表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/254

第91話 青巫女の神殿



「つまり、この城の地下が怪しいっていうのか?」


「ここは湖のほとりに建てられた城だよ? 巨大な地下空間といっても構造的に無理があるんじゃないのかな? 強度とか……クラウズ君はどう思う?」


「そうですね。俺もスレイヤ城に地下空間があるなんてことは聞いたことがありません。……でも、それこそ強大な魔道具があれば──サリアはなにか知っているか」


「え──」


「ちょ、ちょっと待ってくれクラウズ。なあラルク。その、『嫌な感覚』っていうのは具体的にどんな感覚なんだ? 俺たちにもわかるように説明してくれ。やばいような危険が迫っているのなら家族にも知らせたい」


「あ、ああ……そ、そうだな……俺もそれを知りたい」


「お、俺も……」


 説明を終えた俺は質問攻めにあっていた。


 俺の出自についても訊きたいことはあるのだろうが──クラウズやミレアが率先してそういった質問をさせない空気を創り出していたため、俺に関する質問は飛んでこなかった。

 こんな状況を望んでいたわけではもちろんないが、結果としてひとまず俺は有事に救われた格好となったのだった。 


「申し訳ありませんがはっきりとしたことはまだわかりません。それでも分かりやすくいうのならば……そうですね。学院で遭遇した巨大な黒神と比較して、ということがこの場に相応しいかは別ですが、今のところそれに匹敵するほどに差し迫った脅威は感じません」

「そ、そうか……それなら良かった……」

「しかし安心はしないでください。やはりこの目で見て確かめないことには。前回も俺が油断していたせいで──」


 俺が説明しているとき、またしても地面が大きく揺れた。

 今いる舞踏会場は頑丈にできているが、もっと激しく揺れるようならば俺たちも避難を考えた方がいい。


「ところでミレア。さっきクラウズの質問になにか答えようとしていたようだが……」


 俺は行動を急ごうと、ほかからの質問を遮るように、口早にそう質問した。


「は、はい。実は……」


 するとミレアは記憶を辿るように話し始めた。


「まだ幼い頃のことですが、聞いたことがあります。地下神殿の話を」


「地下神殿?」


 それを聞いて全員が首をひねるが──俺は予感が的中したこと、いや、してしまったことに薄ら寒さを覚えた。


 地下神殿──。


 師匠の口から出た言葉だ。


 『地下神殿に行け──』


 ミレアの言うそれと師匠の言うそれとが同じモノを指しているということは、もはや疑う余地はない。


「遥か昔のことですが、その神殿は顕現祭に使用されていたそうなのです。昔の顕現祭は今のような大掛かりで派手な催しではなく、もっと質素だったそうなのです。青巫女ただ一人がアースシェイナ様に感謝をお捧げするだけの儀式。その際に使用されていたのがこのスレイヤ城の地下にあるという神殿なのだそうですが……」


 いったん揺れが収まったこともあり、初めて耳にするスレイヤの知られざる過去に全員が聞き入っている。


「今はもう使用されていないそうです。今といっても何百年も前からのようですが。今ではもう地下への入口も封印されてしまっているようで……使われなくなった理由や、封印された理由まではわかりません。もちろん私自身その神殿を見たわけではありませんので、もしかしたらただの言い伝えかもしれませんが……」


 言い伝えなどではないだろう。

 現に地下からは”嫌な感覚”が、時間の経過とともにはっきりと捉えられるようになってきている。

 いよいよ急いだ方が良さそうだ。


「ミレア。その入り口の場所は知っているか?」

「はい。でも神殿の場所までは……」


 今はそれで十分だろう。


「では俺たちのすべきことは一つです」


「その神殿を確認しに行くってのか?」


「そうです。この”嫌な感覚”の出所はその地下神殿からで間違いないかと」


 あとは地下神殿の場所さえ特定できれば……


「神殿といっても、その扉を開ければすぐに見つかるものなのかな? 地下は広いんだよね」


「その前に扉は封印されているんだろ? なにか理由があるから封印されているんだとしたら……」


 その通りだ。

 その先にどれほどの危険があるのかは想像もつかない。

 もしかしたら魔物も──


「地下の空間がどれほどの大きさかわからないので、神殿を探すのに時間がかかるかもしれません。考えとしてはいくつかの班で行動して少しでも早く神殿を見つけたいのですが……とても危険な任になると思われるので無理強いはしません」


 数人がゴクリと唾を呑む。


 無理もない。ここから先は未知の領域だ。


 最悪俺ひとりで突入するか……

 だがそれでは時間がかかり過ぎる……


「俺は行くぜ! 交流戦のお前を見てからというもの、こう、なにかが滾るんだよ! 男としてのなにかが!」


 恰幅のいい男子生徒が一歩前に出る。

 三学年か、四学年か。どちらにしても腕は確かのように見える。


「それは俺も同じだが、近衛騎士隊長のコンスタンティン様や衛兵とも協調した方がいいんじゃないか?」


 生徒の一人が意見を出すと


「近衛も衛兵も、貴族や多くの来賓の警護で手が塞がっている。七年前のように人質に取られたりでもしたらそれこそスレイヤの名折れだからな。この件は報告するだけにしておいて俺たちだけで事に当たった方が賢明だろう」


 それは別の生徒が回答した。

 それを聞いた全生徒が同時に頷く。


 どうやら覚悟は決まったようだ。気概に関してはやはり一本線だ。


 ならば俺も配置分けを急がなければならない。


 だがしかし……俺が敗北したあのタイミングでの師匠の『地下神殿』という助言。

 もしかしたらこの件もあの闇の精霊使いが関与しているかもしれない。

 となると、精霊を使役できなくなるかもしれないヴァレッタ先輩は地上に残ってもらうか……



 俺はスレイヤ王国屈指の魔法師である魔法科学院一本線の生徒五十余人の配置、それも最適解となる配置を求めるべく策を練った。


 極々限られた時間で──。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