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11人目 『由美さんはココア好きを見ゆ』



 翌日。

 小鳥さんがちゅんちゅんと鳴く爽やかな晴れ空が窓の外から顔を覗かせて、昨夜酔っ払いだった女性を照らします。


「あー、頭痛い……」


 今回のお客さんの真鍋由美さん。

 何やら彼女には現在悩んでいることがあるらしく、なかなか解決出来ない苦しさが理由でお酒を毎日のように飲んでいるとか。

 さすがにやっていられないとのことで、相談所に依頼をすることを決心したとのことですが……、


「はい由美さん、お水」


「ありがとう咲ちゃん……って、ワタシいつも水ばっかり貰ってないかしら」


「そりゃあんたがお酒ばっかり飲んでるからでしょうが」


「あらあら、厳しいですね」


 特に昨日は飲み過ぎたらしく、顔色もあまり良いとは言えません。

 ですから梅ちゃんも厳しい意見を彼女に対して送るのですが、


「訳ありだからって飲み過ぎは良くないもの。あんたはもっとこの人……あー、響子さんを頼りなさいよ。昔からの知り合いだし遠慮しちゃうのかもしれないけど」


「あらあら」


「あっれれぇ?」


「な、何よ」


 やっぱり梅ちゃんは梅ちゃんでした。

 厳しい言葉のように聞こえても、その実ちゃんと心配をしているのです。


「さくめちゃんは優しいね」


 大人二人に温かい目線で見られつつ、トドメに咲ちゃんの言葉が梅ちゃんにクリーンヒットします。


「——っ」


 何か言おうとしているようですが、それは声になりません。

 顔は梅のように真っ赤で、俯きながらプルプルと震えています。


「……はっ」


 そんな梅ちゃんを数秒見つめる咲ちゃん。

 彼女は何かに気がついかと思えば、


「んな……っ」


「えへへー」


 何故か梅ちゃんの手を握り始めました。

 一体梅ちゃんの何を見てそれを始めたのか、それは咲ちゃんのみぞ知るところです。


「……えーと、こほん。まあ二人の可愛い成分はもらったから、本題行きましょうか」


 しかしそれは、本日のお客さんである由美さんの声によって中断させられるのでした。

 正気に戻った梅ちゃんが、照れから手を離すことで。


 とはいえ、もちろん咲ちゃんは再度梅ちゃんの手を握り直しましたが。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「実はね」


「……うん」


 改まって、本日の相談です。

 店内には緊迫した空気が流れており、由美さんの一挙一動、話す言葉の一文字にも視線が集まって——、


「ワタシね」


「……うん」


「最近——」


「早く話しなさいよ」


 やけに勿体ぶって話す由美さんに梅ちゃんがツッコミを入れました。


「もう、そんなに怒っちゃ可愛らしい顔が台無しよ? カリカリしないでもっと柔らかくいるといいわ。梅ちゃんだけに」


「あら、お上手」


「あんた真面目に話す気があるのかないのか、はっきりしなさいよ……」


 とうとう梅ちゃんが呆れてため息を吐きました。あの梅ちゃんが。


「まあでもそうね。いい加減話すわ」


 梅ちゃんの態度を見て、さすがにのらりくらりとしているのにも限界が来たと判断したのか、由美さんは軽くため息を吐いて、


「——ワタシ最近ね、誰かにつけられてるみたいなの」


 やや低くなったその声で、悩みを口にします。


「あら」


「それって……あれ? えーと、何だっけ。す、す、す……スニーカー?」


「ストーカーよ」


「あ、ストーカーだ! 何だか急にど忘れしちゃって」


 てへへと舌を出して笑う咲ちゃんですが、一方由美さんはというとやや難しい顔をしていました。


 来るたびに酔っ払っていたという由美さんですが、こうして真面目な話をすることも、そんな表情をするのも、かなり珍しいことです。

 そんな由美さんを見かねてか、


「……いえ、実は由美さんは組織に追われる身なんです」


 何やら素っ頓狂なことを言い出しました。


「響子さん、組織って?」


「高級なココアばかりを集めているという組織です。昔由美さんと一緒に解体したはずなのだけれど……」


「え? ココアを……?」


 ココアと聞いた途端にむっとした口で響子さんの話に頷く咲ちゃん。

 何やら幹部だとか、制裁はココア禁止などという言葉が聞こえてきますが……、


「いや嘘に決まってるじゃない」


「……へ?」


「さて、どうでしょう」


 梅ちゃんの冷たい目に対して、響子さんはふふっと笑ってわざとらしく口笛を吹きます。

 その様子をほけっと眺めていた咲ちゃんは、


「ええっ!? 響子さん騙してたの? ひどいよぉっ!」


 涙目うるうるでぽこぽこと響子さんを叩きます。


 そんな中、先程から黙っていた由美さんはというと、


「……ぷ、ふふっ」


 張り詰めていた表情はどこへやら。

 咲ちゃん達を見て笑いを漏らしていました。


「…………本当、変わらないわね」


「あらあら。これでも去年と比べると身長伸びたんですよ」


「えっ、そこなの?」


「ちなみに響は昔からこんな感じよ」


 先程よりもぐっと明るくなって、自然と声の調子が弾む由美さん。

 そこにはもういつもの彼女がいて、


「それじゃあみなさん。一度お茶を入れて仕切り直しましょうか」


 空気の一切を変えた響子さんがいるのでした。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「それじゃあ由美さん。改めて確認するけれど、ストーカー被害ということで良いのかしら?」


「ええ、そうね。大体二、三週間前あたりから誰かに見られてるみたいなの。家に押しかけたりいたずらされる、なんてことは今の所ないわ」


「じゃあ私たちでその人を捕まえるってことだね!」


「まあ、そうなるわよね」


 一度仕切り直し、改めて話をまとめている響子さん達。


 部屋にはコーヒーやココアの湯気が登って、甘い苦いどちらもの匂いが部屋中に広がっていました。


「では早速今日捕まえに行きましょうか」


「えっ、いきなり?」


「思い立ったが吉日、ですよ。咲ちゃん」


「ちょっと響、楽しんでない?」


「あら、どうでしょうか」


 今回は珍しく、三人でのお仕事。

 内容は由美さんのストーカー被害を解決すること。

 そんなこんなで、


「それじゃあ由美さん守り隊結成です」


「おー」


「いや、何よその名前」


 ゆるくふんわりと、始まりました。

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