原点回帰
半分説明回みたいなもんです。
「では、クエストの説明に移ります」
焦りに呑まれた啓の思考は、続くシアナの説明に我を取り戻した。平静を装い、気取られぬようにする。決して、気づかれてはいけないから。
こういう時は、話を熱心に聞き、理解しようとする、勉強熱心な新人を演出すればいい。教えを乞うものが熱意を見せれば、教えるものは容易にそうであることに気を取られる。
「クエストというと、当然そちらにもランクがあるのだろう。だがそうなると、存在位階が低い者はそうであるというだけで不利ではないだろうか。・・・或いは、存在位階と戦闘行為には密接な関係がある?」
「鋭いですね。えぇ、そのとおりです。生命体の討伐を行い、いくらかの経験値を得ることにより存在位階が少しずつ上昇します。同格存在、もしくは上位存在との戦闘行為を行った場合は、経験値獲得量が跳ね上がりますので、それを目当てに高難度依頼を受注し、命を落とす冒険者も・・・残念ながらおられます」
ほら、釣れた。
・・・でもそれ、俺も重力の化身討伐しませんでしたっけ?
まあ、いいか。
「だから、身の丈に合ったクエストをこなせ、と?」
「身も蓋もなく言えば、その通りです」
結構はっきり言うなぁ・・・、心臓鋼かよ。
どうやら、ただの男慣れした受付嬢ではないらしい。
――――――
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とりあえずその後、適当に霊草採取の依頼を受注した。
その霊草は、例の森に自生する珍しいもので、御柱が立っていた深部の辺りに生えているらしい。
彼らは再び、思いも寄らない形でその原点に回帰する。
―――――まぁ、例の如く、依頼書をよく読まなかった
どこぞの氷獄龍のせいなのだが
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森は深い。それは、三週間余り遭難した経験のある二人にとっては、十分すぎるほどに分かっていることだ。だからこそ、彼らは入念に準備をしようとした。だが、一文無しの彼らにできることなどなく、結局、着の身着のままクエストに向かった。
森の深部に調査が入っているのなら、それを目印にする。具体的には、足跡・足音・匂い・木に刻んだ目印などだ。森で遭難したことが、ここで生きた。森の不自然なところが、一目でわかるのだ。動物の痕跡を察知し、足跡から生物を割り出す。そんな、捜査官じみた芸当も可能となった。その技術により、森に入ってわずか数分で人間の痕跡を見つけ出した。
それを辿り、奥へ奥へと進みゆく。本人たちは気づいていないが、その速度は元の世界においての短距離世界記録を優に超えていた。《スキル》極点の効果だ。身体能力の下限を種族限界に設定する、という身体能力強化スキルの中でも最上のものだ。そのうえ、《称号》極点者の効果で、種族制限が完全撤廃されているので、成長が頭打ちになることもなく、さらに成長速度・成長後減衰も無制限となったことで、ただ歩くだけでも目に見えて身体能力が上がるのだ。実際、覇王スキルよりこちらのほうがチートの誹りを免れないだろう。
――――そして、辿り着いた先で見たのは、一面の緋だった。
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