0人目 『維澄響子のお悩み相談所へようこそ』
そこは喫茶店のような、大きな大きな木のお家。
「大変っ! 大変大変、大変だよ響子さぁん!」
突然入り口の扉が勢いよく開かれたかと思えば、そこから現れたのはシュシュでくくった茶髪を大きく揺らす可愛い可愛い女の子でした。
「あらあら……どうしたんですか。咲ちゃん」
本に視線を落としていたお姉さんは、入り口から現れた女の子に視線を向けます。
咲と呼ばれた女の子。彼女の名前は遊佐咲。お姉さんの助手を務めている高校一年生です。
「え、ええっと、そのっ! 犬がしゅばばばーってなって、わーってなって捕まえられなくて! それで、その! どうしようかなって……」
何やら彼女は大慌てな様子です。
歳の割に小柄で、だけどグラマラスな体を揺らして、身振り手振り全力で事の顛末を伝えようとしているみたいで。
そんな咲ちゃんの様子を見て、お姉さん——維澄響子さんは、ふふっと笑います。
「咲ちゃん。落ち着いて話してくれないと、話が分かりませんよ。まずは深呼吸、です」
「で、でもぉ……っ!」
「はーい。吸ってー、吐いてー、ね?」
焦るあまり渋る咲ちゃんでしたが、やがて笑顔の押しに負けて深呼吸を始めました。
響子さんの掛け声に合わせ吸って、吐いて。吸って、吐いて。
スタイル抜群の響子さんはもちろん、トランジスタグラマーな咲ちゃんの体がそれに合わせて大きく揺れ動きますが、女性同士なので何も気にすることはありません。
何度も何度も深呼吸を繰り返すうちに、うんと走って激しくなった咲ちゃんの息遣いも、さらさらと流れる汗も、落ち着きを取り戻していきます。
「……落ち着いた?」
「あ、うんっ! 落ち着いたよ、響子さん!」
「それじゃあ、ちょうど今お湯が沸いたところなの。だからココアでも飲んで、落ち着いてくださいね」
「えっ」
「あらあら、咲ちゃんはココア嫌いだったかしら?」
「え、ううん。大好き、だけど……」
「良かった。それじゃあ、少し待っててくださいね〜」
助手を務めてしばらく経つというのに、響子さんの独特なペースにまだまだ慣れていない咲ちゃん。
そんな彼女の困惑に気がついているのかいないのか、響子さんは鼻歌交じりにカップへココアの粉を何杯か入れて、お湯を注ぎます。
そうすると、部屋中に甘い香りがふんわりと広がっていき、困惑していた咲ちゃんの表情がとろんとしたものに変わりました。
「いい匂い……」
彼女は響子さんにマグカップを手渡されると、ふー、ふー。火傷をしないように冷まして飲みます。
ちなみに咲ちゃんはココアで、響子さんはコーヒー。砂糖もミルクも入っていません。響子さんは、大人なのです。
「はぁうぅー…………っ」
体に染み渡るココアの甘さに、咲ちゃんは頬を染めて喜びの声を上げます。
彼女は余程疲れていたのでしょうか。心地良いココアの甘さに息を吐くと、それと一緒に魂が抜けていき、やがて真っ白に燃え尽きました。
「……あらあら。おーい、咲ちゃーん。朝ですよ〜」
カップを持ったまま死んだように動かなくなった咲ちゃんに、響子さんがにこにこと微笑んで手を振ります。
「…………ほぇ」
高校生らしく、朝、という単語に驚いたのでしょうか。
はっとなった咲ちゃんはぶんぶんと頭を振り、
「——え、もう朝っ!? 学校、学校行かなきゃ! あれ、でも変だよ響子さん! 私ココア持ってる!」
再びスイッチが入り、蘇りました。
「もう夕方ですよ〜」
「あれ!? 私一日寝てたの? えええーっ?!」
あたふたとし出す咲ちゃんに、ただただ笑顔を浮かべる響子さん。
咲ちゃんが再び落ち着きを取り戻すのは、それから数分経ってからのことでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「…………ふぅぅぅぅ」
カップに入っていたココアを飲み干し、大きく伸びをする咲ちゃん。
彼女はふっと口元に手をやって何事かを考えます。
「ねぇねぇ、響子さん? 私何か忘れてるような気がする……。何だっけ」
大変、魂と一緒に記憶まで飛んでしまったようです。
うーんと唸って首を傾げますが、残念なことにそれでも思い出せないみたいで。
「あらあら。お花の水やりでも忘れたんですか?」
響子さんも響子さんでした。
コーヒーを片手にほうっと息を吐いて、窓の外の夕焼けを眺める彼女はまるで一枚の絵画のようです。
「ううん、違う……。何だろう、私すっごく焦ってた気がするような……」
「——お犬さんのことかしら?」
「お犬さん……あーっ! それだよ! そうだよ! それなんだよぉ響子さん!」
これまたなんと、響子さんはとぼけていただけでした。
それに気がつかない咲ちゃんですが、今度はちゃんと分かりやすく説明してくれるみたいです。
「えっと、あのね。さっきまで依頼の犬の散歩してたんだけど、目を離したらどこかへびゅーんって走って行っちゃって。それで、そのぅ……、捕まえられなくてぇ…………」
「————お犬さんが逃走ですか。確かに世間は厳しいことばかり。逃げたくなる気持ちも分かります」
彼女の説明にうんうん、と頷いてみせる響子さん。
何だか話が少しずれているような気がしますが、問題ありません。
何故なら響子さんは、
「依頼人の方から笛を預かっていたでしょう? あの笛を使ってみれば、ちゃんと戻ってくるんじゃないかしら」
ちゃんとしたアドバイスも、返してくれるからです。
慌てるばかりで笛の存在を忘れてしまっていた咲ちゃんも、そのアドバイスにショックを受けるどころか感激して、
「なるほどぉ……っ! じゃあ、やってくるね! ありがとう、響子さん!!」
すぐさま立ち上がり、嵐のように飛び出て行きました。
残ったのは、響子さんたった一人だけ。
しかし寂しいなんてことはありません。彼女は咲ちゃんが走り去って行った扉を見つめて、にこにこと笑顔を浮かべます。
「————」
それから、咲ちゃんが飲み干したカップを片付けようと立ち上がったところ、こんこん、と入り口の方から扉を叩く音が聞こえてきました。
今度は一体、誰でしょうか。
「はーい」
彼女が返事をすると、綺麗な鈴の音がシャランシャランと鳴り響いて、扉が開きます。
続いて現れた人物に、響子さんは振り返って、言いました。
「いらっしゃいませ。維澄響子のお悩み相談所へようこそ」
1人目の従業員
なまえ :維澄 響子
ねんれい:24歳
たちば :マスター
しゅみ :おしゃべり、読書
すき :咲ちゃん、本、料理
きらい :一体なんでしょうね、ふふ。
みため :ミステリアス。髪色はアッシュグレー。
軽くカールかかってて胸元くらいまで。
身長は172で、スタイルが素晴らしい。
ひとこと:あらあら。




