覇道の前方
文法、おかしいかもしれません。ごめんね?
とりあえず、やるべきことを整理しよう。まずは、ギルドへの連絡。依頼の履行は、最早考えるべきではない。捜査というわけではないが、捜査の基本、現場保存だ。
紅く咲く華、紅閃霊草。摘み取るわけにはいかない。とりあえずは・・・、
「クリュ!連絡を、状況説明をギルドに頼む!」
「合点承知!全力で行くよー!」
コイツなら問題ないだろう。自身に掛かる空気抵抗をマイナスにすることで、事実上、音速まで一瞬で加速できる。身体に掛かるあらゆる抵抗を足掛かりに、あいつの強化は成り立っている。ギルドまでは30キロ以上の距離があるが、あいつならあっという間だろう。出し惜しみをしている場合ではない。また、周囲に存在する気体の運動・位置エネルギー。それをゼロにし、そのエネルギーを引っこ抜く。疑似的に、世界すら味方につけた彼女は、亜光速にすら届きかねないほどだった。
俺は、ここに来るだろう魔獣に警戒をする。紅閃霊草に普段は発揮しない特性が見られたのは、絶対支配者であったあの化身がいなくなったことで縄張り争いが発生。それによる急激な環境変化に適応を試みた結果、先祖返りのような形で、このような特性が発現したのだろう。まぁ、つまりは俺のせいだ。
その縄張り争いに、この領域が含まれないとも限らない。だから、俺が残らねばならないのだ。加えて言えば『深部の魔物は経験値が豊富だろうから』というのもある。《覇王》の効果を使って、衝撃・ダメージを喰らってしまえば、一切の怪我を負うことなく、霊格値とは無関係の『戦闘経験値』が得られるだろう。結局、この世界に来てから、戦闘と呼称する行為とは無縁なのだ。戦いの空気に馴染んでおかなければ。ノーリスクでリターンだけ得られるのなら、やらないわけにはいかないだろう。
『ギュルゥ、ギュリュアァアァァアァァアァ!!』
三本角の角竜、トリケラトプスに似たフォルムの、それ。
(早速、来たか。俺の経験値!!)
「貴様は、俺の糧とする。俺の決定だ。俺を更なる高みへと導け!」
傲慢に、不遜に。覇王であるために。
『グリュリュァ!?』
驚く様子ながらも突進してくる。
―――まずは、奴の気を此方に向ける。・・・は、十分か。なら次は、此処から離れる。
現場は荒らさないのだ。
――――――
――――
――
(条件は満ちた。なら、ただ存分に戦うのみ!)
『ギュ、ギュ、グリュァァアァ!!!!!』
啓の意を感じたのだろう。トライホーン(啓命名)が天に届けと咆哮する。
挨拶代わりの突進。体長7、8メートル、体重は数トンに達するトライホーンの突進は、掠るだけでも身体を抉られるだろう。
・・・もっとも、前述の理由で啓には効かないわけだが。
啓が避ける。すると、トライホーンは地面を抉り、啓を宙に浮かせ、そのまま鼻先の角で貫かんとする。啓は角の先端を両足裏で挟みこれに対処。そのまま掌底にて左眼を潰し、トライホーンの死角となる顎下に着地。啓を見失ったトライホーンを他所に、顎下から蹴り上げる。レベルの暴力によって空中を舞い、後方三回転半した後、頭から地面に落ちる。自重に耐え切れず、鼻先を残して角が折れる。
『ギュリュゥ!?・・・ギュギャァァアァァァ!!!』
僅か数瞬の間に何をされたか気づいたトライホーンはあまりの怒りに咆哮。木々の枝が轟音に揺れる。
(―――違う。あいつ、風を!?)
トライホーンの頭上2メートル、可視化できるほどに圧縮され、プラズマすら放つ暴風の大槌。雷光が、紅く染まった地平を妖しく照らす。
こちらを睥睨する右眼は、しかしその焦点はずれている。もはや死に体。しかしそれでも、譲れぬものがあると、その眼は語っている。
ならばこちらも、出し惜しみは無しだ。経験などと、知ったことか。お前は、俺が葬る。
「殺す!!!」
「グリュァ!!!!!!」
―――一瞬の交錯。あるべき死体は、無い。
「恥じることは無い。お前は俺の、覇道の前方にいた。ただ、それだけだ」
―――もっとも、聞こえちゃいないだろうがな。
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