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第85話 後処理


 エミルの潤んだ瞳に映る僕は小さく揺れていた。

 僕の黒眼にもエミルが映り込んでいるのだろうか。

 

 銀色の双眸の中の僕はなんだか少しだけ大人びて見えた。

 しかしエミルがまぶたを閉じてしまうと、僕の顔は見えなくなる。


 どうしたんだろう。

 瞳を閉じたエミルが僕との距離を詰めてくる。

 このままだと顔と顔がくっついてしまう。


 僕はどんどん近付いてくるエミルの、小刻みに震える長い睫毛を見ていたら──


「ハンッ! 小娘と小僧っこが骸に囲まれて何してるんだい!」


 聞き覚えのある声が部屋の中に響いた。


「えっ!? お師匠様!?」


「──ひゃうん!」


 突然のお師匠様の声に僕もエミルも驚く。

 エミルなど奇声を発して飛び跳ねるように僕との距離をとった。



 そんなに俊敏に動けるんだ……。



 入り口に姿を現したお師匠様を確認した後、目にも留まらぬ速さで離れたエミルを見ると、


「ち、ちまうんですっ!!」


 湯気が出そうなほど赤い顔で、伸ばした手をお師匠様に向けてぶんぶんと振っている。


「ハン! どうやら答えをみつけたようだね、エミル、庵に戻ったら詳しく聞かせておくれよ?」


 お師匠様が僕たちの方へと歩み寄りながらそう言うと、エミルは今度は首をぶんぶんと縦に振り続けた。


「お師匠様! どうしてここに!?」


「なんだい、説明が必要かい?」


 いや、それはそうでしょう、と言いたいところをぐっと堪える。


「おお! この隠れ者どもを兄者が! 流石ですな!!」


 お師匠様に続いてカイゼルさんも入って来た。


「兄者よ! なにやら素晴らしく良い雰囲気でしたぞ! もう少し声を掛けるのを遅らせた方が良かったですかな!」


 朗らかに笑うカイゼルさんに、


「……カイゼル、お前さん、ティアに殺されるよ……?」


 前を歩くお師匠様が恐ろしい言葉を放つ。


「なんですと! た、隊長にですか! それは容赦頂きたい! しかしなぜ隊長に!?」




「お師匠様! いったいどうしたんですか! カイゼルさんも無事だったんですね!」


 僕は像を見上げながら歩いているお師匠様と、ブツブツと呟きながら首を捻っているカイゼルさんに近寄っていった。


「弟子の様子を見にきて何か悪いことでもあるかい?」


 お師匠様が「ハンッ」と鼻を鳴らすが、見上げている石像に向けてなのか、僕の質問に対してなのかはわからない。


「え、いや、そんなことは……でもいったいいつからいたんですか?」


「『深呼吸してごらん? そうしたら大事なものを思い浮かべるんだ』あたりからかね」


「──! そ、そんなとこから……そ、そうだったんですね……気が……付かなかった……」


 僕の顔はエミルに負けず劣らず赤くなった。



 『うう、聞かれていたとは……』『め、目にゴミが入ってたので……』『なぜ隊長が……』

 僕とエミルとカイゼルさんが正常に機能していない中、石像を見上げるお師匠様の目だけが輝きを放っていた。







 ◆







「これで全員だね? じゃあ寝小丸、あんまり飛ばすんでないよ?」





 一通りの後処理を終えたお師匠様は、今度こそ本当にレイクホール城に報告に向かうという。

 お師匠様は僕の『加護魔術が行使できない』ということを想定して、最初から見守っていてくれたそうだ。

 僕だってお師匠様がこの場にいる、と知ってしまえばどこかで頼ってしまっていただろう。

 厳しい中にもお師匠様の弟子を想う優しさが垣間見えて、修行の辛さが吹き飛んだ。


 カイゼルさんは騎士団に報告に行かなくていいのかな? と疑問を抱いたが、そのあたりもお師匠様にはなにか策があるらしい。 

 『すべてわたしに任せるんだよ』とだけ言っていた。


 隠れ者の亡骸も運び出して埋葬しておいた。

 これはエミルが言いだしたことだが、全員同じ意見だった。

 武器や防具の類は隠れ者について研究したいので、まとめて庵に運び込むことにしたのはカイゼルさんの提案だ。


 古代の遺物である神殿については後日、国から調査団が来ることになるらしい。

 お師匠様もこんなところに神殿があることなど知らなかったそうだ。





「じゃあ、お前さんたち、明日の昼には戻るからこの娘たちのことを頼んだよ?」


 寝小丸さんの背中には蔓で括った二十九人の女性が乗せられている。

 僕とエミルはその人たちが落ちないようにしっかりと支える役だ。

 そうすると流石にカイゼルさんは乗れないので徒歩になった。

 それでも半日程度、今日の夜には庵に着く予定だ。



「ではお師匠様、一足先に戻って帰りを待っています」



 僕たちはお師匠様に挨拶を済ますと、二十九人の女性を連れて庵への帰路に着いた。





 

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