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第119話 暗闇の中の少女

予定していた『共闘』の前に、一話挟みます。



「ここは……」


 少女が発した弱々しい声は、唇から漏れると同時、湿る空気に吸い込まれていった。


「どこ……なの……?」


 少女は力無げに上半身を起こすと、不安そうに周囲を見回す。

 しかし、辺りは暗く、視覚からはここがどこであるかという情報は得られなかった。


 少女は、視ることを諦め、別の感覚に頼る。


 手のひらから伝わる、粗く削られた岩肌のような硬く冷たい地。

 肌に纏わりつく、雨が上がった直後のような重く湿った空気。

 それらから少女は直感的にここが外であると判断するも、青く煌めく湖の恩恵がないことに戸惑いを覚えた。

 では建物の中なのか──。

 しかし少女は黴臭さの混じる、このような粗末な部屋に記憶はなかった。


「早く帰らなければ……」


 少女は立ち上がろうと全身に力を入れる。


「──つっ」


 しかし、背中がひどく痛むことに、美しい顔を歪めた。

 こんな場所で寝ていたのだから無理もない。

 痛みを堪え、ふらついた足取りで立ち上がった少女は──、


 どれほど間、この場で横たわっていたのか……

 それよりも、なぜこのような見知らぬ場所で……


 混乱する思考に、俄かに焦燥感が襲ってた。

 鼓動が少しずつ早くなり、こめかみのあたりが、ツン、と痛くなる。


「まずは落ち着かないと……」


 不安を振り払うように頭を小さく振った少女は、何度か深呼吸をすると、いま一度周囲を確認した。

 すると、暗闇に目が慣れてきたからか、心拍数が整い視野が広がったからか──頭上から微かな光が注いでいることに気がついた。


「やはり外──」


 見慣れた月明かりを期待して夜空と思しき頭上を見上げた少女は、


「──っ!」


 その光の源に一瞬息を止めた。


 淡い明かり。


 確かにそこに光はあったのだが──それは月から降り注がれているものではなく、魔道具によるものだった。

 そしてその魔道具から発せられる妖しい光は、なにかを浮かび上がらせているのだが──、


「──はうっ!」


 それがなにであるか理解した少女は再び息を呑んだ。


 魔道具によって照らし出されていたもの。それは巨大な石像の頭部だった。


 闇間に浮かぶ巨像の顔──。


 その不気味な光景は、筆舌に尽くし難い恐怖を少女に与えた。


 一刻も早くここから立ち去らなければ──。


 少女の本能が危険を促す。


 仮に、像が少女の信仰する神であったのだとすれば、少なくともここまでの恐怖心は抱かなかっただろう。

 むしろ反対に、跪き、祈りを捧げていたかもしれない。

 しかし、いま、少女を見下ろしているのは記憶の欠片にもない顔──。

 再び激しい不安と動悸に襲われた少女は、とにかくここから離れようと、方角もわからないまま闇雲に駆けだそうとした。


 だが、その時。


「目が覚めたか」


 巨像の後方から声が聞こえた。

 声とは反対側、巨像の正面に向かって逃げ出そうとしていた少女は、ビクリ、と身体を硬直させ、動きを止めた。

 そして、ややあって覚悟を決めたかのように声のした方へ向き直る。

 すると薄暗い明かりを手にしている黒い影がそこに現れていた。


「どこへ行く」


 影から発せられる無機質な男の声に、少女の背筋に悪寒が走る。


 まさか──。


 少女は慌てて身に着けていた衣服を確認した。

 しかし、着衣に乱れがないことにわずかに安堵するも、少女は、


「ど、何方ですか……?」


 震える声で人影に向かい誰何した。


 だが、男はそれに応えることはなく、一歩、また一歩と少女に近寄ってくる。


 少女は男が近寄る分だけ、ジリ、ジリ、と後退る。


「ここはどこなのですか……?」


 少女の問いに、やはり男は応えない。


 心の底から恐怖を覚えた少女の手は、無意識のうちに髪飾りに触れていた。




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