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 目が覚めて、知らない天井、と最早古すぎるお約束を呟いてから早3年。

 私、レティーナ・ビィ・アイオスロは本日6歳の誕生日を迎えました。

 それはいいんですけどね。ええ、今目の前に現れた少年さえいなければ。

 ジャスティン・カルロ・エスティーザ、と名乗って滑らかに祝辞を述べてくれたこの少年の顔を見た途端、くらりとした私は悪くないと思うのです。

「本日はご多忙のところをお運びいただいて、ありがとうございます、ジャスティン様」

「とんでもない。アイオスロ公爵手中の珠のお披露目ともあれば、何を差し置いても駆けつけますとも」

 うふふあははと、とても6歳児と9歳児の会話とも思えぬものを交わし、次の方に場を譲った彼はどこからどーみても某乙女ゲーム人気ナンバー1の攻略対象者だった。うあー、マジですか。といっても私はプレイした事ないんですけどね。

 年齢イコール彼氏いない歴だった前世の私は母親のお腹の中に恋愛感情とかミーハー心とかを置き忘れてきたと自他共に認めていた干物女もいいところで、友人がハマリまくっていた乙女ゲームの類の魅力が全く判らないタイプだった。むしろこっ恥ずかしくてセリフ1つまともに聞けないくらい苦手だったのだ。その私がどーしてその世界(おそらく、だが)に転生しているんだろーか。思わず遠い目をしてしまっても許されると思う。

 そんな私がようやくとは言えここがそうだと気づいた原因であるジャスティン氏は、友人のイチ押しという事もあって何とか記憶の端っこに引っかかっていたのだが、他の攻略対象は一切憶えていない。確か5、6人いたと思うんだけどなー。んでもって、そのうちの誰かが私の婚約者か何かで、ラストには私の方が投獄だの国外追放だの修道院監禁だのといった、ろくでもない末路になっていたような…?

 正直婚約者のいる男に粉かけまくりーの、婚約者ほっぽってそんな尻軽女の取り巻きに成り下がりーの、な連中が何故幸せになるのか理解しがたい。いや、そーゆー妄想のためのものだというのは判るんだけど、それでも倫理観壊しまくりだよね、乙女ゲームって。不倫は文化だとか抜かしたお馬鹿もいたけど、ぶっちゃけ重ねて四つに切り捨ててまえ、というのが私の自論なのよねー。

 もげればいいのに。

 まあ古今東西、色香で惑わす、色に溺れるなんてーのは珍しくもないんでどっか遠くでやってくれ。

〝と、言ってられないんだろーなー〟

 挨拶回りを終え、給仕から飲み物を受け取って会場を見渡せば、件のジャスティン氏の周りに同じようにやたら見てくれの良い男子とそれにたかるご令嬢とやらが一角を占拠していた。あー、あの男子達が攻略対象だな、たぶん。

 今更ながらに我が身を振り返ってみる。この国公爵家の一人娘で将来は婿を取ってこの家を継ぐ事になると思っていたのだけど、ここが乙女ゲームならこの後実弟が生まれるか、定番の義理の弟とやらが今後発現するのだろう。そうじゃなきゃ公爵家の一人娘を大昔の少女漫画のようなイジメ程度で国外追放なんかにできるはずがない。それは跡取りがいるからこそできる事だ … と思う。

〝何にせよ、ちょっと対策しないとなー〟

 国外追放(以下略)なんて絶対嫌だもの。

 現在の家庭環境は幸せそのもので、両親からは目に入れても痛くないと思われているのがひしひしと感じられるくらい円満だ。まあ、これは私に前世の記憶があって、そんな育てられ方をしながらも良識を踏まえた俗に言う「良い子」だからってのもあると思う。それがなかったら結構我が儘な幼女になっていただろうって位の溺愛っぷりなのだ。もしかしたらそれが本来の「レティーナ」なのかもしれない。だとしたら、この時点で乙女ゲームは成立しない可能性が高いけれど、この先どう転ぶか判らないしなー。

 それに加えて、貴族に生まれた以上政略結婚に対しては覚悟を決めているけれど、ほいほい尻軽女に鞍替えして手のひら返すよーな不実な阿呆は絶対に御免だ。まずはその手の婚約から逃げなくては!

