可愛いだけの私ですが
こういう話を書いてみたくて。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
―リナベル様?まぁ、外見は美しいかもしれませんが、ねぇ?
―ふふふ、中身がともなってないといっそ憐れですわよねぇ
社交界では慎ましやかに微笑んでいる令嬢たちも親しい間柄で行われる茶会の席では正直だ。
むき出しの悪意は刃物のようにリナベルに襲いかかった。
もともとリナベルは落ち込みやすい性格なのだ。ほとんど話したこともないのにあからさまに嫌悪感を抱かれる自分。怖くて屋敷に引きこもったこともあった。
それでも彼等は、リナベルを放っておいてはくれない。
リナベルは特別に可憐な娘であった。
幼い頃から完成された美しさだとちやほやされながら生きてきたが、成長してからは美の女神の化身だといっそ崇められるようになった。
身代金目当てではない誘拐、狂った男たちによるストーカー。そんな被害にあったことも一度や二度ではない。立派な男性恐怖症におちいった。
しかし、問題はそれだけではなかった。周りの少女たちはリナベルの容姿に嫉妬した。どんなに美しく着飾っても一番はいつもリナベル。
どんなに品よく、心を清く生きても好きな人の視線にはリナベル。
彼女達はやがて正攻法ではリナベルにかなわないと知って、悪口や噂話でリナベルの評判を落とそうとしたり、過激なものでは暗殺を図ったりした。
男性は怖い。でも女性はもっと怖い。
いまではリナベルは人間不信街道まっしぐらである。
そんな彼女には当然のごとく幼い頃から求婚者があとを絶たなかった。
把握しきれないほどの数だったそれは水面下での争いにより徐々に減っていき、今では四人にまで絞られた。
その四人が、リナベルの一番の悩みの原因だ。
一人目は第一王子のギルバート。
毎日毎日プレゼントと手紙を勝手に送り付けてきて、一日でも返事がないと屋敷まで乗り込んでくる。
そのくせ容姿と身分だけは最高で、ギルバートのせいでリナベルは隣国の姫にまで睨まれているらしい。
二人目は公爵家の跡取りルイス。
夜会で絡んできては顔を寄せたり腕を絡めたりしてリナベルと親密な関係なのだと周りにアピールしようとする。
彼の本心はわからないが、令嬢たちの刺すような視線のせいで胃に穴があきそうになる。
三人目は従兄弟のユージィン。
危険度でいえば彼が一番だ。気がついたらリナベルの部屋にいたり、挨拶だとうそぶいてキスをしようとしたりしてくる。幼い頃からよく遊んだ従兄弟だからか、両親も彼には少し甘い。外が怖くて引きこもった時も平気な顔で構ってきた。
四人目は王国騎士のノア。
彼については良く分からないが、彼を見つけたときは必ずと言っていいほど彼もリナベルを見ている。何をいうわけでもなくその整った顔でただじっと見つめているのだ。求婚者の中に名前を見つけた時には二度見した。
両親は、この四人ならきっとお前を幸せにしてくれる。お前の人生だ。お前が自分で決めなさい。というけれど、それなら誰とも結婚せずに愛馬のキースとずっと過ごしていたい。
貴族の令嬢にうまれた以上そんなことは無理だとわかっているが、願わずにはいられなかった。
「お父様、ちょっと庭に出るわ。」
「またキースか?今日は舞踏会のドレスの採寸だろう?」
だって舞踏会、行きたくないもの。とはいえない。
断れるものは断るが、今回は皇后様主催である。
行かない、なんて選択肢はない。
「以前測ったのとそんなに変わらないわ。ドレスのデザインはお母様に任せているし。」
明らかに興味のないリナベルに父は苦笑する。
でもあの四人も確実にくる舞踏会なんて散々な目に合うに決まっているのだ。楽しみな方がおかしい。
何もその四人が特別に嫌いなわけではない。
だが、男性のいうことなんてみんな同じだ。
二言目には容姿を褒める。
母譲りのピンクブロンドや空色の瞳は気に入っていたが、こうも容姿だけを褒められると、女の子たちの噂が本当だと言っているようなものだ。
可愛いだけで中身の伴わない伯爵令嬢様と呼ばれていることはリナベルだって知っている。
父の返事を待たずにリナベルは馬屋に向かった。
馬屋では4頭の馬が並んでいる。
リナベルは迷わず一番端の馬に近づいた。
「キース、おはよう。いい天気だし散歩に行かない?」
「それはいいね。俺もお供してもいいかな?」
リナベルはまた来たわね。とため息をつく。ユージィンだ。
柔らかな茶髪に少し垂れた目尻。甘いマスクの彼は軽い印象を受けるが学業に限らず何事にもそつがない。
ユージィンは当然と言わんばかりに頬に唇を寄せてくる。
「あなたね、仮にも年頃の男女なのよ?誤解されるような行動はとらないで!」
「ここには俺とリナベルしかいないし、誤解されても困らないよ。」
私は困るの!
