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第60話 深まる?親睦


「あのときさぁ、アクアディーヌ、一瞬止まってなかった? ため息まで吐いてたでしょ?」



 …………。



「アクアディーヌってさぁ、どんなことができるの? もしかしてなんでも凍らしちゃうの?」



 …………。



「アクアディーヌってさぁ、長いから、アクアって呼んでいい?」



 …………。






 もうすぐ第四層だ。

 一時弱まっていた雨も、少し前からまた強く降り出している。


 もう真っ暗だから適当な場所で夜を明かそうかとも考えたが、不思議と身体は全然疲れない。

 だから休むよりは先に進んでしまおうと、ファミアさんから譲り受けたランタンを片手に地図を見ながら頑張って距離を稼いでいる。


 ここに来るまで魔物に遭遇することはなかった。

 ファミアさんが粗方倒し尽くした、ということもあるけど、ファミアさんの言う通り『キミとボクの戦いに恐れをなして魔物たちは出てこないと思うよ』という話は本当のようで、どうやら魔物たちはすっかり鳴りを潜めてしまったようだ。それほどに精霊がもたらす影響は大きいということだろう。(獣は普通に歩いていた)

 まあ、精霊を使役するという加護魔術が使える聖教騎士たちがスレイヤ王国を魔物から護っているんだから納得できる説明ではあるのだけど、いままで精霊の存在なんて知らなかった僕からしてみれば、精霊が魔物除けとしても効果を発揮するなど驚きだった。

 


 そして特段危険な目に遭うこともなく第四層へと続く門まであと少し、というところまで来ていた。

 今夜は門の近くで夜を明かそうと考えている。






「アクアってさぁ、どうして僕にくっついてきたの? イリノイさんっていう人から聞いたんだけど、もう契約交わしたことになってるの?」



 …………。



「アクアってさぁ、原初の精霊っていうみたいだけど、他のアクアディーヌとどう違うの?」



 …………。



「この森の奥には他の精霊もいるんだって。会えるといいね」



 …………。



 僕も暇つぶしに喋ってるだけだから別に返事はいらないけど、ずっとこんな調子だ。

 ひとり寂しく歩いているより気分が楽だし、何より精霊の存在を知った今、イリノイさんの『精霊を身近に感じなさい』という教えに背くわけにはいかない。

 それに僕を護ってくれたアクアディーヌのことをもっと知りたいし、仲良くなりたいとも思う。

 だからこうして一方通行の会話でも苦にならず、アクアディーヌは聞いてくれていると思いこんで頑張って話しかけている。

 





「このあたりだと思うんだけど……ん? あれが門かな……」


 そろそろ目的の場所のはずだ、とランタンを高くかざす──と、明らかに人の手が加わっているとわかる建造物が灯りの先に照らし出された。

 大自然の中に突如として現れた石造りの建物は異様な雰囲気を醸し出している。

 しかし三つ目ともなると僕も慣れたもので、草を掻き分け近付いてみると──


「やっと着いた!!」


 はたしてそこには太い蔦と蔓に覆われた、厳かで巨大な門がそびえていた。

 上部には四の意味を持つ印が刻まれている。

 第四層への門で間違いなさそうだ。

 

 

 よし、今夜はこの近くで朝を待とう。

 そして朝になったら門をくぐって──明日の夜には五層の門に付けるといいな。



 今後の予定をぱぱっと整理して、雨風を凌ぐのに適当な場所がないか周囲を探索する。 


(うろがあれば最高なんだけど……)


 ファミアさんが造ってくれた空間はとても心地良かった。

 当然、あれほどのものは僕には造れないけど、うろのほうが岩陰より数倍も快適なことを知ってしまった。


 だから大木を探すことに躍起になり過ぎて──


「──ッ! うわッ!!」


 足もとが注意散漫となり、何かにつまずいてしまった。


「痛てて……」


 飛んで行ったランタンを拾いに行き、何に足を取られたのか確認するために戻って地面を照らしてみると──


「──うわあッ!!」


 人のようなものがうつ伏せで倒れていた。

 

「ひ、ひと!?」


 いや、魔物の罠かもしれない。

 文献には、然も弱っているふりをして倒れ込み、のこのこ近付いてきた敵を一息にかみ殺す姑息な魔物もいると書かれていた。

 僕はそのことを思い出し、迂闊に近寄るのは危険だ、と、近くにあった木の棒を手に取ると、その棒で突いてみる。

 背中を突っつくが反応はない。次に頭をコツコツと叩いてみる。

 くすんだ金髪の髪型から察するに、どうやら男の人のようだ。

 しばらく突いてみたが、突然襲い掛かってくる、ということはなさそうだった。


(あれ? もうひとりいるぞ?)


 折り重なるようになっているので気が付かなかったが、よく見ると下にもひとりいる。

 念には念を入れて、下の人の頭もコンコンと棒で叩いてみた。が、上の人と同様に動く気配はない。


「し、死んでる……のか……な?」


 そう考えたとき、一瞬恐怖に顔が引きつった。

 今までは運よく生き残ることができたけど、いつ自分がこうなってもおかしくないんだ、と。

 そして山奥で人知れずこうして死んでいくことも、可能性としてはあり得るんだ、と。

 

 魔物に襲われたのだろうか。

 

 このままでは遅かれ早かれ獣に貪られてしまう。

 それでは死者の魂も浮かばれないだろう──と、僕はふたりの遺体を土に埋めてあげようと考えた。

 幸いにもお腹はまだ空いていないし、体力もまだまだ有り余っている。

 ふたり分の穴を掘ったところで明日に差し支えるということもないだろう。 


 僕は触ることに怯えながらも、念のため生死を確認しようと、まずは上の男の人の外套を掴んでごろんとひっくり返す──と、仰向けになった男の人の顔を見ることができた。

 やつれてはいるが顔色は良く、とても死んでいるようには見えない。 


(生きてるのか!?)


 鼻の先に手のひらをあてると──微かではあるが確実に呼吸をしている。


「まだ生きてるぞ!!」


 僕は急いでもうひとりの方も息があるか確認しようと仰向けにした。

 そしてその人物の素顔が露わになったとき──


「あッ!! あのときのッ!!」


 その人物が奪魔人鬼アブソーブオーガに襲われそうになっていた女の人であることがわかって大声をあげてしまった。

 すると僕の叫び声に反応したのか、


「うぅ……」


 銀色の髪の女性が呻き声を漏らした。




 

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