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悲哀桜花
────それに手をかけると、人はたちまち滅ぶと云われている。だから、試したものは誰もいない。
己を信じ、未踏未開の禁忌とされた地へ足を踏み入れるか。
云われを信じ、ただ安泰と平和が約束された運命を過ごすか。
正しい道など、拓かなければ分からない。
嗚呼──如何に形容できようか。この景色を。
月明かりに照らされた桜の花びらたちは、その肌を煌々と照らし、素肌の撫子色を隠して妖しく輝きを湛えていた。
五稜郭の一角に桜で一杯の地が生まれたのは、かの五稜郭戦争よりも前。その激戦を越えて、未だ尽きず咲き続けているのだ。
そして、中心に佇む一人の人物。彼女はただ、ここに残るよう言われているだけ。それが「さだめ」だから。
彼女の頬は濡れていた。そしてひとすじの風が吹き──
──彼女の姿は、消えた。