 最悪の場合、女公爵としてこの家を背負って立たなくてはならないのだから、まずは勉強しなくちゃいけないよね。正直なところ上に立つタイプじゃないから苦手意識半端ないけど、将来のためにはそんな泣き言言っていられないし。そういった意味では前世の記憶があるってありがたいよねー。学生の頃にもっとちゃんと勉強しておけばって悔しい思いをした事までしっかり残っているもの。身も入るってものです、はい。

 いかにも喉が渇いてますという体を装って手にしたグラスを傾けながら、内心ではそんな可愛くない打算をしている私の傍に、親同士の挨拶合戦を終えた父が歩み寄ってきた。

「疲れたかい? レティ」

「大丈夫です、お父様。ちょっと喉が渇きましたけど」

 にっこりと笑い合う私達の姿は身分抜きで結構目立つと思う。お父様は妻子持ちと言うには早すぎる若さで、豊かな金髪と濃い緑の瞳をしたハンサムさんだし、かくいう私も両親のいいトコ取りした容姿をしている。自分の姿とは未だに信じきれない位の西洋人形っぷりなのだ。貴族だからといってできすぎだろうと思っていたのだが、ここが乙女ゲームなら納得だ。このまま成長すれば画面映えのする美女になるって寸法だわ。ただ若干違和感があるとすれば、おそらく「悪役令嬢」であろう立場なのに、いかにも気の強そうなイメージのあるの赤毛ウェーブとか、同じく意地悪そうなイメージを付けやすいまっすぐな黒髪とかではなく、柔らかなハニーブロンドに明るいサファイアの瞳ってのが … 。

 むしろヒロイン側の容姿じゃね?

 ちなみにお母様はプラチナブロンドに私よりも濃いサファイアブルーのお目目です。うん、完璧いいトコ取り。

 でもって、両親は前世日本人には刺激が強すぎる程にラブラブです。それでもそんな姿がスマートで素敵に見えるのは日本人感覚の名残かしら。ちょっと洋画でも観ている気分になるんだよねー。

 それはさておき、とにかく攻略対象者が揃っているのなら丁度良い。男は胃袋をつかめというからね、特にお子様の今ならもっとたやすいはず!

 6歳になった私の誕生パーティーなのだから、当然開催は昼下がり。つまりそろそろおやつの時間であるわけです。そして、前世の記憶を取り戻してからずっと材料を探し試作を繰り返し、ようやく完成したそれを今こそ! 大々的に! お披露目なのです!

 コホン。

 ちょっと熱くなってしまいましたが、とにかくやっとお客様に出しても恥ずかしくない物ができるようになったのです。私の大好きなチーズケーキが!

 この世界、ハードチーズやバターなんかはあるのに、生乳を飲む習慣がないせいか、フレッシュタイプのチーズがなかったのよね。クリームチーズとかリコッタチーズとか、フロマージュやマスカルポーネなんかも美味しいよね~。残念ながら水牛が居ないのでモッツァレラチーズは作れなかったけど、牛乳でなんちゃってモッツァレラは再現した!

 この辺りで胡乱そうというかめんどくさそうというか、とにかく渋々作業していた料理人達の目の色が変わってきたので、ついでに酒飲み御用達のウォッシュタイプチーズも作らせてみたら実父実祖父の目の色も変わったのは良い思い出です。

 それまで私の食い意地が張っているだけだと思っていたらしい身内の酒飲み共ときたら、最低でも40日程度は熟成させないといけないチーズ達を熟成期間開けるかどうかのギリギリで持ち出して食べ尽くしてしまいやが … っていけないいけない、怒りのあまり口調が前世に戻ってしまった。

 まあ、子供舌の現在だとあの手のチーズは美味しく思えないので個人的な実害はないのだけれど、しっかり熟成させればもっと美味しいのにっ! という忸怩たる思いは拭えない。でもなー、我慢できないのも判るからなー。それに何より、勝手を許してくれる大人達が居てくれてこそなのも十分理解しているから解禁ダッシュ(奪取かもしれない)に負けた面々を適当に慰めるしかない日々だったりします。

