表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

何なのこの愚者たちは!

アヤ視点のターン。

「へぇ、本当に女子が来た」

「そりゃあそうでしょう……合併したんだから」

「ま、どうだっていいか。俺たちの活動が変わる訳でもねぇし」

「そうだねぇ」



 光ノ丘女学園は、由緒正しき女子高でした。でも、学生数が少なくなっていき、隣接していた男子高校、優伽丘高校にこの春から吸収合併されることとなりました。はじめは、特別問題も何も感じていませんでしたが、なんてことでしょう。これまで、お嬢様学校と言われる私たちの学校とは、校風も何もかもが違うのです。私は、黒髪の胸まであるストレートの髪の毛を風になびかせながら、不安に駆られていました。


 まだ、春休み中。


 何故、私が誰よりも早くこちらに来たのかと言いますと、私が光ノ丘の生徒会長候補だったからです。


「えっと……確か、この離れに生徒会執行部の部室があったはずですが」

お世辞にも、その部室は綺麗な建物とは言い難いものでした。ボロボロの二階建て。鉄筋ではありますが、ところどころペンキが剥がれ落ちていて、階段は鉄骨がむき出しとなっていました。女学園の制服は、エメラルドグリーン色のワンピース。首元のリボンの色によって、学年分けがされていました。赤色が一年生、青色が二年生、そして、紫色が三年生です。私は今はまだ、青色のリボンをしていました。新年度からは三年生として、紫のリボンをつけることになっていました。


 カン、カン、カン……。


 ヒールのある靴で歩くと、階段からは甲高い音が鳴り響きました。ここは、様々な部室が入っているようでして、一階も、「文芸部」「新聞部」などという張り紙が、扉に貼ってありました。そして、二階まであがると、一番奥の扉が外れかかっているドアに「生徒会執行部」という張り紙がありました。

「ここですね……」

私は、深呼吸をすると引き戸の扉をガラガラっと開けました。

「こんにちは、はじめまして。光ノ丘女学園生徒会会長、姫宮アヤと申しま……」

「……くっそ!」

「はい、レンの負け」

「セナ! インチキしたんじゃねぇの!?」

「する訳ないでしょ。レン、俺、コーヒーね。微糖」

「……はぁ。はいはい」

「あ、あの……」

ふたりの男子生徒が、入口に立ち尽くす私を傍らに、いえ、まるで居ないかのように、ふたりの世界を広げていました。

彼らの制服は学ラン。この春からは、制服は一新され、お互いにブレザータイプになるということですが、まだ間に合っていないそうで、お互いにこれまでの制服で、生徒会同士、顔合わせをするという約束になっていたのです。

それより、これまで私は女子校にしか通ったことがなかったので、男性をこのような間近で見るのは、久しぶりのことでした。全寮制の学校です。ここ、優伽丘の学生たちも、全寮制ではないものの、殆どの生徒が寮生活を送っているとのことでした。

 中に居るひとり、ゲームに勝ったと思われる生徒は、黒髪でウルフスタイルの少し髪の毛が長めの男性。確か、セナと呼ばれていました。ウルフスタイルといっても、髪型にこだわっているようには見えず、ちょっとボサボサとされていました。瞳の色は……青。ハーフなのでしょうか。確かに、顔つきがちょっと、西洋風である感じもしました。黒髪黒目の凡人な私とは違います。椅子に座っている為、正確な背丈はわかりませんが、高そうです。脚も長く、すらっとした容姿です。

 もうひとりは、レンと呼ばれていました。髪の毛は前髪が長めで真ん中分け。耳には多数のピアス。この学校では、ピアスが黙認されているのでしょうか。それにしても、数が多く、髪も派手髪でした。金髪に赤いメッシュが入っているのです。瞳は紫。おそらくは、カラコンでしょう。背丈は、セナさんよりかなり低くて、一七〇センチもなさそうです。

「あ、あの……お話をしたいのですが」

「あぁ?」

レンさんは、大きな瞳を半眼にし、私の顔を覗き混んできました。

「へぇ、本当に女子が来た」

「そりゃあそうでしょう……合併したんだから」

「ま、どうだっていいか。俺たちの活動が変わる訳でもねぇし」

「そうだねぇ」

私は、ふたりの興味なさそうな話ぶりに、少なからず寂しさを覚えました。これから、学校生活を共にしていく仲間であるというのに、ここまで関心が無いものなのでしょうか。私は、緊張こそしていましたが、新しい生活というものに、期待もしていました。

「で、何しに来たの?」

セナさんです。椅子に腰を下ろしたまま、頭の後ろで手を組み、私の顔を見てきました。

「何をしに……って。それは、話し合いを……」

「話し合い?」

セナさんがゆっくりと立ち上がりました。思っていた以上に背丈が高いことに、私は驚きました。いえ、もしかしたら私とレンさんが、低いのかもしれませんが……。学ランのボタンは全て外しており、カッターシャツも第二ボタンまで外して着こなしていました。レンさんに至っては、学ランのボタンも、カッターシャツのボタンも、全て外していて、インナー姿が露となっています。

「は、はい。今後の生徒の在り方を話し合うと……数日前に、お手紙をお送りしたと思うのですが」

「……セナ。それじゃねぇ?」

「あぁ、これ?」

おもむろに視線が向けられたその先の机の上には、落書きされた封筒と、紙飛行機に織られた、見覚えのある便箋がありました。

「……」


 私は、言葉を失いました。


 このふたりは、本当に生徒会執行部?


