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第98話 体験入学生、ラーク。武術科学院に現る。そして捉われる。



『姉貴が少しばかり強ぇからって調子に乗ってんじゃねえぞ!』


『そんな……僕は……』


 ──どうするべきか。


 事情もわからないのに間に割って入るのは、さすがにお節介が過ぎる。

 かといって暴力行為に発展するようであれば、このまま見過ごすわけにもいかない。


『だいたいお前さぁ。そんなに魔法に未練があるってんならここを辞めてあっちに行けよ』


『お前がいなけりゃ、その分誰かが入学できたんだぜ? アイザルさんの弟さんとか』


『そ、それは……』


『今からでも遅くねえから辞めちまえっての』


 なんだか不穏な空気だが……


 とりあえず俺は、いったいどんな状況なのかと様子を窺うことにした。


 気配を抑え、木の陰に隠れつつ声のする方へ近付くと──

 木々の隙間から見えてきたのは──制服姿の男が四人。


 恰幅のいい男三人が、細身の男を木に追い詰めているという構図だった。

 追い詰めている男は三人とも腰に剣を、そして追い詰められている方は背中に弓を背負っている。


『黙ってねえでなんとか言えよ! ──アイザルさん。こいつ、どうします? 鍛練中の事故に見せかけて腕を折っちまいましょう!』


『なよなよしやがって、むかつく野郎だ! 治癒魔法でもすぐに治らないように粉々にしてやりましょう!』


『まあ待て。こんな奴でも寮の掃除ができなくなるのは好ましくないからな──』


 一歩下がってひとり斜に構えているのがアイザルという男か。

 ここからでは腕の刺繍が見えないので、何本線かはわからない。


『──俺は寛大だから腕は勘弁してやろう。そのかわり──そうだな。その目障りな弓をこっちによこせ。腕の代わりに真っ二つに叩き斬ってやる』


 アイザルという男が剣を抜く。


『そ、そんな!』


『半端野郎が生意気な! アイザルさんに盾ついてんじゃねぇよ! ほら! それをよこせっつってんだよっ!』


『痛っ! や、止めてください! こ、この弓だけは!』


 なるほど。

 理由まではわからないが、あの細い少年が三人に脅されているというわけか。


『うるせぇ! 弓だけで勘弁してやるってんだ! 感謝しろ!』 


『ほらっ! さっさと渡さねえと腕ごと斬り落とすぞ!』


『おい、お前ら。しっかり押さえとけよ』


『や、止めてくださいっ!』


 これ以上は危険だ。

 お節介かもしれないが──あの三人には少し冷静になってもらったほうが良さそうだ。


 手遅れになる前に──


 より深くフードを被った俺は、三人組の背後から近寄ると声をかけた。





「あ、あんのぉ……ちょっと道さ迷ってしまって……申し訳ねぇが、ちょっと教えてほしんだけんどもぉ……」


「な、なんだテメェは! どっから出てきやがった!」


「そ、そぉんな驚かねぇでも、そこさ通りがかったらちょうど人の声さ聞こえてきたもんでよぉ」


「だ、誰だてめえ!」


「ああ、おいらはラークちゅうて、来年ここに入学さ希望しているもんだぁ」


「ああ!? な、なんだこの田舎もんは!? いいからとっとと向こうへ行け!」


「いつでも見学できるちゅうて来たけんだけんども、どこさ行ったらええんかのぉ」


 ()()というときは、『おのぼりの学院見学者ラーク』を装うようにとのエミルの作戦だが……こんなんでいいのだろうか。


「はあ? 見学だぁ? んなのできるわけねえだろ! 白宮に入る資格を持ってるんなら別だがな!」


「おい! そんなおかしなヤツ相手にすんなって!」


「おい。田舎者。俺は寛大だから今すぐに立ち去ればお前のことは忘れてやる。ほら、とっとと学院から出て行け」


 手に剣を持つアイザルという男が俺に凄んでくる。

 が、俺はとぼけたふりを続ける。


「あんのぉ、余計なお世話かもすれねぇが、三人がかりでひとりを甚振るのって、ちょっとどうかと思うんずらがぁ」


「あ? だからてめぇには関係ねぇだろうが! 痛い目に遭いたくなかったらとっとと消えろ!」


「三対一でないと勝負さできねえだか……なんでぇ、この学院もたいしたことねえずらなぁ。やっぱり魔法科学院の方が紳士的ずらぁ。やっぱりあっちの方がよさそうずらぁ。ほんなら邪魔したのぉ」


 そう言い捨て、俺が背中を向けると──


「ちょ、待て! このクソガキ! 今なんて言いやがった!」


「魔法科の方が紳士的だとぉ!」


 挑発に乗った男が俺の肩を掴もうと──その瞬間、俺は身を翻してするするっと細身の男の横についた。


『今のうちにこの場から離れるんだ』


 そして小声でそう言うと、


「え!?」


『いいから早く人のいる場所まで走れ!』


「は、はい!」


 細身の男を三人から逃がしたのだった。


「ま、待ちやがれ!」


 男らのうち、下っ端らしきふたりが走って追いかけようとするが、


「あんのぉ。これさいらねえんだか?」


 俺が先ほど男の腰から奪い取った剣をブラブラッと前方に掲げると、


「こ、この野郎!」

「い、いつの間に!」


 ふたりは追いかけるのをやめて俺に敵意を剥き出しにした。


「このクソガキ! どうしてくれんだよ! 逃げられちまったじゃねえかよ!」

「てめぇ!」


 男らが憤慨して顔を真っ赤にする。と、


「興醒めだが……こいつらの剣を盗むとは、なかなか有望じゃないか」


 アイザルが剣を鞘に収めつつ俺に歩み寄り、目を光らせる。


「腕に多少の自信はあるようだが、ここは盗賊を育てる施設ではないのでね。武術がなんたるかを見学したいのであれば──」


 そして──


「──ついでに少し俺が指導してあげよう。武術のいろはと……万が一入学した際に、二度と生意気な態度を取らないよう、ここでの上得関係をね。俺は寛大だから」


 ぞっとするほどの冷酷な表情を見せた。


「アイツの代わりだ! こいつを鍛練場に連れて行けっ!」


「な、なにすんだぁ! おいらはただ見学にぃ──」


 そのとき、アイザルが着る制服の刺繍がはっきりと確認できた。


 一本線──。


 学年まではわからないが、おそらく俺より上級だろう。


 面倒事は避けなければ…… 


 だが、今俺が逃げてしまえば、こいつらはきっとあの少年を追うだろう。


 それなら俺は適当なタイミングで逃げ出すとするか──


 そう考えた俺は、されるがままに身体を預けるのであった。


 決して制服と顔を見られることのないように気を遣いながら──。




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