を見る。
「……おい、Tmitterのあれ、見たかよ…。」「まじらしいぞ。」
「リアルで召喚されるって話」
平凡だけど愛すべき日常が非日常へと変わるまで、もう少し。