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第62話 休めない休日・昼~午後



 子寝小丸とゆっくり散歩をしながら館へ到着すると


「モーリスッ!!」


 玄関先に立っている懐かしい顔を見つけて、大声で叫んだ。


 「ありがとう」と子寝小丸の頭を撫でて背中から飛び降りると、モーリスに向かって一目散に駆け寄った。


 モーリスは俺のすべてを知っても、なお味方であり続けてくれる数少ない顔見知りだ。

 俺が家を出されたときに、もしも偶然モーリスに出会っていなければ今の俺はなかったかもしれない。

 それほどに頼もしく、何ものにも代えがたい存在だ。


「会いたかったよ! モーリス!」


 俺は再会できた嬉しさのあまり、感極まってモーリスの胸に飛び込んだ。


「おーおーおーおー! すっかり男前になっちまいやがって、この野郎! よく来たな! ラルク!」


 モーリスもそれに応えてくれる。

 俺は長男だからわからないが、兄がいたらこんな感じなんだろうか。

 無条件で受け入れてくれる安心感、そして得られる心の安寧。

 一方的に兄と慕っているだけではあるが、俺はそんなモーリスのことが大好きだった。

 決して口には出さないけど。


「なあ、さっき子寝小丸が打ちあがってたけどなにがあったんだ?」


「ああ、抱っこしてあげてたんです。──それよりモーリス、話したいことがたくさんあるんですよ!」


「おいおい、落ち着けラルク、ほら、お前のことを待っていたのは俺だけじゃないんだぜ?」


 そう言われてモーリスの後ろを見ると、所在なさそうに立っているロティさんに気付く。


「あ……すみません……ロティさん……今日はロティさんのために来たっていうのに……」


「やっと話しかけていただけました。お久しぶりです、キョウ様……ではなくてラルク様とお呼びしなければならないのですよね?」


「はい、そう呼んでいただけると。──ロティさん、お久しぶりです。今日は成功するかわかりませんが、ロティさんの目の治療に参りました」


「七年も前の約束を……本当に私などのためにありがとうございます、ラルク様」


 七年前に比べて、さらに美しさが増したように見えるロティさんが深く頭を下げる。


「でも男の人って良いですよね……そうやってなんの躊躇もなく抱き合って再会を喜び合うことができるのですもの……」


 ロティさんが一瞬寂しそうな表情を見せる。


「あれ? ロティさん、目が見えるんですか?」


 俺とモーリスのことが見えていたような口ぶりに、俺は驚いて訊ねた。


「おいおい、お前は相っ変わらずだな! そうじゃねえだろ! ほら、ロティが言いたいのはこういうことなんだっての!」


 するとモーリスが俺の手を取り、ロティさんの手と結び合わせる。

 ロティさんがびくりと身体を震わせるので、なぜか俺もビクッとしてしまう。


「ぎこちねぇなあ……お前らガキかよ……嬉しいときは肌を触れ合ってお互いの感情を分け合ぇやいいんだよ!」


「そ、そういうことか……あ、ロティさん、また会えて嬉しいです。なんだか昔より綺麗になってますね……」


「……ラ、ラルク様こそ……声が低くなって……お顔も男性らしくなられたのでしょうね……」


「あれ? 目は……」


「平時は見えないのです。ですが不思議なことに、胸に抱く喜怒哀楽の感情が強くなればなるほど、気持ちが昂れば昂るほど、周囲の様子がぼんやりと見えるのです。先ほどもラルク様の声を聞いたとき、気持ちが昂ってしまったので、モーリス様と抱擁しあうラルク様のお姿が薄らと……」