「中身、読んだっけ?」

「さぁねぇ。どうだったかな」

「あなた達、生徒の代表でしょう!? そんなことで、学校が成り立つのですか!?」

私は遂に、声を荒らげてしまいました。私は、青のリボンを揺らしながら、凛とした声で後を続けます。

「ここの部室も、随分と老朽化しているように見受けられます。耐震が大丈夫か、ちゃんとチェックしているのですか? それに、その制服の着こなし方! あなた達が風紀を乱しているのではないですか!?」

この部室へ来るまで。優伽丘の生徒にも少し、すれ違いました。けれども皆、挨拶をする訳でもなく、ダラダラとした制服の着こなし。髪の毛も、大概が染めていて、ピアスを空けているひとも、少なくはないようでした。流石に、レンさんほど空けているひとは、居ないようでしたが……。

「……セナ。なぁんか、面倒くさい奴が入ってくるみたいだな」

「そうだねぇ」

「な……っ」

私は心外だと言わんばかりに、身体を震わせました。

「あなた達、生徒会執行部でしょう!?」

その言葉に、セナさんとレンさんは私の方に顔を向けました。そして、切れ長な青の瞳のセナさんは、目を細めて私を見つめました。

「……一応、そうだけど?」

「何か、文句でもあるのかよ」

文句なら、今まさに申したばかりだと言うのに……。私は、いえ、私たち光ノ丘女学園の生徒は、これから上手くやっていけるのかと、不安になりました。

「話なら、することなんか何もないよ。悪いね」

「そうそう。どーせ、生徒会って言ったって、名ばかり。センコーにゃ、勝てやしないしな」

私はそれを聞き、首を横に振りました。そんなはずがない。だって、生徒の代表として私たちがいるのだから。生徒の代表がこんな風にだらけているから、きっと、先生方も真剣に向き合ってくださらないのだと感じ取りました。

「そんなこと、ありません!」

「……」

目をつぶり、頭をくしゃっと掻くと、セナさんは心底面倒臭そうにしながら、紙飛行機となってしまった、私の綴った文書の便箋を広げると、中に目をザッと通し始めました。しかし、あっという間のことで、再びそれを、机の上に置いてしまいました。

「キミ。生徒会長になりたいわけ?」

「……私は」

はじめは、どちらでもよかったんです。光ノ丘女学園には、女学園なりの在り方が。そして、優伽丘高校には、その在り方があると思ったからこそ、こうして学校生活がはじまる前に出向き、これからの新しい学校の在り方を話し合い、校風の乱れや、規律の乱れがないよう、女学園生徒会長である私、「姫宮アヤ」が直接出向いたというわけなのですが……ここの生徒会といったら、まるで機能していないことに、私は驚きました。

 偏差値も、校風も、何もかもが低レベルと言ってもよい優伽丘に吸収合併だなんて、どうして学園長先生は、そのような話を呑んだのか……私には、到底分かるはずがありませんでした。

「私は、あなた達に任せるくらいならば、会長に立候補致します!」

するとふたりは、興味が無さそうに椅子に腰掛けました。

「どうぞ?」

「別に、興味ないもんな? 俺たち」

こんなにも、学校に無関心なものなのでしょうか。私たちが異常だったのかと思わせるほど、このふたりは、「生徒会」にも「学校」にも、興味が無い振る舞いなので、私は激しく脱力するのを覚えました。

「もう、結構です!」

「結構も何も、勝手に来てなんだよ、この女……」

「いいじゃない、帰るって行ってるんだから。あ、送ろうか?」

青い瞳で、面倒臭そうに告げられても、「お願いします」なんて言えるはずがないし、思えるはずもなかったので、私は無言で扉を閉めて、部室を後にしました。その後をついて来ることもなく、ふたりは部室にこもっていたのでしょう。


 ふと……そういえば、私たち生徒会からの手紙に目も通していないようでした。


 それなのに何故あのふたりは今日、部室にいたのか……少しだけ不思議に思いました。


「考えても仕方がないわ!」

私は、さっさとこのような学校、後にしようと、足早に校門に向かって行きました。まだ、男子校。合併すると言っても、殆どただ、この優伽丘が共学になるだけの形のため、校章も変わらなければ、校舎も変わりません。何の工事もされていないので、すれ違う学生も、当然男子生徒ばかりでした。まだ、新入生は入っていないのだから、居るのは新二年生と、新三年生ということになります。

(そういえば、あのふたりは三年生だったのかしら……?)

あれだけ大きな顔をしているのだから、きっと、そうに違いないとは思いますが、逆にそうだとしたら、あのようなふたりが生徒会執行部だなんて、この学校が荒れてしまうのは、自然の流れだと、頷けてしまいます。

「私たちが、変えなくては……この学校は、廃れてしまうわ」


 意を決する、春風の強い三月二十九日。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