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第9話 複合魔法


 馬車を降りた僕たちは、少しでも盗賊の集団から距離を取ろうと必死に足を動かした。

 吹き荒れる強風と、凍るように冷たい岩肌に体力を奪われながら、無心で登ること約一アワル。

 まだ小さなフラちゃんは大人たちが交代で背負い、ようやく岩山の三分の一辺りまで登ってきた。

 眼下には月明かりに照らされた草原が見渡せるが、別れた二家族の姿はもう見ることはできない。

 確認はできないが、おそらくまだ真下にいて逃げ出す隙を窺っているのだろう。




「──よし、あの岩陰で少し休もう」


 みんなの体力が限界に近くなってきたことをモーリスさんが感じ取り、森から死角になる窪みで小憩を取ることにした。


「身体の不自由な個所はあるか?」


 荷を下ろしたモーリスさんが腰掛けることもなくみんなの体調を確認する。

 みんな「問題無い」と返すが、声は弱々しい。

 荷物を下ろすとぐったりと座りこんでしまった。

 僕はつま先と指先が(かじか)んでとっくに感覚が無かったが、そんなことはみんな同じだろう。

 ぐっと堪えて手に息を吐き、体温が下がらないようにその場で足踏みをした。

 一度休んでしまったらもう動けなくなりそうな気がして、座る勇気もなかった。




「ラルク君、疲れているところ申し訳ないが……」


 しばらく休んでいたジャストさんが腰をかけていた岩から立ち上がると、  


「魔法の練習を一度しておきたいんだが、教えてもらっても構わないかな」


 やる気に満ちた顔で僕を見た。

 僕もただ足踏みしているのは辛い。

 それよりも……みんなのお荷物になることはもっと辛い。


 僕は僕のできることで精一杯みんなの役に立とう──と、


「教える、というのはおこがましいですが……本で読んだ知識でよければ、喜んで」


 ジャストさんに笑顔で返した。






「そうです、だいぶ良くなっています。もう一度やってみましょうか」


 ジャストさんとジャストさんの奥様、アリアさんはとても魔法を上手に使いこなしていた。

 ジャストさんは火属性第七階級古代魔法師、アリアさんは風属性第七階級現代魔法師の実力があるそうだ。


 モーリスさんとデニスさんとフラちゃんは、モーリスさんの第九階級魔法『火球(ファイアボール)』にあたって暖をとりながら僕たちの練習風景を見ている。

 モーリスさんも魔法はさっぱりと言ってはいたが、簡単な魔法は使えるようだ。



『──火連弾(ファイアボム)!』

『──風刃陣(ウィンドサークル)!』


 ジャストさんの『火連弾(ファイアボム)』に乗せたアリアさんの『風刃陣(ウィンドサークル)』は、円状の炎の刃となって岩を焦がす。

 威力こそ弱いけど、天鼠狼(バットウルフ)を怖がらせるには申し分ないだろう。


「この複合魔法は第六階級魔法に相当します。これなら魔物に囲まれた際の一手として十分効果を発揮しますね」


 それをみて僕は天鼠狼(バットウルフ)相手に強力な武器ができたと、二人に拍手を送る。


「第六階級! おお凄い! 私にこのような魔法が使えるとは!」

「本当ね! 魔法にこんな使い方があったとは、驚きだわ」

「喜んでもらえたようで何よりです。あまり練習に魔素を使ってしまうとジャストさんの魔石が頼りなくなってしまいます。おふたりの呼吸も問題ないですし、このぐらいにしておきましょうか」

「ラルク君! 君はいったい何者なんだ? その冷静沈着な振る舞いに、礼儀の行き届いた所作、ただの七歳の少年には見えないのだが」


 ジャストさんが興奮した様子で僕の両肩を揺する。


「い、いえ、ぼ、僕はただの平民で、す。は、母が作法にうるさい人、でしたので」


 ぐらぐら揺すぶられながらそう返すと、


「どうだ! フラと一緒になっては! ラルク君だったら大歓迎だぞ!」


 ジャストさんが僕をがばっと抱え上げ、アリアさんとフラちゃんの方へ突き出した。


「どうだい! アリア! フラ!」

「い、いや、ジャストさん、僕はレイクホールに行かなければならないので……」


 僕は足をバタバタさせながら「お気持ちは嬉しいのですが」と頑張って御断りをした。


「フラ、可哀そうに、五歳で失恋ね……」

「ママ、フラ、可哀そうなの?」


 アリアさんの割と真剣な落ち込み具合を心配したフラちゃんが涙声でアリアさんに近付いていく。


「ちょ、ちょっと!? アリアさんまで!」


 そんなアリアさんの茶目っ気に驚いた僕は嫌な視線を感じ……


 その方向を見ると──


 嬉しそうにニヤついているモーリスさんと目が合った。






「よし、じゃあラルクも英気を養ったようだし、そろそろ出発するか」


 モーリスさんが荷を担ぎあげ、みんなに声を掛ける。


「なんですか……英気って……」


 「ん?」と俺の耳元に口を寄せたモーリスさんが


「ああ、男ってのはな、女を振ることによって力を蓄える生き物なのさ」


 ヒソヒソと小声で囁く。


「……振ってませんし、僕はまだ七歳です。そんな力必要ありません」

「ふっ、俺が七歳のころはもっとギラギラしてたぜ?」

「……僕はモーリスさんみたいにぎらぎらしていませんから」

「おい。そんなに褒めるなって。さすがに照れるぜ」

「え? い、いや、僕褒めてなんて──」


 モーリスさんの軽口に僕が白い目で対応していたとき、


「──な、何の音だっ!」


 凄まじい轟音が岩山の下から聞こえ、それに驚いたデニスさんが大声を上げた。



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