32人目 『アイデンティティはお花と雨降り女さんで』
「かっこよさって……なんだろうな」
「はぁ……」
お偉いさんも、そうでない人も、アルバイトさんもそうでない人も、王子様もお姫様も。
みんながみんなお仕事や学校を終えた夜のこと。
胡麻たんがドッグフードをはぐはぐし始めた頃、相談所にはカチコミがありました。
それはもう金髪のヤンキーで、とっても睨みを利かしており、
「アタシ思うんだわ。どうしたらアネキみたいになれんのかなって」
「あ、遊佐さん。ゆうはー、ミルクティーでお願いしますー」
「はーい。絢さんは?」
「ん、おお。じゃあアタシはこのいちごココアっていうのもらうわ」
真面目な話なのかそうでないのか、そもそもカチコミですらありませんでした。
そう、本日日奈森ゆうさんと共に相談所へ来たのは、金髪ヤンキーこと古賀絢さんです。
「で、何の話だっけか」
「かっこよさが何かって話よ。あんたが忘れてどうするのよ」
「ああ、そうだったそうだった。さすがアネキの側近。すげー記憶力してんな」
「いや、どっちも違うんだけど」
いつの間にやら絢さんのアネキ——真鍋由美さんの側近かつ記憶力がすげーことになっていたらしい梅ちゃん。
ツンデレツッコミガールから大出世です。
「いちごココア美味しいですよねー」
「いや、もうその話は終わったわよ……」
しかしそんな側近さんにもゆうさんはいつも通りのほわほわゆるゆるマイペース。
そして、咲ちゃんが注文された飲み物を持ってきたところで、
「自分らしさだとゆうは思いますー」
「…………自分らしさ?」
かっこよさに関して、意見を言ってみたりして。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
そんなわけで、少しばかりのティータイムを挟んで、改めて本日の相談です。
「自分らしさを見つければ、かっこよさにつながるわけだな……」
「あ、ゆうさん王手」
既にかっこいいのにかっこよくなろうとする絢さん。
隣で咲ちゃんとゆうさんが王手してされて、としていますが、それも気にせず頭を悩ませて。
「自分らしさを追求した結果が、響子さんや由美さんなわけよね」
「ゆうのアネさんが言ったことは、多分そういうことだろーな。……ってことは、つまり」
梅ちゃんに任せっぱなしになっていますが、今の咲ちゃんは王を取ることで精一杯。
と、思いきや、目をギラリと妖しく光らせる絢さんを見つめて、
「……つまり?」
咲ちゃんと梅ちゃんが絢さんの言葉を待ち、息を呑んで、ゆうさんがコマを一つ取って、絢さんは言いました。
「たった一人でグループ潰したり、そんなアネキを笑顔だけで止められるようになれってことか……!
「いや、多分それは違うわよ」
残念、違いました。
なんだか、色々と。
「んー、じゃあどういうことだ?」
「今持ってるものに自信を持てばいいのではないでしょうかー?」
「……今持ってるもの?」
そこへ、珍しく会話の噛み合ったゆうさんの助言。彼女は咲ちゃんに反撃の狼煙を上げたためか、とても生き生きとした表情です。
梅ちゃんはそんな彼女と咲ちゃんを交互に見て苦笑いしつつ、
「あ、木刀とかの道具じゃないわよ。今の……性格とか、かしら」
予想されるであろう回答にあらかじめツッコミを入れておきつつ。
絢さんは二人の助言を受けて「ふむ」と真剣に考え込み始めます。
「……ねね、さくめちゃん」
「なによ、さっちゃん」
「私の私らしさって何?」
「…………ココア大好きなところとか、みんなと仲良しなところね」
今度は隣で、将棋ではない話しが繰り広げられて。
そうして出た答えは、
「————花が好き」
「花ですかー」
「あと、甘いもんも好きだな。かっこいいのも好きだ」
「ココア……」
かっこいいやら、女の子らしいやら、色んな方向の彼女の魅力でした。
ゆうさんや咲ちゃんはそれに思うことがあるのか、それぞれにボソリと呟きますが。
「あとは……いやないな。こんだけだ」
「あとヤンキーなところとか?」
「ああ、それもあるな」
そうして、最後に咲ちゃんが付け加えたことで絢さんの全てが明らかになりました。
ですが、
「…………で、こっからどうすればいいんだ?」
結局、またまた疑問は生まれてしまって、
「あ、遊佐さん。参りましたー」
ゆうさんと咲ちゃんの対決も、ゆうさんのゆるゆるな声と共に詰みで終わりを告げて。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「というわけで連れてきたわよ」
それから、ほんの一日後のこと。
結局答えは出ないまま解散となったのですが、まだまだ終わりません。
「一家に一大占い師、という言葉をご存知ですか?」
「響子さん、占い師ってそんなにたくさんいるの?」
「そうですねぇ。街にもよりますが、五人に四人は占い師ですよ」
「占い師だらけじゃない。そんな街行きたくないわよ」
黒いマントを羽織った黒髪美人さん。彼女は水晶玉と共に、お悩みを解決するために召喚されました。
その代償として雨が降りましたが。
「……えっと、それでこの人が解決方法を見つけてくれるかも、っていう?」
「ええ、占い師です」
「お、おお……そうか」
そんな彼女に絢さんは内心驚きつつ、響子さんの友人ということで期待しつつ。
そう、占いと共に現れた彼女は、
「あなたの街をうろつく占い師、星井ルナこと月子です!」
キメ顔で、そう名乗りました。