 それに、今迄パンの添え物的存在でしかなかったチーズが、実は他領への輸出物としても十二分に価値ある物であるという認識に変わった実父達の奮起により、元々他領よりは牧畜が盛んだった我がアイオスロ領で、それが更に後押しされる事となったのは大きな成果だ。これまでは我が家の消費が賄える程度の量だったけど、特産化するべくいろいろ設備投資してもらえるようになったのだ! いやっほぅ。

 美味しい物がたくさん、というのも嬉しいけれど、このチーズの考案特許とでもいうの? とにかく私個人にいわゆるロイヤリティが入るようになったのが一番嬉しい。両親としては結婚持参金の足しになるかなーぐらいの考えらしいけど、私にしてみれば最悪の未来が訪れた時の貴重な資金となる。ストーリーが一切判らない以上、石橋を叩いて砕くぐらいの腹積もりでいなくては!

 

 そしてそして、めいめいが好きな場所で駄弁っていたお子様達をセッティングの整ったテーブルに誘導し、いざ実食! チーズケーキの美味しさに覚醒せよ!

 と、鼻息荒く挑んだ自分をちょっと殴りたくなった。

「美味しい!」

「おかわり!」

までは上々とドヤ顔していた自分も以下同文。

 何と、親側にまでその狂乱は伝播し、十二分に用意していたケーキは一瞬で皆の腹の中に消え、場が騒然となってしまったのだ。

〝ま、まさかここまで … !〟

 この世界にだって御菓子は存在する。甘さイコール裕福度っていう流れとなるのは歴史上仕方がない事だとは判っていても、あの歯が溶けそうな甘さは元日本人には受け入れ難いので、甘さ控えめチーズの旨みたっぷりのベイクドチーズケーキにしてみた。それなら甘さが苦手な男性陣でも食べられるだろうと踏んでいた。なのに、その歯の解けそうな甘さに慣れきっているはずの女性陣の琴線にまで響くとは思わなかったのだ。むしろ、あまり甘くないなー、と言われるのを待っていたくらいだ。そしたら目一杯語りまくってこっち側に誘導しようと思っていたのにッ!

 甘いものに対する女性陣の勢いを舐めてました。

 そして、それにうんざりしていたはずの男性陣の食いつきも、舐めてました。

 …… 出さなきゃ良かったかもしんない。

 本来なら富の象徴の1つでもあるお菓子を、ここまで前世現代日本風の味付けにするのは我が家の家計は危ないのよーと言っているようなものかもしれないと途中で気付き、一応止めたんだよ? 鼻息荒くしちゃってたけど、それはもう開き直っていたからでして。

 でも当然ながら提供元である我が家では定番化してしまったチーズケーキは、両親の強いプッシュによりこの場に出される事となりましてん。

 ドヤ顔から一転、どん引きする私とは逆に、実父の方がドヤ顔になっていく。

「だから言っただろう? このケーキは絶対に大絶賛されるって」

「お父様 …」

「正直、今までのお菓子を本当に美味しいと思って食べていた人達はホンの一握りなんだよ」

と、実父はこっそり囁いた。

「殆どは見得だね。出す方も出された方も。でもこのケーキは違う。チーズの旨みもしっかり出ているから酒好きでも素直に美味しいと感じる。これは凄い事だよ、レティ」

 にっこにこ顔の実父の頭の中ではきっと算盤が弾かれている。だって、このケーキを再現しようとしたら、チーズそのものをウチから買うしかないんだもの。そりゃー弾くわ、うん。