ユージィンはいつもこの人あたりのいい笑顔でごまかすのだ。両親も、仲のいい侍女もユージィン相手だと強く言えないのかこうしてすぐにリナベルの居場所をばらしてしまう。
「リナベル、行くよ。」
いつの間にかキースに乗ったユージィンが手を差し出してくる。
ちょっと、勝手に乗らないで!と文句を言おうとするが、いつもなら他人に懐かないキースが大人しいのを見て、諦めた。
ユージィンに手を引かれキースの背に乗るとそのままゆるやかなスピードで走り出した。
ユージィンは勝手で強引だけど、彼とともにキースを走らせるのは不思議と心地よかった。
リナベルと初めてあったとき、彼女は3歳、俺は五歳だった。
その頃からリナベルは輝かんばかりに可愛くて、幼い俺はすぐにメロメロになった。
リナベルのわがままならなんでも聞いてあげるし、うんと甘やかしてやりたくて随分と構ったと思う。
成長したリナベルは過去にいろいろ経験したせいか人との関わりを露骨に避けているようだった。
小さい頃は心を開いてくれていたのに年頃になってからは警戒心もあらわに接してくる。
寂しい気持ちもなくはないが、今のところリナベルが、怒ったり拗ねたりを正直に言って見せるのは自分だけだ。
ほかの人間にはもっと感情を隠してひたすら大人しく振舞っているのだから。
一歩リードというほどではないが、リナベルに求婚している他の三人が、自分を羨ましく思っているのを知っているからか今は焦って関係を迫るつもりはない。
自由なリナベルが好きだ。
貴族の令嬢なのにこっそり馬を走らせているのも
本当は草に寝転がって日向ぼっこするのが好きなのも自分だけが知ることだ。
穏やかに見守っていられるのは今のうちだけかもしれない。自分の中の恋焦がれる感情をいつまでも隠し続けていけるわけはないのだから。
だけどもう少し、誰のものにもならないリナベルを見ていたいと思う。
もちろん、誰かのものになったとき、隣にいるのは自分でありたいと思う。
「お嬢様、今日はエメラルドのブローチでございます。」
侍女の言葉にため息をついた。
分厚い封筒と高価なブローチを受け取る。
宛名は見なくてもわかる。ギルバート殿下だ。
よくもまぁ毎日毎日こんなに書くことがあるわね、といっそ感心している。
手紙を流し読みするといつもどおり最初の一枚は読む気も失せる口説き文句だ。
達筆なのが逆に腹立たしい。
リナベルは机の引き出しから便箋を取りだして、返事を書く。
ギルバートは返事をよこさないとすぐにうちに押しかけるが逆にどんなに適当でも手紙さえ返ってくれば満足らしい。
だからリナベルが書く文は毎回ほぼ一緒だ。
今日は天気がいいですね。
殿下がお元気そうで何よりです。
