こんな恋の始まりもあるはず。
ムシャクシャして書いた。反省はしているが後悔はしてないすみません(土下座モード)
「別れよう、あーちゃん。今までずっと付き合っていたけど、この女性を愛してしまったから。俺たち別れよう」
彼、野崎 敦はそう言ってこちらを冷たい瞳で見下ろした。
その横には茶髪の可愛らしい、確か最近転校してきた同級生が彼の腕に絡まっており、こちらを見つめて『ざまぁ!』とでも言いたげな満面の笑みでこちらを見ていた。
大して私、『あーちゃん』こと土屋 茜は敦の言っている事が分からず、とりあえず『商品をお選び下さいお客様』と言ってみた。
時刻は夕刻。今日は日曜日で、そして今いる場所は私のバイト先のコンビニ。私は現在進行形でレジ打ちである。幸いにもお客様は彼らしかいない。ただし隣のレジにいた宮岸さんは驚きのあまり腰を抜かしていた。
「商品じゃなくて、別れを告げに来たんだ」
「……どっか旅立つの?」
「彼女と付き合うから、もう別れよう」
「……?? え…、はい、分かりましたお客様……??」
私は混乱しつつ承諾の為に首を縦に振った。それを見て満足したのか、敦と転校生はコンドームを一つ買って帰っていった。いや、知り合いがレジ打ちしてるのにそれは買うなよ。買えたお前はある意味勇者だよ。
「……土屋さん、あの男の子と付き合ってたの?」
「いえ、確か幼なじみだったはずです」
そう、彼と私はただの幼なじみで、それ以下でもそれ以上でもないはずだ。私は大いに混乱した。
敦と私の家はお隣さんだ。
小さい時から一緒で、泣き虫の敦をいつも慰めていた記憶が小さな頃の記憶を大半占めている。
保育園、小学校、中学校と来て高校も一緒の学校で、まぁそれなりには親しい。
だが、恋人と言われるような関係では無かった。
「成績優秀見た目も優秀なあの野崎 敦と私は付き合っていたのか?」
バイトが終わった後、ベッドに寝転がって考える。
嘘だ、何かの間違いだ。黒髪で垂れ目で、泣き黒子が色っぽいと女子に大好評のリア充のあいつと私が?
だって行きや帰りは別々だったし、お昼も一緒に食べていない。キスやデートなども皆無。どういう事なのだろう。
「まぁ、蒸し返さなくてもいい話だよね」
だって、敦にはもう彼女がいるのだ。別に私が彼の事を好きだった訳でもないし、実際どうだっていい。敦と彼女の仲をおかしくさせるような発言は控えた方がいいだろうし、この疑問も忘れてしまうに限る。
そう結論づけて、私は眠りに付いた。
翌日、学校に来ると友達が私に詰め寄ってきた。
「ねぇ知ってる!? 敦君とあの転校生、付き合ってるっぽいって!!」
「ぽいじゃなくて、付き合ってるよ」
「えぇ!?」
驚きで腰を抜かす友人をほっぽって席につく。どうやらもう既に噂は広がっているらしい。
腰を抜かした友達が這い寄ってきた。ニャルラトさんかお前は。
「確か、茜は幼なじみよね?」
「うん、昨日バイト先で宣言されたよ。あの転校生もいた」
「佐藤 美弥でしょ? ちょっと顔いいからって、まさか敦君がね~」
「ね~」
今まで彼の浮いた話は一度たりとも上がった事はない。告白は何回もされているはずなのに。と考えていたら、敦とあの転校生、美弥ちゃんが一緒に入ってきた。
お熱い事に恋人繋ぎして、あらあらまあまあ。なんだかずっと面倒見ていた近所の子供に彼女が出来た心境。大きくなって…、お母さん嬉しい…。
美弥ちゃんはこっちを見て何故か勝ち誇ったような顔をした。はは~ん、自分はさながら敦をNTR(寝取ら)れた恋敵か。ハンカチでも引きちぎってみようかな。
が、友達がそれを隣でしていた。『なによ転校生のくせして!!』と悲しそう。ご愁傷様。
その後も二人はまるでこちらに見せつけるようにイチャイチャし始めた。
お昼ではわざわざ私と友達の隣で食べさせあいっこ。帰りも行きも何故か私の登下校時間に合わせて私の前か後ろでイチャイチャ。バイト先に来てコンドームをわざわざ私のレジでこれ見よがしに買っていく。
……ぇ。嫌がらせ?
