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真の生徒会長?

女学園から男子校へとたずねてきていたアヤ。

しかし、帰り道で質の悪い男子高生に絡まれてしまう。

それを助けたのは、やる気のない生徒会執行部のふたりで……?

「や、やめてください! 先生を呼びますよ!?」

「いいからさっさと、金出せよ。センコーなんか、呼んだって来るものか」

「そんなはず……」

身なりの悪い男たちは、ケラケラと笑っています。もしかしたら、本当に助けに入る先生など、ここには居ないのかもしれないという恐怖が、襲ってきました。現に、もう数十分もここで問答しているというのに、大人たちはおろか、誰も関与しようとはしてこなかったのです。私は一歩、また一歩と後ずさっていきました。

「隣の女学園の制服だよな? 金持ちの。札くらい、ちょろいだろ?」

「あなた達に渡すようなお金など、持ち合わせてはおりません!」

私は、ここで退いてはいけないと、負けてはいけないと自分自身を奮い立たせ、自分の頭ふたつ分は背丈のある男達を睨みました。けれども、女である私が幾ら睨みを利かせたところで、筋肉むき出しの男たちには、恐るるに足りない存在のようでした。

「だ、誰か……」

遂に私は、助けを求めて走り去ろうとしました……が、別の男によって、退路を絶たれてしまいました。

「……っ」

恐怖でいっぱいになり、一瞬、お金を渡しさえすれば……などという安直な考えも浮かびましたが、それで無事に帰してもらえるとも分からないと思うと、かぶりを振り、ぎゅっとカバンを握り締めました。

「いい度胸じゃねぇか。やっちまうか?」

「俺を?」

そのときです。背後から、聞き覚えのある声がしました……と、同時に、背丈の高い筋肉が隆起した男は、蹴り倒されてしまったのです。その様子を、私はただポカンと口をあけ、見守ることしか出来ませんでした。

「なっ……お前、土方!?」

「土方レン、通りまーす……っと!」

回し蹴りで、私の背後に回っていた男のことも、倒してしまいました。それは本当に、一瞬のことでした。背丈がこんなにも違う、それも、筋肉の付き方も違う相手を、いとも簡単に倒してしまうなんて……私は驚きを隠せずにいました。

「あれ? レン。早かったね」

「なっ、沖田!? お前まで、ここに来ていたのか!?」

残すところはあと三人という男たちでしたが、青色のその少年を見るやいなや、血相を変えて、明らかに怯えはじめるのです。確かに、レンさんに比べて、その少年は背丈は高いのですが、筋肉質ではありませんし、強そうには思えませんでした。それなのに、どうしてここまで怯えているのか、私には分かりません。

「近藤さんにはこのこと、内緒にしておいてあげるから。今のうちに帰ったら?」

「沖田セナ……くそ、分が悪すぎるぞ。近藤チカまで出てきたら、たまらねぇ! ずらかるぞ!」

そう言って、男たちは慌ててバラバラの方角へと逃げていくのでした。


 それにしても……土方、沖田、近藤。


 新選組……?


 私は思わず、くすっと笑みを浮かべました。


「あ、笑いやがったな」

「まぁ、初めて耳にしたら、誰もがそう思うだろうからねぇ」

金髪のレンさん改め土方さんは、黒髪のセナさん改め沖田さんの顔を見ながら悪態をついていました。沖田さんは、こういう反応は慣れている……という感じです。

 ただ気になったことは、もうひとつ。近藤さんというお名前。先ほどの生徒会執行部の部室には、このふたりしか居ませんでした。けれども、どうやら一番力を持っているのは、その近藤さんという方のようです。

 もしかしたら、近藤さんになら話が通じるのではないかと、私は僅かながらの期待を抱くのでした。

「あの、ありがとうございました」

「礼なんかいいよ。ちゃんと送らなかった、俺たちが悪いんだし。ね、レン?」

「まぁ、そうだな」

ふたりは、事が片付いたのを見届けると、私を通り越して校外へと出ていこうとしました。寮は、確かに校外にあったはずですし、ふたりは寮生なのかもしれません。もしくは、単に家に帰宅しようとしているのか……そのどちらにせよ、私はまずは、聞きたいことを訊ねようとしました。

「あの! 近藤チカさんという方が、もしかして……ここの、現生徒会長なのですか?」

すると、土方さんが振り向いて、私の顔を覗き込みました。

「そうだけど? それがどうかした?」

(やっぱり……このふたりはきっと、副会長と書記か会計なのですね)

