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第55話 予期せぬ再会



「どうやらあの店からのようね。──ちょっと私が見てくるから、四人はこの場で休憩」


 そう言うとヴァレッタ先輩は交差する人々の間をするするとすり抜けて、声の出所へと向かっていってしまった。


 残された俺たちはヴァレッタ先輩の指示に従い、往来の邪魔にならない場所に身を移すと、なにかあればすぐに動けるような姿勢をとりつつ先輩の帰りを待った。


 ここに来るまで口数が少なかったフレディアも、人の多さに息が詰まっていたのか、初の警らで緊張していたのか、休憩を言い渡されて気が抜けたのだろう。俺の後ろを着いてくる際に何でもない段差に足をとられて躓き、俺の背中にぶつかってきた。

 俺もそうだが、フレディアにとってもこの束の間の休息は有難いようだ。


 通行人の邪魔にならにような場所、といっても、俺たちの周囲にはあまり人が寄ってこない。

 学院の制服を着ているからか、みんな避けるように通り過ぎていくのだ。

 たいていの人たちは距離を取った状態で足早に去っていく。

 しかしその中で若い女性だけは立ち止まり、光の貴公子、フレディアに見惚れていた。

 男子用の制服を着ているからフレディアが男だとわかるのだろう。

 女性たちはフレディアに話しかけたそうにしているが、そうはできない雰囲気に、ただ遠慮がちに遠巻きに見ている。


 通りには相変わらず人がたくさんいるというのに、俺たちが立っている場所だけは空間スペースができてしまっていた。

 制服を着て都を歩くのは今日が初めてだが、なんとも複雑な心境だ。

 新鮮といえば新鮮だが、この制服がこれほどの効力を発揮するとは──平民の俺としては、なんというか……とても居心地が悪かった。

 


「ねえ、ねえ、ラルククン」


 フレディアと制服の効果のことを話しながら苦笑していると、アリーシア先輩が俺の腕を指で押してきた。

 横を向くと──アリーシア先輩が朗らかな笑顔で俺を見ている。

 その横ではひとりで向かったヴァレッタ先輩が気になるのか、アーサー先輩が心配そうに通りの奥をうかがっていた。


「ラルククン、班長と仲良さそうに話してたけど、あの噂、やっぱり本当なの?」


 なにかと思えばまたその話だ。

 俺は肩をすくめて応える。


「アリーシア先輩まで的外れなこと言い出さないでもらえますか? いったいどこをどう間違ったら俺とヴァレッタ先輩が交際なんてするんですか。そうやって憶測で物事を話すからおかしな噂が──」


「おや? 私はふたりが心から愛し合っているかもしれないなんてこと聞いているんじゃないんですけど? 交流戦にラルククンが出るのかって噂のことを聞いたんですけど? え? なに? そんな色っぽい方の噂話、私にしてほしいの?」


 流し目で俺を見るアリーシア先輩はなんだかとても楽しそうだ。

 だが俺はちっとも楽しくない。


「……先輩は出場されるんですか?」逆に質問すると


「そういった質問にはお答えできない規則になっています」


 つん、と、そっぽを向いて話をはぐらかす。


「……そんな答え方でいいのなら俺だって──」


 先輩の真似をしてやり過ごそうとしたところ、先輩が突然こっちを向いて俺の顔を直視する。

 

「──な、なんですか?」


 俺がたじろぎ僅かに身体を引く。

 いくらアリーシア先輩が人並み外れた視力を持っていようが、心の中までは見透かせない……はずだ。

 先輩がシュヴァリエールのレイア姫だったのなら、俺の嘘は瞬時に見抜かれていただろうが。

 すると少し背伸びをした先輩が、


『ラルククンなら誰が相手でも絶対勝てるのにね!』


 俺の耳に口を寄せて小声で囁く。

 俺は先輩を冷めた視線で見ると、わざと聞こえるように大きなため息を吐いた。


『先輩、からかうのもいい加減にしてください……』


「まあまあ」


 俺の視線をサラリと躱した先輩が、


「あ! 戻ってきた! はんちょ~う! こっちです! こっちぃ! って、うわ! なにあの美人!」


 ヴァレッタ先輩を発見したのか、手を上げて大声で叫ぶ。

 俺もそっちに顔を向けてヴァレッタ先輩の姿を探すが、しかし人並みの視力しかない俺の目ではまだ捉えることができなかった。


「ん? アリーシア、ヴァル以外にも誰かいるのかい?」


 気もそぞろな様子で目を凝らしていたアーサー先輩にもまだ見えていないようだ。


「班長がとんでもない美女を連れて帰ってきた! って、え? 光の貴公子クン?」


 アリーシア先輩がおかしなことを言う。

 

「先輩? フレディアならここに──」


 そのとき、俺の視界にようやくヴァレッタ先輩が入ってきた。

 問題は解決したのか笑みを浮かべて談笑しているのだが、その談笑相手に俺は驚き言葉を呑んでしまった。

 俺の左隣からも『え?』と間の抜けた声が聞こえてくる。


「うさぎ班のみんな、お待たせ! 問題は大したことなかったよ! ええと、紹介します、驚くことなかれ、こちらは──」


 片手を上げたヴァレッタ先輩が、こちらに向かいながら隣の人物を紹介しようとするが、


「──ッえ! わっ! っきゃぁ!」


 紹介された本人はこっちに視線が釘付けになっていたのか足元が留守になってしまい、フレディアが躓いた段差に足を引っ掛け、前のめりにつんのめってしまった。


「きゃぁ!」


 そしてバランスを崩しそのまま、とんとん、とこちらに突っ込んできて


「──ぁ!」


 ぽすっ、と俺の腕の中に収まった。

 少し遅れて金色に輝く髪がふわりと舞い下りてくる。


「──お久しぶりです、レイア姫。お怪我はありませんか?」


「──ラルク様……も、申し訳ございません……」




 

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