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第104話 武術科主席との出会い



「だから! 私はあのときの花吹雪みたいなのを想像していたのよっ!」


「そ、そんならそうと──」


「先輩を喜ばせてあげようと思ったのに! それなのに! なんなのよ! あのチカチカした気持ち悪い蛇っ! みんな怖がって、女子なんて気絶しちゃってたじゃない! わ、私だって一瞬腰が引けちゃったし──」


 医務室で目が覚めた俺は、リーゼ先輩から大目玉をくらっていた。

 無論、俺が行使した加護魔術のことについてだ。


 室内には、ここまで俺を運んできてくれたのだろうリーゼ先輩と、それに付き添ったのか──たしかハウンストンといったか──アイザルを庇った女生徒がいた。


 リーゼ先輩は、隣にいるそのハウンストン先輩に俺の魔術を見せたかったんだというが……


「なんなのよっ、て言われても……できるだけ派手にと言われたずらぁ……」


 俺は先輩に言われた通りのことをしただけなんだけど……

 精霊たちも頑張ってくれたし。

 それなのに……


 どうやら俺と先輩では感性が大きく異なるようだ。


「ちょっと! 派手っていってどうしてチカチカ蛇なのよ! お花に決まってるじゃない! 空気で察しなさいよ!」


 空気で察しろって……


「……そんなぁ。『派手』が花なんてぇ、あの限られた会話からそれを連想しろっていう方が無茶ずらよぉ」


「私はあんたと違って女子なの! 可愛くて綺麗なものが好きなの! だったら蛇なんかよりお花じゃない! 交流戦のときのあの魔法だって、私、感動して涙が止まらなかったんだから!」


「へえ。そうずらかぁ? でもそんなこと一度も言ってなかったじゃないずらかぁ」


「い、言うわけないでしょ! 人前で涙を流したなんて! あんただって絶対馬鹿にするじゃない!」


「しないずらぁ。でも女子というのなら別に人前で泣いても──」


「そ、それとこれとは別よ! ちょっと褒めるとすぐ調子に乗るから言わなかっただけ! そんなことより早く先輩に謝りなさいよ!」


 はいはい。

 こんなことならあのときとっとと逃げ出すか、おとなしくアイザルに斬られていた方がましだったかもしれない。


 アイザル対策を手伝ったうえに全身を真っ二つに斬られた俺としては多少(というより大分)納得いかない部分もあるが、ここは謝っておいた方が早く解放してもらえそうだ。

 気を失っていたのは僅かな時間だが、ここにいては鍛練場にいた生徒が仕返しに押し掛けてくるかもしれない。

 それに俺の目的はあくまでも書物院だ。

 こんなところで油を売っている暇は無い。


 俺は寝かされていた長椅子から立ち上がると


「ハウンストン先輩……でよろしかったんずらねぇ。さっきはすまんかったずらぁ。危害さ与えるつもりはなかったんだがぁ、驚かせてしまったようで申し訳なかったずらぁ」


「わ、私はそのようなこと……」


「それだけ? それだけじゃないでしょ?」


「え……と? 他に……?」


 なにかしたか、と、俺は首を捻った。


「あんたねえ。先輩の裸を衆目に晒したことについてはなにも思っていないわけ!? あんなに大勢の男子がいる前で、学院一美しい先輩の下半身を丸出しにしたのよ? 花も恥じらう美女の下半身を丸裸! 丸裸よ? 下半身丸裸! それなのに見るだけ見ておいて謝罪のひとつもないなんて──」


「リ、リーゼ! そんなに裸と……」


 あ~はいはい。

 謝ります。謝りますとも。

 

「ハウンストン先輩。大勢の生徒さんの前で先輩を辱めてしまったこと、あわせてお詫びするずらぁ」


「そ、そんな! 私は謝られるようなことは……なにも……ゴホッ!」


 と。

 ハウンストン先輩が突然咳き込んだ。


「先輩! お身体の具合が悪いのですか!?」


 リーゼ先輩が慌ててハウンストン先輩へ駆け寄り、背中を摩る。


「い、いえ! 少しむせてしまって……と、とにかくその話は終わりにしましょう!」


 このハウンストンという女性、やはり身体が弱いのだろうか。

 だとすると、あの驚異的な身体能力は……


「先輩、少し楽な姿勢に──」


 リーゼ先輩がハウンストン先輩を寝台に座らせる。

 ハウンストン先輩は胸元の留め金をひとつ外すと、大きく深呼吸をした。


「リーゼ先輩。ハウンストン先輩はどこかお身体の調子が?」


 俺が真面目な口調で、水差しの置いてある台へ向かうリーゼ先輩に尋ねると


「ん~。実は今日お医者様から外出許可が下りたばかりで──」


「リーゼ……私のことは心配しないで。もう大丈夫ですから」


 ハウンストン先輩がリーゼ先輩の言葉を遮るように手を翳す。


「先輩、この男のことなら信用しても大丈夫だと思いますよ? 少なくともアイザル先輩なんかよりはずっと。それに私──」


 そう言いながら、リーゼ先輩がハウンストン先輩に水の入ったグラスを手渡す。


 あの先輩と比べられるのも複雑だが……


「──こう見えてこの人のこと、先輩の次に信用したりしていますから」


 む。

 そんな嘘を吐いてまで……


 しかし、リーゼ先輩がそう言ったことと、受け取った水で喉を潤したことで、ハウンストン先輩の表情は若干柔らかくなった。


「……そういえばふたりはお知り合いのようですが、どのようなご関係なのですか? リーゼのことを先輩と……それに私の名前もご存知のようですが……?」


 ハウンストン先輩が俺とリーゼ先輩を交互に見る。


「──もう普通に喋ってもいいわよ。スティアラ先輩ならばれても大丈夫だから」


 『ほら。フードを取って自己紹介しなさい』と、リーゼ先輩が催促する。

 まあ、リーゼ先輩がそういうのなら、いいということなのだろう。


 俺は姿勢を正すと上着を脱いだ。

 そして魔法科の制服が露わになったところで、


「──申し遅れました。魔法科学院一学年、ラルクと申します。──先ほどより数々の御無礼、心よりお詫び申し上げます」


 上級生に対して失礼のないよう、できるだけ丁寧に挨拶をした。



 

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