「な、なるほど、そうなんですか……それはまた不思議ですね……」


 たしかに不可思議だ。

 しかしだとすれば、その感情をコントロールすることができるようになれば、あるいは……


「これもラルク様が施して下さったあの光の賜物だと思っています。まるで神から祝福を受けたかのような光でしたから……」


 そういえばロティさんも精霊の光が見えると言ってたな。

 いつも傍にくっついてた精霊は今はいないようだけど……部屋で待機しているんだろうか。


 それにしても神の祝福とは……

 でも感情次第で目が見えるようになる奇跡なんて、そうとでも考えなければ辻褄が合わないよな……

 レイアさんの真偽を見抜く眼だったり、アリーシア先輩の常人離れした視力であったり……

 もしかしたら俺が知らないだけで、他にもそういった特殊能力を持つ人がいるのかもしれない……

 それこそ神から祝福された人だけが持つ贈り物(ギフト)のような……


「実は今もこうしてラルク様の手を握っていると気持ちが高揚して、ラルク様のお顔がぼんやりと──」


「え!?」


「あっ!」


 ちょっと怖くてつい手を離してしまった……


 ロティさんの言うとおり、感情が高まると目に光が灯るようだ。

 不思議な能力だからもっと詳細に調べてみたいけど……


「はあぁぁぁ」


 モーリスの盛大なため息が背中から聞こえてくる。


「あ、そうだ! ロティさん! お土産があるんです!」


 俺は気まずい空気を変えようと、包みを持って控えているサティちゃんのところへ走っていった。


 「サティちゃんの分もあるからね」と包みを受け取ると、


「これはあそこの店のパン、で、これが──はい、髪飾り。俺が選んだものなんですけど、良かったら使ってください」


 ロティさんの手の中にそっと渡した。


 昨日レイアさんが買っていたもの見て思いついた贈り物だ。

 神からの贈り物(ギフト)というわけにはいかないけれど、四精霊の加護を込めてある。

 きっとなにかの役にたつはずだ。


「ありがとうございます! ──綺麗……四色の光が見える……」


 どうやら髪飾りの光は見えるらしい。

 それならばなおのこと、この贈り物にして良かった。


「おお! 凄いなラルク! お前も一丁前なことするようになったじゃねぇか! んで? 俺にはないのか?」


「ありますよ。はいこれ。モーリスのは特別に七色に輝きます」


「おう悪いな! って、これ虹香茸じゃねぇかよ! そりゃ大好物だから有難いけどよ……炭焼きにして七色に光るって……食ったらなくなっちまうじゃねぇか……」


「モーリスも髪飾りが良かったんですか?」


「んなわけねぇだろ! ってかお前、あれと似たようなものでいいからリアにも渡せよ? あいつがあれを見たら暴れ出すぞ」


「ええ、ちゃんと買っています。臨時収入があったのでいつもお世話になっている人には渡そうかと」


「抜かりないねぇ! そういうマメなところ、これからお前の身を助けることになるぜ? ──実は俺もお前に渡したいものがあるんだ。用事が終わったら見せてやるから楽しみにしてろ」


 渡したいもの?

 楽しみにしてろって、いったいなんだろう。


「わかりました。じゃあ、さっそく中でロティさんの治療を試してきますね」


 俺とロティさんは館の中に入り、まずは昼食の支度をしていたパティさんとレティさんに挨拶を済ませた。

 懐かしくてつい話し込んでしまいそうになったが『先に治療を済ませます』と断り、食堂を出た。

 ふたりにもお揃いの髪飾りを渡したところ、とても喜んでくれた。

 