お忙しいことは存じておりますので、私のことなど気になさらずにどうか御身を御自愛下さいね。
遠まわしにもう手紙はいりませんと言っているのだがギルバートには通じない。
それどころか、愛しいリナベル。君の文章に文句をつけるつもりはないがここはこうしたほうがいいよ
など言ってくるのだ。
リナベルとしてはいっそ完璧な文章でにべもなく手紙をよこすなと送りたいが、ギルバートの方が何倍も上手で今のところは全敗だ。
そもそもギルバートというのは、なんでも完璧にこなさなければ気がすまないような人間で、燃えるような赤髪をふり乱しながら、王国一の腕と呼ばれるノアと剣技の実戦練習しているのを見たときは、この人何を目指してるのかしら、と思った。
ギルバートの手紙は面倒くさいが、何故か代筆させたことはない。そういう気が起きないのはどうしてだろう。
「殿下、リナベル嬢から手紙が届きましたよ。」
私の一日で唯一の楽しみの時間だ。
今日も彼女の手紙はそっけない。こうも味気ない手紙ばかりよこされるとどうにかして感動させてやろうといろいろ工夫する。
おかげでいまや私の文章能力は国家文官にもひけをとらない。
最初にリナベルと出会ったときは、妙な反発心があった。次々と陥落する男たちを見て、私は騙されないぞ、と思っていたのかもしれない。
それが好意にかわったのはいつの間にかのことで、決定的な瞬間などはなかった。
彼女は思っていることが顔にそのまま出るタイプだった。今は大分大人しくしているがその癖は幼い頃から変わらない。
普通の令嬢なら媚びを売るのに忙しい社交界でも、いつもつまらなそうな顔しか見かけなかった。
たまに嬉しそうな顔をしたと思ったらリナベルの視線の先には綺麗に整えられた庭の隅の咲く、野草や野花があった。
その時は彼女は自然を愛する子なのだと意外に思ったが、後で聞いてみたら愛馬が好んで食べる植物らしい。それは流石に見た目を裏切りすぎだろう。
容姿は可憐でも、中身は違う。
彼女は普通の女の子だった。他の貴族の令嬢たちと比べると少しだけ変わっているだけの本当に普通の伯爵令嬢。
それなのにその容姿のせいで好意も持たぬ男たちから言い寄られ、名前も知らぬ女たちから虐げられる。
つまらなそうに、すこしさみしそうにため息をつく彼女を守ってやりたいと思い出したのはいつのことだったか。
私に他に3人強敵がいることは知っている。彼女の婚約者候補については昔から騒がられているから。
私は王位継承権を持つ王子だし、権力に物を言わせることはできる。
それではつまらないからといままでそれは使わずにいたが、
もし、もしもほかの誰かの手に渡るようなことがあれば。
私は持っているものを全て使ってでも彼女を奪い取ってやるのだと、そう思った。
なんであのお方がここにいるのよ!
