化身、そして現出
『それじゃあ、そろそろ現実に戻ろうか』
・・・ん?おかしくないか?あの柱に触れた瞬間、俺はこの暗闇に招かれた。
なら、この暗闇は重力の化身に因るものでなければ辻褄が合わない。
『よっ、と』
俺の疑問を捨て置いて、視界が、開ける。しかし、まだ暗闇。
ベトベトッ!
粘性の液体が目前に落ちる。
恐る恐る上を見上げると、黒珠の、龍。
『グルゥ。グリュァァァァァ!?』
鼻息荒く、啓を睥睨するその瞳は狂気を発している。
少なくとも、RPGでよくあるような、森の賢者!的な要素は感じられない。
『まぁ、その役目はペト君が担ってたからねぇ。本来、そういう役目を任せられる、
コイツみたいなのは、今まで必要なかったわけだし。』
なるほど、コイツの狂気の粘っこさは、その役目を奪われていたからなのでろう。
理性は感じられなくとも、知性を感じさせるその瞳はそれに起因する嫉妬心がなければ、
確かにその役目にふさわしいだろう。
『狙われてるのキミだけどね』
そういえば、重力の化身は俺が喰ったんだった。
なら、その役目を継いだのは俺なのだろう。
・・・めんどくさ!?
『じゃあ、どうする?喰らう?喰らっちゃう?』
いや、それでさっき、おかしなことになったんだろうが。
「と、いうか、お前出し惜しむなよ。停止させろよ」
『あちゃぁ、ばれてたんだぁ。それじゃ、』
――――――時よ、停まれ――――
黒龍の身体が色彩を失う。
(『お前は美しい』ってか)
『これで、停止完了っと』
俺の感じたロマンを返せ・・・。つか、マジで停めるとは思ってなかった。
啓が、もはや石と化した黒龍に触れる。
先ほどまで動いていたのに、氷像の如く冷たい。
『時間の流動から切り離した。常に流動する原子から、運動そのものを切り離せば・・・
まぁ、こうなるわけさ。水が氷になるのと同じことを、ボクの権能でしただけさ』
コイツ、今更ながら凄いやつなんだな。
・・・まぁ、言動のせいでただのアホに感じるんだけど。
「そういえば、お前って身体持てないのか?」
『キミがチカラの一部を貸してくれるなら、できるけど?』
「ならそうする。今の俺、傍から見たらヤバいやつだからな」
虚空に向かってボケ・ツッコミをする見慣れない服装の男。
完全に不審者である。事情聴取案件である。
「で、方法は?」
『今のボクがキミの一部である、という事実は捻じ曲げようがない。
だから、ボクがキミ自身の個体情報を内包していないといけない。
取れる手段は一つ、キミのスキルをボクが貰い受ける、という方法だ。
有体もなく言ってしまえば、株分けだね』
ヤな言い方するなぁ、コイツ。
『キミの、[化身クリュトゥス]があればいいから、サ』
「もとよりお前のチカラだ。俺が使うよりそっちのほうがいいだろう」
どうせ使い方ワカンないし。
『じゃ、勝手にやるね―。・・・ソォイ!』
気が抜けるわぁ!?
啓の動揺をよそに、災厄の化身は再び世界に現出する
――――ロリっ娘、だと!!??
しかも、銀髪碧眼ロリである。ペッタンである。
―――――何処から服出しやがったぁ!?
・・・だがそれもよし。裸ワイシャツとは、分かっているな!
「キミ変態かぁ!?」
「違う。俺は他の有象無象と違って、欲望を隠さないだけだ!!!」
「変態だぁぁぁぁぁぁ!?」
なにか不名誉な濡れ衣を着せられたがまあいいだろう。
「それで、お前は何ができる?」
「言った通りさ。停止・停滞に関することなら何でも。
完全停止空間を構築して絶対の盾を作ることも、
キミを除いた世界の固有時間を停滞させ、相対的にキミを加速させることもできる」
それは、強すぎて副作用とかが凄そうだけれども・・・。
というか、もしかしてお前か?あの暗闇作ったのは。
「副作用も代償もない。なにせ僕たち化身は、ただ在るだけで世界法則の権化なんだから」
「いやまて、ちょっとまて。・・・それって、俺も?」
「そうだよ?」
・・なるほど。俺の受難はまだ続くようだ。
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