「もう少し甘みを控えめにしてブランデーを垂らしても美味しいと思いますよ。お父様」

 そう言った途端、実父の目がきらーんっと光ったのを見て、本当に自重しようと心に誓った誕生日だったのでした。


 チーズケーキ無双となった誕生パーティから早数年、チーズを始めとした加工品はすっかり我が領の名物と化しました。やるな、パパン。

 そしてその成功のもとに、私の食に関する「我が侭」は誰にも止められなくなりました。というか、むしろ周囲から異常な期待を持たれてしまっております。

 先のチーズケーキは更なる試行錯誤を極め、我が家秘伝のスイーツとして最早国内女性陣からは「あの」という冠詞を付けられるほどになりました。

 うーん、本当にどーしてこーなった。

 単に私が食べたかっただけなんだけどなー。家族に食べさせて、ちょっとドヤ顔したかっただけなんだけどなー。

 まあ、結果オーライとしましょう。

 実は自分自身の容姿から、もしかしたら没落ヒロイン枠か? という疑念も払いきれなかったので、そうならないようにと資産を増やそうとしてはいた。が、我が父の領地運営は花丸ものだし、かといって後ろ暗い事に手を出している様子もない。他家との関係もそうそう悪くないので没落系じゃないのかもと思い始めてもいる。

 そーなるとやっぱ悪役令嬢ポジションなのかなあ。やだなー。アレがあーなっちゃったしなー。

 思わずため息をついたら、隣から気遣わしげな声をかけられてしまった。

「何かお悩みでも?」

 ハタと我に返ってみれば、丸テーブルに座る令嬢達が揃って首を傾げてこちらを見つめていた。いけない、お茶会の最中だった!

「いえ、大丈夫ですわ。ごめんなさい。少し考え込んでしまって」

「もしかして、ご婚約の件ですか?」

 先程とは反対側に座る令嬢が心配そうに尋ねてくる。これがもう少し年嵩になっていて、尚且つ余り交友がない令嬢からの質問だったなら警戒が必要だろうが、今この場にいるメンバーはそんな心配などいらない「スイーツ仲間」だ。

 例のチーズケーキにすっかり心奪われた彼女達(と、その母親)は、それが私の発案にる物だと知るや、文字通り我が家に突撃してきたのである。そして、お子様同士で意気投合してしまった私達は、親の悲鳴もなんのその、厨房に突撃しては新作スイーツ製作に没頭したのだ。ああ、甘くも苦い深夜テンションよ。いや、お昼間でしたけどね!

 まあ、そんなこんなでお菓子に心奪われまくった結果、各領地の特産物を使ったスイーツをそれぞれ開発してしまったわけで。今ここにいるメンバーの家にも「あの」という冠詞が付く程の名物スイーツが誕生しております。

 シャリア・バライエ侯爵家のアップルパイ。

 アイーダ・ノーティス伯爵家のロールケーキ。

 ミケィア・アストンリー公爵家のガトーショコラ。

 ケイトリン・ミノリズ侯爵家のシフォンケーキ。

 そして我が家のチーズケーキ。

 以上、各家毎にレシピを譲渡し研鑽を重ねたおかげで、市井は元より王家や貴族の方々にも一目置かれる名物となりました。うん、ここまで来ると笑うしかないよね。さすが人間の三大欲求が一角いっかく・食欲。

 もちろん基本的なレシピは秘匿せずにいるのだけれど、やはりそれぞれの家の物が最高とされている。何でかっていうと、そこは直接私がくちばし挟んじゃったから。だからそれなりの模倣はできても、どうしたって1歩及ばないような感じになっている。材料だって市井の物とは違うしね。こればかりはしかたがない。

 だって、それぞれのお家の人が最上を求めちゃったんだもの! そこは私のせいじゃないからね!

 まあ名物とか特産が生まれるのは良い事だから!

 閑話休題。

 そんな感じで王家の女性方にまで注目されてしまった結果、家中上げて地味に抵抗していたにも関わらず、第一王子とやらの婚約者になんぞ担ぎ上げられてしまったのが私だったりします。だから気を抜くとついため息が洩れてしまう状態。父親に到っては、隠す気もないのか、在宅中はずっと項垂れてぶちぶち文句を言っているのだから、この婚約話が我が家にとってどんだけ迷惑なものか知れるというものだ。政略結婚なんてそんなものと割り切っても尚、ここまで露骨に財産目当て後援目当てにされると呆れた笑いしか出てこない。その上で断りも文句も言えないのだから、どこもかしこもため息まみれというわけだ。

