おまけ⑥ 『酔っ払いお姉さんと梅ちゃん』
由美さんの相談から数日後。
改めてお礼を言いに、と由美さんが相談所に来られたのですが、
「咲ちゃぁん、ワタシにもおでん入れてぇ?」
「はーい……由美さん大丈夫?」
「大丈夫よー」
やっぱり酔っ払いでした。
手をヒラヒラと振って咲ちゃんに返事をしますが、明らかに酔っています。酔っ払いです。
彼女はゆうさんとオセロをやっており、ぱたぱたと駆けていく咲ちゃんのことを妖しい目で見たのち視線を下に落とし、
「んー……んんっ!? あれ、何がどうしたのよゆうちゃん!?」
「ゆうはー、オセロをやっていますー」
由美さんはオセロの盤面がいつの間にか圧倒的な不利になっていることを疑問したのですが、ゆうさんからは何やらずれた回答。
ゆうさんも由美さん同様にお酒を飲んでいるのですが、いくら飲んでも変わった様子は見られません。
「あっれ、ワタシちゃんとやってたはずなんだけど……?」
「あ、遊佐さん。ゆうもおでんお願いしますー」
途端に焦り出す由美さんとは対照的なゆうさん。そんな二人を見つめるのは、
「あらあら、厳しい状況みたいですね」
「…………そうね」
やはりお酒を飲んでいる響子さんと、何故だか今日は静かにミルクティーを飲んでいる梅ちゃんです。
梅ちゃんのそんな様子に思うことでもあったのか、響子さんが何か言おうとして——、
「——さくめちゃんっ!」
「ひゃわぁっ!?」
梅ちゃんの背後から咲ちゃんが現れました。
お皿いっぱいに入ったおでんを両手に持って。
「なんか今日静かだけど、どうしたの?」
「え、いや、えーと……」
いつもの梅ちゃんなら驚かされたことに怒るはずですが、今日はそんなそぶりすらありません。
それもそのはず、昨日梅ちゃんは……、
「それについてはワタシが説明するわ」
「ひぃっ!」
酔っ払いお姉さんこと由美さんの、とんでもない一面を見てしまったのですから。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「——というわけで、所謂元ヤンなのよ」
「おおー」
酔っ払いお姉さん改め、元ヤン酔っ払いお姉さんの由美さん。
以外にも皆が皆そんな状態を当たり前のように受け入れていました。
響子さんは元々知っていましたし、ゆうさんは分かっているのかいないのか拍手。咲ちゃんに至っては感嘆の声を上げています。
「…………いやそれでも怖いわよ」
先程いつぞやの咲ちゃんのような声を出した梅ちゃんはと言うと、咲ちゃんと手を繋いでました。
よほど由美さんの睨みが怖かったようです。
「あれ、ゆう思ったんですけどー、どうして紗倉さんが見てたって知ってるんですかー?」
そんな皆さんを見て由美さんがほっと息を吐いたところ、ゆうさんが手を上げて疑問を口にしました。
「あ、それは……」
「由美さんは気配が分かるんですよ」
「え、そうなのっ!? じゃあさくめちゃんも食べられるところだったの?」
「そうなんですか? ゆうもそのうち食べられるんでしょうかー」
「……いや嘘に決まってるでしょ! そもそも食べるってなによ! ヤンキーが人を食べるか!」
「あっ、さくめちゃんが戻った」
説明しようとする由美さんを妨害するかのようなボケ倒し。
それに対しついに梅ちゃんが復活しました。
「…………梅ちゃんも大変ね。あ、基本ワタシは怒らないから大丈夫よ。この前のはああでもしないと帰らなかったからってだけだから」
「え、ああ……うん」
「だからもっと肩の力抜いていいのよ」
気を遣ったのでしょうか、由美さんはぱちーんとウインクをしつつ梅ちゃんに笑顔を向けます。
それを受けた梅ちゃんの表情は冷めきっていたことはさておき。
「あ、それでどうしてなの?」
「ああ、そうね。ええっと……この前出くわしたのはやんちゃしてた頃の後輩なの。ワタシが睨んだら帰ったはずだったんだけど、後で引き返してきてね」
「そう、それがきっかけで今回の事件は起きたのです……」
「響子さん、探偵相談所の出番だね……っ!」
「ではゆうはー、状況に耐えられなくなって一人になる役やりますねー」
「それ真っ先に殺されるタイプじゃないの。探偵と一緒にいなさいよ。というかいい加減茶化すのやめなさいよ」
なかなか話が進まず、由美さんが笑顔のまま固まっています。
もちろん、それが理由で怒ったりする由美さんではありませんが。
「……梅ちゃんも大変ね」
「……ええ、そうね」
先程は微妙な空気だった二人も、二度目の発言と共に友情の握手を交わしつつ。
改めて由美さんは続けます。
「で、ええっとどこまで話したんだっけ」
「どこでしたっけー」
「あらあら、あの子に梅ちゃんが見ていたと聞いたって所までですよ」
「待って響、それワタシが今から話すところよ。ワタシが話したのはその前じゃない」
「あら、そうだったでしょうか」
あらあらうふふととぼける響子さんに笑みをこぼす由美さんとゆうさん。
そこには元ヤンだとは思わせないようなべっぴんさんがいて、咲ちゃんと梅ちゃんは顔を合わせると、
「ねね、さくめちゃん」
「どうしたのよ、さっちゃん」
「由美さん、全然怖くないよね」
「……まあ、そうね」
えへへと二人も笑顔を交わします。
もっとも、
「二人とも何話してるのかしらー?」
「ひぃ」
梅ちゃんも頭では分かっていても、ずいっと顔を近づけてきた由美さんにはまだやっぱり怯えてしまうのですが。
「ねえ響、ワタシそんなに怖いのかしら?」
「そうですねえ……私はそうは思いませんけど、昔由美さんの睨みは殺人鬼みたいって言われてたくらいですし」
周りからとんでもない評価を受けていた由美さんはそれにショックを受け、咲ちゃん達が励まして、笑って。
そんなこんなで、夜は更けていくのでした。




