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第36話 宣戦布告



「……ア、アクア……なんか、すっごい音がしたけど……」


 気味の悪い空間に力任せに放り投げた()()()()()()()は、どういうわけか爆音を轟かせて消滅した。


「や、矢を投げただけなのに、なんで爆発したんだ……?」


『……』


 おどろおどろしい空気をちょっと吹き払おうとしただけなのに……。


 こんなことになるなんて、思いもしなかった。

 想像をはるかに超えた状況に、俺とアクアの間に気まずい空気が流れる。


 ()()()()()()()のお陰で「嫌な感覚」はなくなったが──


「うわ……しかも雨が降ってきちゃったよ……俺のせい……だよな……これ、大丈夫なのかな……」


 もしかしたら俺が破壊したのは雨よけの結界だったのかもしれない。


 このまま俺がシュヴァリエールに入国して、『さっきの轟音とこの雨は貴様の仕業か!』とか言われて拘束されたらどうしよう……

 いや、俺ひとりが咎めを受けるのならまだいいが、スレイヤに抗議されて国際問題とかに発展したりしたら……


「……薬草や洗濯物を干してた人もいたよな……きっと……うぅ、真っ先に謝ろう……」


 こういうときは下手に誤魔化してもすぐに嘘とバレる。

 この国出身の()()()()()()()()が──とか言えばどうにかなるだろう。

 なるのか……?

 精霊の行いはすべてこの世の理に則って……るんだよ……な……?


「──いや、やってしまったものは仕方がない!」


 とにかくフレディアの妹の容態を診ることが第一だ。


 轟音と雨のことに関しては正直に事情を話して頭を下げよう──と、割り切ると、


「リーファ! あそこに降りよう!」


 ここから見える一番近い門の近くに、目立たないように降り立った。








 ◆








 向かった門は固く閉ざされたいた。


 門前には石畳が敷かれているのだが、手入れがされていないのか、干からびた草が伸び放題となっている。

 一枚の岩から切り出されたのであろう立派な門扉は苔生してしまっていた。

 

 もしかしたらこの門は長らく使われていないのかもしれない。

 

 門を見上げると、穹窿形に組み上げられた石壁の中央に『つるぎの門』と彫られている。


 人の気配は──ない。

 結界などによって気配を消しているというわけではなく、本当に辺りには人がいないようだ。


「他の門に行った方が良さそうだな……」


 雨が本降りになってきた。

 とりあえず制服が濡れないように門の下で雨宿りしながら右か左、どちらに進もうか思案していると、門の向こう側に人の気配を感じた。


 俺は喜び、


「──すみませーん! ここから入れますか!」


 これ幸いと大声で叫ぶ。が、俺の声より雨音の方が勝ってしまい、どうにも気付いてもらえそうにない。


「すみません!」


 頑張って声を出すが、並んで歩くふたりの気配は門の前を通り過ぎようとしている。


「すみませんっ! 聞こえますかっ!」


 石門を叩いても手が痛いだけでなんの音もしない。

 そうこうするうちに気配は遠ざかり──


「あ! 待って──」


 このままだと雨の中を別の門まで移動しなければならなくなる。

 時間もないし、なんとかここであの人たちに気付いてもらわないと──


 そう考えた俺は、ステラに頼んで右手を硬化してもらい、


「すみませーん!」


 大きな音を出して向こう側にいるふたりに気付いてもらおうと、石門を叩いた。




 あとあと考えれば、火球を打ち上げた方が良かったのかもしれない。

 ……いや、それはそれで大変なことになっていたかもしれないか。


 勘違いのないよう先に言っておくが、決して悪気があったわけではない。

 俺は、いち学生であって、兵ではない。

 ましてや金品を強奪する賊などでもない。

 フレディアの故郷であるシュヴァリエールに恨みがあるとか、妹君を攫いに来た──などもっての外だ。


 要するになにが言いたいか、というと、交戦するためにここに来たわけではない、ということだ。


 ただ、焦るあまり、九字の印を第五位階まで結んでいたことを失念していただけなのだ。



 結果──


 精霊をも承伏せしめる力で叩かれた一枚岩の堅固な石門は、凄まじい衝撃音を立てて吹き飛び、粉々に破壊されてしまった。


 まさに宣戦布告──。


 剣を抜き、身構えているふたり(後から聞いたところ巡回中の騎士だった)に、挨拶よりも謝罪よりも、なによりも先にフレディアがしたためた信書(白い布)を見せたことによって、どうにか敵意はないと理解してもらえたが。



 飛んだ(?)訪問となってしまったが、幸いだったのは門の向こうにいたふたりが破壊行動に巻き込まれなかったことと、渡した信書が絶大な効力を発揮してくれたことだった。

 なんと、フレディアはこの国の元首の嫡男、公子だったのだ。



 




 そして、無口なふたりに案内された館の一室で待たされていると──


「貴君がフレディアの知人、か?」


 フレディア本人と見間違うほどに、フレディアにそっくりな女性騎士が入室してきた。


「はい! スレイヤ王立魔法科学院一学年、ラルクと申します! この度は申し訳ございませんでした!」


 向き合う騎士が、おそらくフレディアの身内であることは間違いないだろう。

 公子であるフレディアの身内ということは、かなりの立場にあることも間違いないはずだ。

 そう踏んだ俺は開口一番、深々と頭を下げて謝罪をした。


「な、突然どうしたというのだ!」


 ここまで案内をしてくれた騎士から詳細を聞いていないのか、女性騎士は驚いた様子の声を発する。


「実は、門を壊してしまいました!」


「な! 剣の門をか!」


 ……それだけではないのです……


 頭を上げた俺は、絶句している女性騎士の目をまっすぐに見て、正直にすべてを話した。






 

スケールの違うラルクの失敗、謝罪で済むのでしょうか。

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