 そして──二階に上がり、ロティさんの部屋で治療を試みることになった。






 ◆






 ロティさんと館を出て、向かったテラスの席にはモーリスだけでなくコンティ姉さんの姿もあった。

 穏やかな昼の日差しの中、軽やかに談笑している。

 近付く俺たちの姿を見つけると、ふたりが揃って立ち上がった。

 テーブルの上に昼食を並べていた侍女の三人も、手を休めて俺の顔を見る。が──


「……」


 俺は無言のまま首を横に振った。


 それを見たふたりと三人は、がっかりするような素振りをするでもなく、笑顔で俺たちを席へと誘った。



 結論から言うと、治療は失敗に終わった。

 第六の印、まではなにも問題なく結ぶことができたのだが、その先、第七の印を結んでもなにも起こらなかったのだ。

 なぜだか理由はわからない。

 巨神と戦ったときは第六の印は結べたのだが……

 これは俺の推測だが、窮地に追い込まれないと高位階の印の効果は発揮されないのではないだろうか。

 あのとき、学院を護るために必死になったことにより、第六の印の封印が解けたのでは──。

 そうだとすると、いまはまだ治療ができない。


 ロティさんには期待を持たせてしまい、申し訳ないことをした。

 ロティさんは微笑みを浮かべながら『私が自分の感情を制御することを鍛練すれば良いのですから』と赦してくれたが、俺の気は晴れなかった。




「ラルク、あなたにはそれ以上のものを与えてもらったのですから気にすることはありません」


「だな。俺が何を言っても『まったく見えません』っていうのはちょいとばかりへこむがな、それでもまったく見えないわけじゃないんだ。ロティの言うとおり感情を支配することができればいずれは不便なく見えるようになるんじゃねえか?」


 コンティ姉さんとモーリスもそういうと食事を始めてしまった。


「……」


 俺は自信を失いかけた。

 今の俺であればこの程度の呪いなど、造作もなく解けるのではないかと、たかを括っていた。

 しかし呪いはそんなに簡単なものではなかったようだ。

 俺の力が及ばないことに、不安や焦りが頭の中で渦を巻く。


 こんなことで白銀の魔女と対峙できるのか──

 ミスティアさんとファミアさんの呪いを解くことができるのか─


「ラルク様」


 優しい声と、俺の手から伝わるロティさんの手の温もりが、ささくれ立った感情を丸くしていく。


「ラルク様。私は貴方様から生きることの喜びを与えていただきました。それ以上何を望むのでしょうか。今ではラルク様のお顔がはっきりと見えます。悲しみのせいではありません、嬉しくて仕方がないからです。ラルク様が私のことをそうまで考えていただいていることに、ほんの僅かでもラルク様の胸の中に私がいられることに」


 驚いて隣を見ると、確かにロティさんの瞳には光が宿っていた。

 早速付けてくれた髪飾りも綺麗に煌めいているが、それにも増してロティさんの瞳は美しく輝いている。


「──私がこの先にすべきことがみつかりました。そのことも嬉しくて仕方がないのです。暗闇だけだったあのころとは違うのです。さあ、食事をいただきましょう。私の大好きなパンです、覚えていて下さったのですね」


 ロティさんの優しさと強さは俺も見習わなければならない。


 窮地に陥ったときに解放される印の力……

 今度の交流戦で試してみるか……


「ありがとう、ロティさん」


 俺はロティさんのお陰で、自分自身の課題も見つかったことに礼を言わずにはいられなかった。







 ◆







「学院生活早々の巨神騒ぎもご苦労だったな」


 食事の最中、殿下の表情を垣間見せたモーリスが俺を労った。

 陛下から聞いたのだろうか。

 コンティ姉さんも頷いているところを見ると、解決したということで騎士団長にも報告があったのかもしれない。

 あまり知られたくなかったことだが、モーリスであれば、それにこの場にいる人たちであれば隠す必要もない。


「いえ、あのときは仲間に救われましたから。前回俺の代わりにここに来たフレディアがそうです。あ、そうだ、この間はフレディアがお世話になったようでありがとうございました。実は今日もフレディアと一緒に来る予定だったんですが、彼は急用のため来られなくなってしまったんです。ロティさんに逢えなくなって、とても残念がっていましたよ。次回は必ず連れてきます」


 「は、はあ……」──ロティさんが気のない返事をする。


「なんだよラルク、あの女みたいな優男に助けられたってのかよ! 魔法科学院の制服は飾りじゃないってわけか……にしてもラルクを助けたってんなら、もう少し手加減してやりゃあ良かったな!」


 手加減って……ほんと二枚目に対しては大人げない真似するよな、モーリスは……





 コンティ姉さんはロティさんのことが気になった、ということも第一にあったようだが、俺と話をしたいということもあって、警備で忙しい中の時間を割いて館まで帰ってきたそうだ。