そう思った私は、それならば、会長と話がしたいと思いました。

「近藤さんに、お会いしたいです。会って、お話を……」

すると今度は、沖田さんが私の顔を見つめてきました。目を細め、半ば冷めた表情で……。

「やめた方がいいよ」

「えっ?」

私には、理由が分かりません。ですが、土方さんも同じ意見でした。

「あぁ、やめた方がいい。チカは気難しいからな」

チカとい名前だけれども、ここは男子校。やはり、男性なのでしょう。気難しいといっても、この学校の生徒会長であり、この強いふたりを束ねる存在であるのです。私は、何が何でもお会いしたいという思いで、いっぱいになりました。

「どうしても、女学園の皆様の為にも、お会いしたいのです!」

「……」

それを聞いて、沖田さんは軽く溜め息を吐いてから、応えてくれました。

「そんなに言うなら、いいよ」

「ちょ……セナ!? マジで言ってるのか!?」

「ありがとうございます!」

慌てふためく土方さんを余所に、私は深々と頭を下げました。

「ただし……」

「……ただし?」

後に続いた沖田さんの言葉に、私は顔を上げました。

「俺は行かない。レン、案内してあげて?」

「お、おい! 冗談キツイってば!」

土方さんは、更に顔色を変えて慌てふためきました。けれども、これは私にとってはチャンスです。いえ、今を逃せば、もう入学までは近藤さんにはお会い出来ないことでしょう。

「お願いします!」

土方さんに向かって、深々と頭を下げました。

「あぁ~……もう、セナの馬鹿! 高いピアス買ってこい!」

「はいはい」

そう言うと、沖田さんはそのまま校門の外へと出て行ってしまいました。それを見送ることもせず、半ば怒った形相で、土方さんは私の左腕を掴むと、ガツガツと下駄箱に向かって歩き始めました。

「さっさと来い! 俺の気が変わらないうちにな!」

「は、はい! ありがとうございます!」

私は嬉しさのあまり、腕を掴まれていることになんお違和感も覚えず、足早に歩く土方さんから遅れを取らないようにと、小走りしながらついていきました。


「どこへ向かっているのですか?」

「屋上」

ぶっきらぼうに応える土方さんは、とても不機嫌でした。そういえば、沖田さんに高いピアスをねだっていましたが、まだ、ピアスを空けるつもりなのでしょうか……というより、言われてみると、先ほどは無かったような気がする、青色の石のピアスが左耳に光っているような気がしてきました。

 私たちの学校は、ピアスなんてもってのほか。ですから、このような派手な髪色にピアスという容姿の土方さんの姿は、とても印象に残っていました。

「ピアス、また空けたのですか?」

「は!?」

「えっ……あ、あの」

あまりにも驚いた声を出すものだから、私はびっくりしてしまいました。

「何で分かったんだよ」

やはりぶっきらぼうな物言いの土方さんですが、どこか恥ずかしそうな顔をしていると、私には思えました。

「やっぱりそうなんですね……その、青い石。先ほどは、付けていなかったような気がしましたので」

「すっげぇ、観察力だな」

そして、少しだけ……笑ったような気がしました。元々、瞳は大きいのです。よく見たら、怖い顔つきではなくてむしろ真逆。可愛らしい顔つきをしていると思いました。けれども、少年とはいえ、男のひとに「可愛い」とは失礼かと思い、私は黙っていました。

「ほら、この階段上がったところが屋上」

そういえばこの時になって、はじめて土方さんが白いスクールシューズを履いていることに気がつきました。確か、この学校は靴に決まりは無かったはずです。決まりがあるのは、そう。この学校の弟学校にあたる、優伽丘中等部までのしきたり。高等部からは、運動靴であれば、何でもよいはず。というより、白いスクールシューズなんて履いている高等部は、居ないという話です。

「あの、あなたは……」

私が疑念を抱き、声を掛けようとした時です。屋上へと繋がる扉が開かれました。

「近藤さん、客人連れてきたよ」

 そこには、漆黒の髪を長めに伸ばしたミディアムボブヘアに黒い瞳。そして、黒のフレームメガネをかけた美少年が立っていました。学ランをきっちりと着こなして、黒の運動靴を履き、背丈は一八〇は無さそうですが、割と高め。スラリとした容姿で、鼻も筋が通っていて色白で、王子様のようだと思いました。

「?」

近藤さんと呼ばれた方は、フェンス越しに外の景色を見ていました。サラサラとした髪を風になびかせながら、どこか、儚げな表情をしているのです。

「キミもセナも、四月からは一年生か……今日は、偵察にでも来たのかな?」

「まぁ、そうだよ」

(えっ……四月から一年? それじゃあ、やっぱり……)

土方さんと沖田さんは、まだ、中等部ということなのでしょうか。私は、そのことに驚きを覚えました。もしもそうだとしたら、持ち上がりの私立の学校とはいえ、校舎は別。生徒会執行部室はどうなのか分かりませんが、土方さんと沖田さんが、私たち女学園の生徒会側が送った手紙を知らないことにも、頷けます。