 これでその第一王子が人品卑しからぬ逸材ならともかく、王妃の嫡男とあって、うん、典型的なダメ息子。前世の感覚からすれば10歳やそこらなら矯正できそうな気もするけど、今生では成人年齢が15歳、しかも環境が悪すぎるので改善の余地なしって二重苦三重苦。さすがにこれじゃまずいと思ったのか、その辺りのお守りとか身代わりとかも背負い込ませよーっていうハラも透けて見えるからまた腹立たしいしなー。

 さらに、こいつが反面教師になっちゃったのか、元々出来がいいのか、側妃の1人が生母の第二、第三王子がまた、兄弟揃って良い子なもんだからもうね、目をつぶってても将来の泥沼が丸見えです、本当にありがとうございます。

 いやー、父様のため息とボヤキが止まらないはずだわ。勿論、私のため息も止まらない。未来が判っているだけに余計にね。

 ここに集まっている4人の令嬢達も、ある意味順当に婚約者が決まっている。そう例の攻略対象達だ。こっちはまともに躾の行き届いたお坊ちゃん達らしいけど、結局ころっと心変わりするのが判っている将来のダメ男ズだからやりきれない。

 とはいえ、希望と言うべきか不安材料と言うべきか、現時点で私というバグ要因がいる以上、テンプレ乙女ゲー展開はありえない。第一王子にベタ惚れ? 庶民上がりのヒロインを見下し嫉妬してイジメる? ハッ! 冗談じゃない。あんな無能顔だけ俺様アホ王子、熨斗付けた上に金一封まで添えてくれてやるわよ王位はやらんけどな! 国が滅ぶわ!

 ってトコがテンプレ行かない最大要因ね。加えて、いささか不本意ながら、私のせいで令嬢達にも相当変更点が生まれていた。

 はっきし言って、漢前になってしまったのである … 。

 いや、私なんぞと違って本当に生まれながらのお嬢様方ですからね、まだ幼いながらも立派なレディなんですけどね? スイーツ開発で燃えに燃えまくったせいで皆様即断力がすごいのよ。その辺りの行動力とか、鍛えまくっちゃったみたいなのよ。だ、もんで、こう、うん、漢前。私が言ったらダメかもだけど、漢前。

 まあ、ある意味「女主人」としての資質としては間違った方向性ではないんだろうけど、わずか9歳かそこらでそこまで行かなくてもいいんじゃないかなーと遠い目をしてもいいよね? 私はホラ、中身がプラスホニャララ歳だからしょーがない。まさかここまで彼女達が影響受けるとは思わなかったし。

 あと、彼女達は私と違って各々攻略対象達とはそれなりに良好な関係を築いているみたいなので、将来どう転ぶか判らないんだけど … 、十中八九、ヒロインにチラとでもなびいた瞬間に切られるな、彼ら。

 なびかない、という可能性もあるし。こっちは要観察っと。

 それはともかく、一応憧れの存在であるはずの「王子様」と婚約した私を、そんな彼女達が「心配」する時点でかの第一王子の評価が知れるってものだわね。お披露目からして酷かったからね。

 王都、各領地合わせて伯爵家以上の貴族の子供達を一同に集めての顔合わせ ―― 言い方変えると国主催の集団お見合いね ―― が行われたのが去年の事。それまでに主だった貴族同士はそこそこ交流があるし、内々に婚約話が上がっているものなんだけど、今回集められた子供達の年齢が6歳以上10歳以下って事で、さすがに王族との接見は皆これがお初ってワケ。早い話、皆のお披露目とか言いながらも実質第一王子のためのもの。つまり、お見合いもそう。彼が気に入るような令嬢を見つけるためってのが一番の目的だった。でも歳の釣り合う令嬢ばかり集めたら露骨だし、実際領地からなかなか出てこられない子供達もいるので、カモフラージュがてら横で本当に顔合わせなりお見合いなりすればいいよね? って打算もあったみたい。