 食事が終わり、ひと息ついたところで


「昨日のことですが──」


 そう切り出してきた。

 女性陣は──本当はコンティ姉さんも女性らしいのだが──別のテーブルで紅茶を楽しんでいる。


 昨日のこと──と言ったらあのことしかない。

 まあコンティ姉さんは騎士団長なのだから、知らない方がおかしいだろう。


「まずは、私からもお礼を言わせていただきます。都の治安維持に協力していただいてありがとうございました、ラルク」


 治安維持、といわれるとなんだかくすぐったいが、俺はありがたく礼を受け取った。


「それで攫われたのがクロスヴァルト家の双子の姉妹で──」


「クロスヴァルトの子どもが攫われた? おい、コンティ、俺はそんなこと聞いてないぞ!」


「殿下、このことはかん口令が敷かれているのです。遅かれ早かれ殿下の耳にはお入れしようと思っていましたが、この場を借りて事の顛末を報告いたします」


 そう言うとコンティ姉さんが昨日起こった一部始終をモーリスに報告した。

 若干漏れていることもあったが、概ね俺が見たことと同じ内容だった。





「えらいことだな、ヴァルトの身内を攫うとは……それでそいつらからはなにか訊き出せたのか?」


「いま私の部下が尋問を行っています。ひとりは雇われただけの男なので詳しいことは何も知らされていないようなのですが、主犯格のふたりはかなり厄介な相手で、かなり手こずっているそうです。話す内容も一貫せず、真実と偽りとを巧みに混ぜ込んでいるとか」


「厄介ね……わかった、後で俺も立ち会おう」


「モーリス、コンスタンティン様」


 殿下を呼び捨てで、騎士団長に敬称を付けて話すとなるとなんだかおかしな感じだが、俺はふたりに向かって


「本人の許可を取らないと詳しいことはお話しできませんが、俺の知り合いに変わった能力を持っている人物がいます。協力してくれるかはわかりませんが、お願いすることはできますので打診してみましょうか」


 考えがあることを伝えた。


「不思議な能力ってなんだよ」


「それについても今は伏せさせてください。ただ、協力いただけるようであればその問題は一気に解決に向かうかと思われます」


 モーリスの疑問にも間接的に答える。


「もったいぶりやがって。まあ、ラルクの考えであれば試す価値はあるかもしれないな、じゃあ、ラルク、その辺は任せるぞ? コンティもそれでいいか?」


「はい殿下」


 ということで俺はフレディア経由でレイア姫に相談してみることを決めた。

 都に張り巡らされているという地下通路のことも気になるし……



「で、確かネルフィとミルフィだったよな? ふたりは今どうしてるんだ?」


「部下がクロスヴァルト邸までお送りいたしました。今はお休みいただいているかと」


「そうか……」


 モーリスが俺をちらと見る。


「あそこの……マーカスっていったか、あれは駄目だな……」


「駄目、とは?」


 俺は昨日から頭痛の種になっていた名が出たことに、モーリスの話に食い気味に質問した。


「いや、リアに言い寄ってるらしいんだ、本人から聞いたから間違いないことだが──」



 まだやっていたのかあいつ!


 モーリスの話しを聞いて俺は怒りを覚えた。

 マーカスに対しても無論だが、それを咎めない父様に対してもだ。


 ミレアはノースヴァルト家の嫡男との婚姻が決まっているというのに!