リナベルはその姿を目にした瞬間絵に書いたように固まった。
彼はリナベルに気づくと誰もが見とれるような笑顔を見せる。リナベルには、背後に舌なめずりをした猛禽類が見える、あのとろけるような笑みを。
公爵子息のルイス。
彼のような身分の方が来るような会じゃない筈なのに。
叔母の開いたお茶会に参加するのが今日ここに来たリナベルの目的だ。ちなみにユージィンの母親だ。
今日来るのはあなたより随分年上の女性だけだし、あなたを害する人なんていないわ。ユージィンだって立入禁止よ。
と叔母に言いくるめられたのもあるし、お世話になっているから、と両親に促されたのもあって出席した。
それなのになぜ彼が。
「まぁ!ほんとに来てくださったのね。」
叔母が嬉しそうに呟いてルイスの方に挨拶に行く。
ルイスは一言二言叔母と話すと、迷わず私の方に来た。
「こんにちは、君に会えて嬉しいな。」
私よりひとつ年下のルイスは少し童顔で、にっこり笑うと協会に描かれた天使様のようだ。光を集めて輝くプラチナの髪が揺れる度に、ほぉ、と簡単のため息をつく声が聞こえる。
だが騙されてはいけない。外面はこうでも内面は悪魔のように真っ黒なのだから。
そうでなければ、自分に視線を集めたまま私のところによってきて大して親しくもないのに腕を絡めたりしない。
毎回夜会の時は対策をねっていくのだが今日は油断していされるがままになってしまった。
彼が私にそういう意味での好意を抱いているとはとても思えないが、まわりはそんなことは関係ないとばかりにジロジロ見てくるのだ。
もういっそ公衆の面前でこっぴどくふってしまえばいい。私の評判なんてもともといいものはほとんどないのだから。
だけど、彼のどこか嬉しそうな横顔を見ていると、そうしようする気が起きないのはどうしてだろう。
あぁ、リナベルってほんとおもしろい。
今日も素晴らしい反応だった。驚きに見開かれた大きな瞳にひきつった紅い口元。
これだからやめられないのだ。
リナベルと初めてあったのはほんの二年前だ。
いつも噂の中心にいるくせに窓のそばでつまらなそうにしている彼女に、少しいたずらしてみたいと思ったのだ。
周りが僕と彼女に注目しているのを確認して彼女に話しかけると、意味がわからない、と書いてある顔で必死に作り笑いをしてきた。
僕は思わず吹き出しそうになったけど我慢してダンスに誘う。近くで見た彼女は不覚にもこの僕でさえみとれてしまった。
嫌そうな顔を隠しもせずにダンスに応じるリナベルにたまらなく興味が湧いた。
嗜虐心。僕にこんなものがあるなんて思わなかった。ほかのどの女の子をいじめても全然楽しくなのに、リナベルならどんな反応だって面白い。
彼女の表情はいつだって正直で、そのくせその誘惑するような唇から出る言葉だけが嘘つきだ。
夜会で見つける度に彼女に必要以上に近づいた。僕と目が合った時の絶望の表情。
美しい彼女の表情を崩しているのはこの僕。
リナベルは僕にどうしようもない優越感を与えた。
それと同時に、強い劣等感も味わうハメになったけど。
彼女の周りはみんな強敵で簡単にはリードできない。
だからこそ、彼女の心を乱すのは僕でありたい。
あの三人が年下だと舐めているうちはリナベルへの接触は容易だ。
僕は彼女を絶対に手に入れたいし、ほかのやつのものになるなんて論外だ。
リナベルが僕をちっとも意識してなくたって今はいいのだ。
意地悪な僕の方が、リナベルの心に残るなら。
優しくなんてしないのだ。
なんでこんなことになったのかしらと、相手にバレないようにため息をつく。
目の前にはなぜか王国騎士の中でも絶大な人気を誇る、ノアがいる。
近くで見ると本当に人形のようだ。陶器で作られたような白い肌に深い藍色の瞳だけが際立っている。
光のさし方によって黒にも紺にも見える髪色だってどこか神秘的だ。
そんな彼と肩を並べて歩いている。
となりを歩いているのにちらりと視線をよこす度に目が合うのはなぜなの?と疑問に思わずにはいられない。
今日はどうしても王宮に行かないといけない、と父が言い出したのは数時間前。朝目覚めたばかりの頃だった。