 で、まあ、ここでの初挨拶でその第一王子がやらかしてくれたもんだから全員ドン引き、国王夫妻も真っ青ってなっちゃったのよね~。いくらなんでも開口一番、

「お前達が俺の下僕か! 俺に生涯を捧げられる事に一生感謝しろ!」

 だもの。引くわ、ドン引くわマジで。

 そりゃあ確かに突き詰めれば貴族なんて中間管理職もいいところだ。国のトップに下僕と言われても否定はできない。でも水面下で微妙なパワーバランスを取っている以上、それを口に出していいわけがない。その上この調子なら国民全てがそうだと思っているのがはっきり判る。教育係出て来いゴラァ、と皆の顔に透けて見えるくらい酷かった。

 この時点で国王夫妻は王子の教育に失敗したとようやく悟ったらしい。翌日には王子の教育係が全員挿げ替えられたって話だし。

 ともあれ、思ってても口に出しちゃいかんよね。お前はどこの家光だ、と内心毒づきつつ挨拶の列に並んだんだけど、そこでも他家と同じく壇上から俺様発言するもんだから、もうお父様の目も皆様の目も冷たい冷たい。

 とうとう国王夫妻から発言を止められ、それにぶんむくれたまま退出させられる始末。ないわー。

 顔面偏差値「だけ」は高かったから、あのお披露目に来られなかった子爵以下の令嬢とか市井の女性陣にはモテるかもしれないけど、中身知られたら即効で逃げられるよね、絶対。実際、今ここにいる令嬢達には拒絶されているし。だって、あのお披露目の後すぐさま今の婚約者とくっついたっていうし、いや、皆様行動マジ早っ。

 基本的に貴族の婚約って、今の私達くらいで決まっちゃうのよね、この世界。もちろん様々な事情や理由で解消される事もあるけど ―― 病死とか没落とか ―― 、大体はそのまま結婚する。そのほうが相性やらつながりやらが強まるからなんだって。

 でも私の場合、親子ともに食品開発に夢中になっちゃって社交シーズン以外領地に篭もっちゃってたのよねー。で、出会いがなかった上に、変わり者とこちらを馬鹿にしてた連中が、いざめきめき成果を上げてみせた途端そっち目当てで押し寄せてきたもんだからパパンがキレた。

 そんな御バカ達を蹴散らしまくっていった結果、ハタと気付けば私だけがポツンと残っていたわけ。アホの婚約者候補として。

 あのお披露目直後、皆様一斉に婚約したからね。

 早い話、完全に出遅れたのである。あれですよ、「希望者(生贄)は前に出ろ!」って上官が言った瞬間、自分以外が一斉に1歩下がる、アレ。

 でもまあこれで、自分の立ち位置がはっきりしたから良しとしましょうか。あとは地盤を固めてあのアホには近づかないようにしてっと。

 何せあのアホ、婚約決まって仕方なく顔合わせに出向いたらさー、言うに事欠いて「顔だけは認めてやらんでもない」「俺の足を引っ張るようなら容赦なく捨ててやる」「せいぜいこの俺に可愛がってもらえるように努力しろ」だもんなー。横に立ってたパパンが怖い怖い。微笑浮かべたままくっきりコメカミに青筋数本立ててたもんね。アホの後ろにいた国王夫妻の顔色、なくなっていたもん。気の毒なくらい血の気引いてたもん。

 乙女ゲームって、無理矢理キャラを分けて立てなきゃ見分けが付かないというか何と言うか、とにかく大人の事情的何かがあるんだろうけど、こんなキャラで本当に「乙女」が釣れるの? って真剣に悩んじゃったわー。んでもって、良くあるパターンに入った場合、転生ヒロインとやらは現物見て本当に惚れるの? こんなのに? ああ、そんな男が自分にだけは優しいとかヘタレだとかいうパターンもあるのか。

 とにかくまぁ、目指すは円満婚約解消、冤罪かけてきたらガッツリざまぁ展開できるように準備しなきゃね!

 知らず回想にふけってしまったこちらをまだ心配そうに見ている令嬢達にふんわりと微笑んで、私はここに私の戦いの宣言をかましたのである。

「私、負けませんから!」

 重ねて四つに斬られたくなかったら精進しろよ、アホ王子!


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