氷獄
今回は少し重要回です。
「着いた、な」
「着いたねー」
やっと、街らしきものが見えた。実に三週間にも及ぶ間、遭難し人のぬくもりを欲していた。
あまりの安堵に、一瞬涙が出そうになった。隣で平然としている幼女に拳を落としてやりたいがこの感動を薄めるだけの結果になるだけなのは分かりきっているので自重する。
「門番さぁーん、開ーけーてー!」
「いや、開けませんよ」
開くわけもなかった。
「どのような目的でレガリア王国へ?」
「いや、迷っていたのだ。迷い人というやつだな」
「迷い人の割には飄々としているな」
「なにせ3日に一度はこうして迷うものでな。まさか集落の外れにまで来てしまうとは」
「ここいらに集落は無かったはずだが?」
疑われているな。実際怪しいわけだが。
何とか切り抜けなければ。
「そうなのか?一体俺はどこまで来たんだ」
「・・・埒が明かんな。お嬢ちゃんはどっから来た?」
「――――――控えろ、貴様には氷獄の龍たるボクを遮るチカラは無い」
刹那、世界が凍った。
たとえ錯覚であっても、その威は認識を凍らせるだけのチカラを持っていた。
「―――何を。・・・いや、聞いたことがある。
まさか、御身は封鎖郷の守護者、氷獄龍クリュトゥスか!?」
「悪いね。キミにかまっている暇はないんだ」
「い、いえ。それならお通りください。貴女を引き留めたとあっては、私の名誉に関わる」
「ごめんね?」
・・・俺、空気じゃないですかぁー。
――――
―――
――
―
「と、いうか。お前、龍種なわけ?」
「そうだよ?あれ?言ってなかったっけ?」
聞いていない。
「もともとが最強種の龍が化身のチカラも受け継いだのが、
このボク、氷獄の忌み名を持つ覇龍クリュトゥスってわけさ」
そう、どこか寂しそうに、儚げに。それでいて自嘲するように嗤う。
「・・・かつてのお前が何であろうが、これからは俺の所有物だ」
―――それは、慰めではない。ただ、そうであるという事実を再確認する。
「優しいご主人とかキモイよ?・・・いや、別に優しくないか」
「うっせ、幼女が意味深な表情してんじゃねえよ。笑ってろ」
そんな表情をする幼女など胸糞が悪いだろう、と。
「それよりクリュ、ギルド探すぞ」
「・・・うん!」
まだ表情の陰りは残っているが、これから先は本人の問題だろう。
たとえそれが、二言、三言の短い会話であったとしても、それは確かに、彼女に生きる意味を与えた。当たり前のことではあるが、生きる意志、希望があれば生きていけるし、なければ生きる屍だろう。
少なくとも彼女は今、快楽主義を演じ虚ろに嗤う、生きる屍でなくなったのだ。
孤独にして最強の真龍、氷獄龍クリュトゥスの歪みは正された。
最凶は、この時より正しく最強となったのだ。
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