「土方さん。あなたと沖田さんは、まだ中等部だったのですか?」

「そーだけど? でも、もう四月からは高等部なんだから、中坊と一緒にしないでもらいてぇな」

不機嫌そうに、土方さんはそう私に言いました。それから、近藤さんとの間に距離を置いて、私の背中を軽く押しました。

「ほら、近藤さんに用事があるんだろう? さっさと話せば?」

「……女学園の方かな?」

「あ、はい」

やはり、高等部の生徒会の方には話が通じるのだと、私は少なからず喜びを覚えました。怖い思いをしながらでも、粘った甲斐があったというものです。

「生徒会の件は、僕に任せて欲しいものですね」

「え……っ?」

柔らかな黒い瞳で、近藤さんはそう応えました。会長の座も、渡さないということでしょう。私は、別に会長の肩書きが欲しいワケではありませんでした。ただ、しっかりとした学生生活が送れるよう、基盤を作りたかったのです。

 このひとが、近藤さんがちゃんと生徒のことを考えているのなら、私には文句を言う理由などありませんでした。

「この学校は、僕の祖父が経営しているものですから」

「……っ!?」

それは初耳でした。私は思わず、土方さんの顔を見ました。それを察知して、土方さんは頷きました。

「そうだよ。だから、誰も近藤さんには敵わない……分かったか?」

「土方くん?」

「……なんすか?」

明らかに様子がおかしい。土方さんが萎縮しているように見えました。

「沖田くんは、どうしていないのかな?」

「……さぁ?」

それを聞いて、近藤さんはフッと不敵な笑みを浮かべました。

 鈍感な私でもわかります。近藤さん、土方さん、そして沖田さんの間には、何か隠された関係がある……と。

「おい、女。俺は帰るぞ! お前も帰るなら、校門まで送ってやる」

「ま、待ってください……近藤さん。近藤さんは、この学校をより良い学校にしたいと、お考えですか?」

「愚問ですね」

笑みを浮かべたまま、近藤さんは空を見上げました。その様子を見て、何か違和感を覚えましたが、私はひとりでこの学校を出歩くのは危険だと判断し、土方さんと共に、この場を去ることを決めました。

「失礼します。それから、四月からは私も、生徒会のひとりとして活動するつもりです。よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

短く告げると、近藤さんは瞳を閉じて、そよ風に浸っていました。

「近藤さん。それじゃ、俺たち帰るから。ほら、行くぞ!」

再び私の腕を掴むと、土方さんは足早に屋内への扉を開けて、階段を駆け下りて行きました。私は、ヒールのある靴のため、階段で転びそうになってしまいます。

「もう少し、ゆっくりお願いします、土方さん!」

思わず癖で「さん」と敬称をつけたものの、彼のことは「くん」と呼ぶべきものかとも思えました。勿論、年齢で区別するつもりはありませんが、私の方が年上ということが判明したので、なんだか「さん」と継承付することに、違和感を覚えたのです。

「あぁ、悪い……つい、な」

バツが悪そうな顔をしながら、土方さんは私の腕から手を離しました。どこか焦りを感じているかのようにも思えます。

 年齢が分かってから、不思議と土方さんのことが、子どもっぽく見えてきました。現に私よりも子どもなワケですが……。私は十七歳ですが、土方さんはまだ、十五歳ということになります。声もアルトで、高めです。まだ、声変わりしていないのか、してもこの高さなのか……幼さの残る容姿にあった、声色でした。

 沖田さんの声も、低くはなく、そして高すぎることもなく……けれども、大人になりかけの伸びやかなテノールボイスをしていました。

 近藤さんの声も、テノール系ボイス。それも、とても美声で歌でも歌えば売れそうなほどの綺麗な響きでした。優しくて、包み込むような声質。私のこころも、ときめいていました。黒髪の容姿にも、好感が持てます。


 それなのに……どうして、同時に不安も覚えるのでしょう。


 生徒会長に、私がなれないから……?


 この私立優伽丘高校の経営者が、近藤さんのお祖父様ということは、やはり、お孫さんにあたる近藤チカさんには絶大な支持が偏っていることでしょう。私が立候補してみても、余所者である女学園の私が、勝てるはずがないと思いました。

(会長の座も大切ですが、まずはもっと先に、やるべきことがありそうですわ)

私は自分にそう言い聞かせると、土方さんと共に校門のところまで来ました。緑が意外と多いこの学校の景色は、自然の中にある別荘地のような女学園とはまた少し違った味を持つ、近代的な学校でした。

「あとは、帰り道だろ? 俺は、寮に戻るから」

「はい。ありがとうございました」

私は一礼をしました。黒髪をバサっとなびかせると、カツン、カツンとヒールの音を立てながら、女学園の方に向かって歩き始めました。しばらくその様子を土方さんは見守っていましたが、私の後ろ姿が小さくなるのを見送ってから、逆の方へと足を進めました。


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