私が引きこもるのを予想して当日まで黙っていたに決まっているが、寝ぼけた頭では半分も理解できずにされるがままに準備をされて気づいたら王宮へ向かう馬車の中だった。
別にリナベルが行く必要はないが最近引きこもりすぎだし出かけた方がいい、王宮は安全だから。と道中に散々説得され、いまここにいる。
来たはいいもののやることなんてない。
書庫に行ってみれば?と無責任にも言われたので遠慮なくお邪魔することにしたが王宮なんてめったにこないから道がわからない。
そこに現れたのがノア、というわけだ。
たまたま手が空いているから案内すると言われた。ありがたいが、仕事はいいのだろうか。
ノアは王付きの騎士のはずだ。騎士の中でも最も地位が高いと言われるその場所に実力だけでのぼりつめたのだとよく話題に上がる。
その美しい顔も相まって貴族のお嬢様の中でも人気の男性だ。
実は私はノアのことをそれくらいしかしらない。どうして私に求婚しているのかもまったくわからないし、本人は何も言わない。
再びチラリと彼を見上げるとその藍色の瞳と、バッチリ目が合う。
なんなのかしら。これ。
ほかの人に見つめられると居心地が悪いのに、ノアに見つめらることは自然に受け入れている自分がいた。
あぁ、また目がいってしまった。
彼女は美しい。今まで見た誰よりも。
だけど彼女の魅力はその人形のようにもみえる整った容姿ではない。
自分が散々賞賛されたからわかる。
彼女と自分はよく似ているのだ。
リナベルを一番理解しているのは自分だ、といつも思う。
気づいたらリナベルを見てしまうし、目が合うと心が温かくなる。
今まで極力人との関わりを避けてきたが、彼女に惹かれて変わった。
彼女を守るためには力が必要だ。権力も、地位も。もっともっと必要なのだ。
空っぽだった自分が満たされていくのがわかった。だが欲望は膨らみ、何かを手に入れてもすぐに次を欲してしまう。
彼女を本当の意味で守れるのは自分。
ずっと見ていたからわかるのだ。
他の男になどまかせておけない。
彼女と自分は同じなのだから。
だから、それ以上近づくならもういっそ、彼女を無理矢理閉じ込めてしまおうか。
氷のようだと言われ続けたこの心だが、飢えた獣のようにリナベルを熱望する想いが確かに存在した。
夜会を前に、思い悩んでいた。
最近立て続けにあの四人に会って、自覚せざる負えなかったのだ。
あの四人はほかの人とは違う。求婚してきた真意はわかりかねるけど、きっと容姿だけじゃない、私のことを見てくれる。
ううん、どうして求婚してきたのかしら?なんてずっと逃げていたけど、本当はわかっていたのだ。
彼等は私を愛してくれている。
それぞれ愛し方に個性をあれど、私の事を見て、選んでくれたのだ。
それでも怖かった。そんな風に愛されたことなどなかった私には、返すあてがない。
求められても、何も返せない。そう思ってた。
だけど気づいたのだ。ちゃんと選ばなきゃ。
選んで、彼等に自分で伝えるのだ。
そのためには真剣に四人と向き合って見ようと思った。
今ままで避けていたものときちんと向き合って、自分の心でちゃんと考えたいと思った。
それが私に返せる唯一のものなのだろう。
そんな時だった。私の家に四人が訪ねてきたのは。
淡いブラウンのレースで落ち着いた印象に仕上げられているパールの手袋。
燃えるような赤色の大きな宝石で飾られた大胆な意匠のネックレス。
輝くプラチナを贅沢に使った、触れるのを躊躇ってしまうような繊細なティアラ。
深い海のような濃紺だが光に透けるときらきらと輝く不思議なガラスで作られた靴。
それらをもった四人が真剣な顔で私を見てる。
「もし、彼等の中の誰かを選ぶのなら、これをつけて舞踏会に来て欲しい。だそうだ。」
父の言葉にユージィンが頷いて、前に進み出る。
「俺は、待つよ。君の気持ちが追いつくまで。もちろん、君が俺を好きになってくれるように努力する。だから、俺を選んで。」
ユージィンが言い切ったと同時にギルバートも一歩踏み出す。
「私が持つ地位は、君を守るものじゃないかもしれないが、私自身が君を守ると誓う。だから、私の手をとってくれないか?」
