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第53話 衝撃的な出逢い





「お腹が……空いた……」




 人鬼(オーガ)と遭遇してから体感で五、六アワルは経ったと思う。


 僕は地図を頼りに第四層へと続く門を目指して頑張っている。




 ここに来るまでに人鬼(オーガ)ほどではないものの、小鬼(ゴブリン)人豚(オーク)といった多少の知能を持つ魔物も散見された。が、幸いなことに、注意深く器用に立ち回っていることもあって、魔物に見つかるよりも先に発見することができていて、今のところ戦闘になるというようなことはなかった。




 なんとなく魔物の気配を感じる"カン"のようなものが冴え渡っているような気がする。


 それに合わせて、この強い雨が僕の匂いを流してくれている、という効果も大きいのだろう。




 というわけで、目下のところ僕の敵は魔物というよりは




「そろそろ休憩しようか、精霊……」








 …………。








「……返事はなし、と……」




 空腹と孤独だった。




 あれからずっと精霊に話しかけているのだが、一切返事はなく、一方通行の会話(独り言)が今も続いている。




「確かに聞こえたんだけどな……」




 ここまで反応がないと、あれは興奮状態にあった僕が、勝手に精霊が近くにいると思い込んだことによる幻聴だったのかとさえ思えてくる。


 でもあの光は幻などではない。


 魔力測定の時に奔った閃光の数倍は眩しかったほどに凄まじかったのだ。




 それに今でも脳裏に焼きついているあの光景──。




 全ての生命活動が停止してしまったような、世界には僕一人しか存在していないと錯覚させられてしまうような、畏敬に満ちた神々しい景色。




 あれほどのことを僕がしたとは、とてもではないが俄かには信じられなかった。








「そういえばあの女の人に光は見えたのかな……」




 近くにいたんだから僕が気付かないことも見ていたかも知れない。


 今となっては確認のしようがないが、やはり気になる。


 それにあの後、無事にあの場から逃げることができたのか、ということも気にかかり、立ち止まってしばし思案に耽った。




「とはいってもここまで来れたんだから腕には自信が──ん? この感じ……また魔物か……?」




 考え事をしている最中に、またなにかの気配のようなものを察知し、サッと身を低く構えた。




(近いぞ!)




 考え事をしていたせいか、かなり近くに来るまで気付けなかったようだ。


 人鬼(オーガ)を見たときのように、背中に緊張が走る。




(どっちだ!?)




 僕は身を屈めて息を殺した。


 跳ね返る泥混じりの雨が顔を汚すが、気になどしていられない。




(なんだ! この感覚!)




 なんとなく近くに気配は感じる。が、今まで遭遇した魔物とは明らかに異なる雰囲気に、いっそのこと走って逃げ出したい衝動に駆られるほどに、恐怖心が湧き起こってくる。




 張り詰めた空気の中、そのままの姿勢でじっと耐え続け幾許かの時が過ぎ──。




 雨は激しさを増し、虫の音も鳥の羽ばたきも聞き取れない。もはやこの状況で聴覚は使い物にならなかった。


 そんな中、死にものぐるいで気配を感じ取ろうと息を詰めて目を閉じる。






 そしてさらに時間は流れ──。






 どれほどの時間、身を潜めていたのだろう。


 一瞬気配が消えたような気がして少しだけ息を吐いた。


 細く長く吐き出すと、新鮮な空気を肺いっぱいに流し込む。


 そしてまた大きく吐き出そうとした瞬間──。






 消えていた気配が僕の真後ろに突如現れ、






(しまっ──!!)






 振り向こうとしたまさにそのとき






「やっと見つけた!」






 至近距離で声がした。




 僕はそのことに「──ぶはぁッ!!」と息を吐き出し、盛大に尻もちをついてしまった。




「な、な、な、」




 ふいのことに声を失っている僕を気にする様子もなく、外套を着た人物は僕を見下ろしながら続ける。




「キミ、凄いね! ボクの気配に気がつくなんて!」




 そう言い、深くかぶっていたフードに手をかける。




 僕は開いた口の中に雨が入り込むのもそのままに、地に両手をついた姿勢でそれを見ていることしかできなかった。




 その人物がフードを後ろに外すと素顔が晒される。




 碧色の長い髪と、その髪と同じくして全てを見透かすような碧色の瞳が印象的な、おそろしく綺麗な女の人だった。




 そして、その特徴の最たるものに気が付いた僕は──




「エ、エルフだあぁッ!!」




 泥だらけになるのもお構いなしに後退りしながら大声で叫んだ。




「ん、正解!」




 膝に手をつけ前屈みになったその人が、文献で見た妖精そっくりの整った笑顔で僕を見る。




 そして片方の手の人差し指をあごに持っていくと




「うん、やっぱりだ。キミは精霊に愛されている」




 とても嬉しそうに片目を瞑る。






「な、な、な、」




 僕は声にならない声を喉の奥から出しながら、エルフの女の人を見続けた。












 これが僕と聖教騎士団序列一位、ファミア=サウスヴァルトさんとの衝撃的な出逢いだった。

















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