 妹の扱い方に関してはなにかの間違いだと思っていたが、この件は前々から俺が危惧していた事柄だ。

 父様がなんの手も打たずに野放しにしていたとなると、由々しき問題となる。

 つまり、クロスヴァルトとノースヴァルトの間に確執が生まれてしまうということだ。




「まあ成人もしていない子どもがやっていることだからな、今はまだ誰も真に受けちゃあいないが、リアが困ってるのがなんともな……」


 もし俺が家にいたら拳骨のひとつもくれていたのだが……


「まあ、ラルクに愚痴ってもしょうがないことだがな」


 モーリスは『双子が無事だったのなら本当に良かった』と話を切り上げた。




「それからラルク、シュヴァリエールの例の街道ですが、山に大きな穴が空いていると部下から報告が上がってきているのですが、いったいどういうことなのですか?」


 コンティ姉さんが次の話を始める。


「あれはそうした方が移動距離が短くなるからと思い、ステラに頼んでトンネルを開通させました」


「はあ~、どうやら報告は本当のようですね……馬鹿なことを言うなと部下を怒鳴らなくて良かったですよ……」


「なんだ? どういうことだ? ラルク、俺にも説明してくれ」


「はい、俺がここに来られなかった日のことなんですが──」



 俺はモーリスに、スレイヤ、シュヴァリエール間の街道を整備したことを説明した。

 ほぼ直線に造るために、邪魔だった山脈に穴をあけたことも。

 シュヴァリエールの内紛のことについては話すべきか悩んだが、それは機会があればレイアさんから直接話してもらうことにして、さしあたってはエルナさんの治療のことだけを掻い摘んで話した。



「そんなことまでできるのかよ、もはや人の域を超えてるじゃねぇか」


「失礼なこと言わないでくださいよ。師匠が言うには、精霊は人の生活を豊かにするために存在しているらしいんですから」


「あ、忘れてた、そういやお前の学院で三日後交流戦が開催されるだろ、それに俺とイリノイ婆さんも観覧に行くからよろしくな」


 師匠が来るのか!?

 なんでまた!


「今年は私も行くことになっています。なんでも開催目的が『学院生の実力を広く知らしめて都の人々を安心させるための交流戦』なんてことになっているそうなので、手が空いている騎士団はみんな見学に行くことになったのですよ」


 なんだ? みんな来るのか!?

 王室も来るとは……これは結構な規模の催しになりそうな……

 まさかクロスヴァルトも来るなんてこと……ないよな?


「で、どうなんだ、お前は出るのか?」


「……なんか規則でそういうことを話したらいけないことになっているみたいですよ」


「なぁにいってやがる! 婆さんが来るってのはそういうことじゃねえのか? 可愛い一番弟子を見によ。あ、そういえばエミリアちゃんもリアと城で──っと、これは話したらいけなかったんだ、いや、今のは忘れてくれ」


 モーリスが言いかけたことも気になるが……

 師匠は俺が選手として出ることを知っているっていうことなのか?

 だとしたらなんで知っているんだろう。

 ほとんど誰も知らないはずなのに……

 現にモーリスだって知らないくらいだ。

 師匠って本当に人間なのか?

 もしかしたら十二層より奥に生きている魔物なんじゃないのか?


 まあ、師匠が近くで見てくれているのであれば、俺がなにかやらかしたとしてもその場で対応してくれるだろうけど。


「最後にラルク、これは私の個人的なお願いなのですが……祭りが終わって暇ができたらで構いませんので、城の私の執務室へ来てください」


 コンティ姉さんは最後にそう言って話を終えた。




「んじゃ、ラルク、そろそろ行くか」


 ひと通りの話しが終了したところでモーリスが立ち上がった。


「行くって、どこへ?」


 とっとと歩いていくモーリスを追いかけて質問する。


「どこって、言っただろう、お前に見せたいものがあるって」


「ああ、そのことですか、館の中に移動するんですか?」


「ち、ち、ち。いいからついてこい」


 どこに行くつもりなんだろう……


 するとモーリスはコンスタンティン邸の敷地から外に出てしまった。


「外ですか? みんなに別れの挨拶もしてないのに」


「んなのまた近いうちに遊びに来りゃいいんだよ」


 そういうわけには……


 だがモーリスの謎めいた行動に慣れている俺は、言っても無駄だと黙って後をついていった。




「着いたぞ」


 しばらく歩くとモーリスが立ち止まった。

 考え事をしていた俺はふと顔を上げる。


「──っ!」


 ──目に入ったのは視界いっぱいに広がる森。そして厳かにそびえ建つ、俺が感嘆の声を漏らした立派な門だった。


 そう、クロスヴァルト邸の隣の森だった。




休めない休日は『四の鐘』と『夕方~夜』で終わります。

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