ルイスはいつものように距離を詰めずに、ギルバートの隣に並ぶ。
「君が望むならどれだけだって優しくする。ううん、僕が優しくしてあげたいんだ。僕の気持ちを受け取って。リナベルが好き、愛してる。」
ノアはいつものように私をじっと見つめて、それから口を開いた。
「あなたをもっと理解したいし、あなたにも自分を知ってもらいたい。そのためにはまず、自分と共に生きて欲しい。」
後ずさりたくなる気持ちをぎゅっと押し込めて前を向いた。
どうしてだろう。
どうしてずっと気づかなかったのだろう。
この四人だけは最初から顔だけ褒めたりしなかった。
ずっと前から、わたし自身を見てくれてた。
自分の気持ちはわからない。四人の中の誰が一番好きなのか。
でもこれだけはわかる。
私が恋をするとしたらこの四人以外にありえないのだろう。
四人が帰ったあと、父は何も言わずにドレスを見せてくれた。純白のドレスだった。
誰を選んでもいいんだよ、と背中を教えくれているように見えた。
四人からもらったものを並べる。
ユージィンの手袋
ギルバートのネックレス
ルイスのティアラ
ノアの靴。
それらを指でなぞって、ギュッと目を閉じる。
本当は、誰も選びたくない。
四人からの愛は心地よかった。
変わりたくない。
でも、それじゃあだめなんだ。
顔だけの伯爵令嬢だなんて言われたくない。
ちゃんと自分で選んで、恋をしたい。
自分の人生を自分で決める強さが欲しい。
待つと言ってくれたユージィン。
彼の隣は自然な自分でいれる。甘えさせてくれる。
守ると誓ってくれたギルバート。
彼といればお互いが高めあえる存在になれるだろう。
優しくしたいと願ったルイス。
彼の意地悪でさえ彼なりの優しさだったのかもしれない。
理解したいと懇願したノア。
彼は言葉がないぶん、私の事をずっと考えてくれている。
四人の顔が浮かんでは消え、また浮かぶ。
それを繰り返して、やっと気づいた。
一人の人が、私のなかにずっといることに。
あぁ、なんだ簡単だったんだ。
これが恋なのかはわからない。
でも、私が一緒にいたいと願うのは…………
一年の中でも、一番盛大な夜会。
皇后陛下主催の舞踏会だ。
大勢の人がひしめき合うなか、ひときわ目立つ少女がいた。
純白のドレスを着た彼女は、自らの白い肌と相まって、光の中からうまれたようだった。
神々しいほどに白で溢れた彼女の中に、自分の色を見つけた彼は目を見開き、一瞬固まったが、それでも無意識に彼女の元へ走る。
愛しい彼女の元へ。
そしてひざまずき、彼女の華奢な手を取った。
「俺と結婚してくれますか?」
やっと終わりました。私にしては長めです。
読んでくださってありがとうございました!
リナベルにイライラした方ごめんなさい(笑)
小説家になろうさんでは初投稿になります。
はじめまして、Beenです。
誰とくっついたかみなさんわかったとは思いますが、ちょっと文章が雑過ぎてわからなかった方はあとがきの最後を見ていただければわかるかな?と思います。
この話についてなんですが、
そもそも私はネタ帳なるものをもっています(笑)
と、いっても本格的なものでは全くなく、携帯アプリでとったメモ帳に箇条書きで書きたいものをメモってるだけです!
で、この話の元ネタですが
【可愛いだけの私ですが 死ネタ。】
これだけです。だいたいこんなものなんですが、この話については死ネタどこいった!ですよね。
私は更新などもすべてスマホです。思い立った時にイメージが浮かんだぶんだけ書くスタイルなので、書き始めと書き終わりでは思い描いていたエンドがまったくかけはなれている、なんてことがほとんどです!なんてこった。
そんな文章なので読みにくいとは思いますが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。これからはしばらく小説家になろうさんで頑張っていきたいと思いますのでどうぞ宜しくお願いします。
最後に見事リナベルの心を射止めた相手は、
最後のセリフの一人称でわかるかと思います。
具体的にいうと、俺、と自分の事を呼ぶあの人です(笑)