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第65話 未知の魔物


「これが最後の門……」


 イリノイさんと別れてから……えぇと、地下通路にいたのが三日だとして……

 一層で一日、二層で一日、三層で一日、四層は寝ないで踏破したから……

   

「七日、かな……?」


 森に入ってから四日か──。


 イリノイさんの指示より六日早く着いた。


 六日も早いんだけど……。


 こんなところまでミスティアさんは遊びに来ていたのか、と思うと手放しては喜べない。

 しかもミスティアさんは三歳にして往復していたんだ。

 

 あの距離をまた戻るなんて……


 想像しただけで気が遠くなる。



 やっぱり騎士になる人っていうのは小さい頃から他人とはどこか違うんだろう。

 僕が三歳の頃なんて……泉で光の珠を追いかけて遊んでいたもんな。

 これからはちゃんと修行してミスティアさんやファミアさんのように強くならないと。


「それにしても……」


 この森の門はいったい誰が何の目的で造ったんだろう。

 石造りの門はかなりの歴史を感じるものの老朽化している様子はない。

 何千年も前に造られたといわれても、逆につい最近造られたといわれても、どちらでも納得してしまいそうだ。


「やっぱり魔物が出てこないように造られているのかな?」


 しかし魔物も門を通らなければ別の層にいけないことを知っているような気もする。

 人鬼オーガなんて完全に門を通ってきたんだろう。

 それとも偶然門を通ってしまっただけなのか。



 おっかない魔物がいないか気になって門の向こう側を除いてみるが暗くて何も見えない。


「なんだかこの門を越えたら知らない場所に行ってしまいそうな感じが……っていうか本当に変なところに迷い込んじゃったりして……」


 だが、五層にある庵に辿り着くためにはこの門を通らなければならない。

 イリノアさんの地図によると、門を通らないとどれだけ進もうが次の層に入れないらしいのだ。


 まあ門のことはおいおい調べるとして、


「うだうだしててもしょうがない、とりあえず五層に入ってしまおうか」


 庵はこの門を越えればすぐのはずだ。

 そして早くこの人たちを庵に連れていかなければいけない。

 そのために一日中走り続けたんだから。 


 そのことが僕の背中を押し、「えいっ」と気合いを入れて門をくぐると、その先は──


 四層と変わらない森だった。


「まあ、それはそうか……」


 今までなんともなかったのに、最後の最後でおかしなことなどあってはたまらない。


 別に目の前にいきなり知らない街並みが広がっているとか、森が燦々ときらめく太陽の光で溢れているとか、っていうのを期待していたわけじゃないけど……。


 無感動で終わった目的達成ゴールに少しだけ拍子抜けするも、左右を見渡して庵の場所を確認する。


「ん? それっぽいのなんてないぞ?」


 門をくぐってすぐっていうから、てっきりここから見えるくらいのところに家があるのかと思っていたのに、それらしい建物は見当たらない。


 これ以上のことは地図には書いていないし……。




 ◆




「どこだよ……」


 とりあえず辺り一帯を探してみたが、庵と思われる建物など影も形もなかった。

 担架を置いて大きな岩に登って高いところから見回してみても、建物の屋根も、家を囲う柵ですら見当たらない。



 門を出てすぐって書いてあるのに……。


 でも、考えてもみれば魔物がいる森の中で、すぐに見つけられるような場所に家を建てるわけがないか。

 それこそ魔物に『襲ってください』と言っているようなものだ。



「疲れた……」


 終点だと思ったらその先にまだ道があったときのように、張り詰めていたものが一気に緩んで全身の力が抜けてしまった。


「いや、僕がしっかりしないと!」


 それでも五人のことを考えて気を取り直す。


「もう一度地図を見直してみよう」


 見落としがあるかもしれない──と、地図を取り出し登った岩に腰を下ろす。


 だがいったん身体を休めると空腹感が込み上げてくる。

 思えばファミアさんにもらった携帯食を口にしてから今まで飲まず食わずだった。


「はは、我ながら少し頑張りすぎか」


 これじゃあ悲観的な思考になってしまうのも無理はない。

 五人には申し訳ないけど少しだけ休憩をもらおう。


 僕はそう思い、岩にしては柔らかく、草も生えていて座り心地の良いこの場所でファミアさんにもらった携帯食を食べることにした。


 地図に目を落としながら、相変わらず霞のような携帯食を一口食べようと口を開けたとき──


「うわ! じ、地震だ!」


 突然、座っている大岩がぐらっと揺れる。


 僕は食料をしまい五人のもとへ駆け付けようと慌てて立ち上がり──


「な、なんだこれ!!」


 飛び降りようとした岩の高さが明らかに登ってきたときよりも高くなっていることに驚愕した。


「い、岩が動いてる!?」


 柔らかい岩肌が波打つように動くと、生えている草が一斉にぴんと伸びる。


 それはあたかも動物の毛のようにも見え──


「って、い、岩じゃない! 生きてる! ど、動物の背中だ!」


 そう、僕が登っていたのは岩ではなくて、長い毛の生えた動物の背中だった。

 そればかりでなくさらに最悪なことは、これほど大きな生き物といったら魔物以外にはいないということだ。


 こんな大きな魔物に気が付かなかったとは、知らず知らずのうちに疲労が溜まって集中力が欠如していたのか。


「このままじゃマズイ!」


 僕は無我夢中で魔物の背中と思われる場所から地面目掛けて飛び降りた。


 そして急いで五人のもとへ駆け付ける。


 良かった! 五人は無事だ!


 五人の無事を確認した僕は、とにかくこの場から離れようと、担架とカイゼルさんの蔓を引っ張った。


 と、そのとき


「見つかった!」


 魔物が太い首をこちらに回し、爛々と光るふたつの目玉でもって僕たちのことを睨みつけた。


 その目に射竦められた僕は声を上げることもできない。


 ゆっくりと近寄ってくる四つ足の魔物は、文献でも見たことがない未知の魔物だった。

 馬車など比べ物にならないほど巨大な体、鋭く縦に光る瞳孔、恐ろしく大きな三角の耳、前足も後ろ足も首と同じくらいに太い。


 そして腹を空かしているのか、大きく裂けた顎門を開くと牙を剥き出し、凄まじいまでの咆哮をあげ──


『ニヤーオ!』



 え?


 にゃーお?




 僕の身体に髭の生えたふさふさの頰を擦りつけてきた。





 


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