おまけ15 『出来るお姉さんは保護者さん』
絢さんが期待を胸に相談所を出て、はや数日。
狙っていたかのように相談所へ来たのは、ぺっぴんお姉さん真鍋由美さんです。
「ねぇ、響?」
「あら、どうしたんですか。由美さん」
「いやね、ワタシ思ったんだけど……ここってどういう施設になるワケ?」
仕事帰りだというのに珍しくお酒が入っておらず、出来るお姉さん形態。
そんな由美さんが問いかけたのは、なんだか出来るお姉さん感のある内容です。
響子さんはそんな質問に対し、緑茶を飲み、ゆっくりと間をとって答えました。
「相談所……でしょうか?」
「いや、それは分かるわよ。ていうかわざとでしょ、それ」
「さて、どうでしょう」
本日はツッコミが不在のため、自然とツッコミに回る由美さん。
そんな彼女は、ニコニコとあらあらしている響子さんに「相変わらずね」と微笑みつつ。
大人な二人による、大人な時間。
ワインでも飲み始めそうな雰囲気になる二人ですが、
「お待たせ、由美さん。ロールキャベツ出来たよぉー」
「あらぁ、ありがとう咲ちゃん。直帰だからいつも助かってるわ」
そこへロールキャベツをもって現れたのは、一部を除いてどこを見ても子どもな咲ちゃんです。
しかもこれまた珍しく、本日の由美さんはお酒でなくウーロン茶で、
「由美さん、今日はお酒じゃなくてよかったの?」
「良かったんですか?」
「まあ、ワタシも年がら年中お酒飲んでるわけじゃないし……って、響もノるのね」
「咲ちゃんの言う通り、由美さんが飲まないのは珍しいものですから。……今日はどういったご相談ですか?」
二人の息の合った質問に、自覚はあれど引き笑いを浮かべる由美さんですが、続けて飛び込んで来た響子さんの言葉にピクリと反応を見せます。
「響って、本当鋭いわよね」
「さて、どうでしょうか。ところで由美さん、ロールキャベツ冷めてしまうと思うのだけれど……」
「ああ、うん。食べるわよ」
鋭いのやら、鋭くないのやら。
そんな二人のやりとりを見つめて、咲ちゃんが一言。
「響子さん、私思ったんだけど……」
「あら、どうしたんですか咲ちゃん」
「……ロールキャベツにからしって、合うのかな?」
何の関係もない一言でした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「いやね、そんな大した相談じゃないのよ。というか質問よ?」
「じゃあ帰りましょうか、咲ちゃん」
「え、帰るの? 由美さんの相談は?」
「いやいや色々待ちなさい。悪ノリしなくていいから座りなさい。咲ちゃんが困惑してるじゃないの」
そんなこんなで改めて、由美さんのご相談。
大した相談じゃない、と言われてあらあらうふふと響子さんが席を立とうとしますが、それを由美さんが止めて座らせつつ。
「それで、よ」
食べ終えたお皿を片付けてもらい、烏龍茶を二度、三度口に含み、ようやく本題です。
「何日か前にあの子来たでしょ?」
「あの子?」
「梅ちゃんのことでしょうか」
「あの子ならいつもいると思うわ。ワタシも毎日来てるわけじゃないから知らないけど……ってそうじゃなくて」
……由美さんの気合いとは裏腹に、なかなか話が進みませんが。
「もう。ほら、絢のことよ。響も面倒みたんでしょう?」
「あ、絢さんのことかぁ。うん、響子さん達と相談に乗ったよ」
「そう……。じゃあどうだったの、あの子」
けれども咲ちゃんが気がつけば止まることなくスッキリと。
真剣な表情した由美さんが問いかけます。
絢さんはヤンキーな組織を抜けてから、ちゃんと上手くやれているのかと。
これに対して咲ちゃんは、ニッコリと笑顔を浮かべて、
「すっごく元気だったよ。かっこよくて、可愛かった! ね、響子さん」
「そうですねぇ……。お花屋さんがイチゴでした」
「それなら……って説明がちょっとアバウト過ぎると思うんだけど」
間違ったことは言っていませんが、事情を知らない人には何が何やらな説明。
会社では出来るお姉さんとして慕われている由美さんで合っても、全てを把握するのは無理なのです。
ですが彼女は「まあでも」と言葉を継いで、
「あの子がバイト決まって以降のこと知らなかったから、良かったわ。ちゃんと自分なりに、答えは出せたんだろうし」
「由美さん心配してたんだね、絢さんのこと」
「当たり前よぉ、咲ちゃん。あれでも大事な後輩なんだから。ああでも、咲ちゃん達も同じくらい大切よ?」
「あら、では私はどうでしょう?」
「響はまた別枠ね。戦友みたいなもんだし」
お話の終わりと共に、今度は三人ともが一服し、長く息を吐いて。
しかしまだまだ長い夜は続くのです。
「そういえば……二人がまだ学生だった頃の話ってあんまり聞いたことないような?」
「そうだったかしら? 前に話したような気がしないでもないんだけど」
「咲ちゃんは私たちの話、聞きたいですか?」
「うん、聞きたい!」
空になったカップに、新たに飲み物を継ぎ足して、由美さんはとうとうお酒を飲み始めて。
「あれは、まだ物心がつく前の話です…………」
「いや、そんなに前じゃないわよ。先行きなさいよ、先。ワタシと響の出会いはもっと未来よ」
「そうだったでしょうか……」
「じゃあワタシが話すわ。そうね、あれは中学の時…………」
何度も中断したり、ツッコミが入ったりもしましたが、元気な声は途切れることなく。
そうして夜は更けて行くのでした。