なに、私にどうして欲しいのだろう。だが、幸せそうなハズの敦がずっと泣き出しそうな瞳でこちらを見てくるのが凄く気になった。
なんて事も聞けずに数日が立ち、
「あーちゃん!! 俺が悪かった。悪かったから嫉妬してよぉ!!」
とバイト先で泣きつかれた。
「……とりあえず、帰ってくれさいお客様」
また宮岸さん腰抜かしちゃってるじゃん。今度は驚き過ぎてカツラ落ちてます宮岸さん。実はスタッフみんな気付いてましたよ宮岸さん。
そんな宮岸さんも、レジが混んでいる事も気にせず敦はレジ打ちの私に絡んできた。
「だってあーちゃん付き合ってる間キスすらさせてくれないし!! だからちょっと嫉妬させようと思ったんだよ!! でも大丈夫、買ったコンドームは使ってないしあいつともキスすらしてなー…「とりあえず帰れよ!! いや帰って下さいお願いします!!」」
居たたまれない。腰抜かす宮岸さんの驚愕!! といった視線もレジに並んでいるお客様の固唾を呑む視線もなにもかもが居たたまれない。必死になってレジ越しから肩を掴む敦と格闘する。
「じゃあ帰ったらまた付き合ってくれる?」
「大体私たち付き合ってすらなかったじゃない!!」
「嘘だ!! あーちゃんと俺は生まれた時から愛し合って付き合っているはずだ!!」
「それはてめぇの恥ずかしくも痛ましい妄想だ中二病!! 貴様はコンビニじゃなく精神科に行け!!」
「あーちゃんこそ精神科だよ!! ちゃんと診察してもらって薬を貰ってきて!!」
「あー分かった!! お前馬鹿だろ!! バーカバーカ!! さっさと家に帰んなさいレジ込んでんだから!! もう宮岸さんはカツラを失ってレジ打てないんだから!!」
その言葉で我に返った宮岸さんは顔を両手で押さえて、『土屋さんのエッチ!!』と言って店裏に入っていってしまった。宮岸てめぇ!!
「とにかく、今は帰れ!! 人様に迷惑かけないの!! 後で話は聞いてあげるから!!」
「……分かった。あーちゃんの部屋で待ってる」
そこは店先で待て。というかどうやって入る気だ。
しぶしぶ帰っていく敦は正に見捨てられた犬だった。だが私は同情しない。
レジに並ぶお客様からの視線で死にたくなったのだから。中には『しっかり話し合いなよ。応援してるから』と見知らぬ赤の他人から応援される始末。なんだこの羞恥プレイ。バイト止めようかな。
ちょ、オバチャン寄付は困ります。兄ちゃんグットラック、みたいに親指立てんな。
私の家の前で待っていた敦を家に上がらせ、私たちは私の自室へと入り座る。ぴたりとくっついて座られるが、最近寒いから許す。他人の体温は温かい。
「……で? まず、『私たちは付き合っていたのか?』まずそこから話し合おう」
「付き合ってた。これ以外ない」
「いやいやいや、あんたの話だと私は承諾してないからね?」
自信たっぷりに頷かれても困る。
「だってあーちゃんとは一緒にお風呂に入ったし一緒に眠ったし……」
「それは幼い時でしょ? 大体、登下校も一緒じゃないしさぁ…」
「一緒だった!! 俺たちずっとラブラブだったじゃん!!」
心外だ!! と言わんばかりに敦は叫ぶ。
「登下校はあーちゃんの真後ろ一メートルをずっとキープして歩いてたし、お弁当にはこっそり入れた俺特製のお菓子が入ってたはず。あーちゃんが遊びに行くときもずっと着いて回ったし、夜寝ているあーちゃんのベッドの下に忍び込んで熱い一時を過ごしたりこっそり服クンカクンカしたり歯ブラシ交換したり盗聴器つけたりしているのに、これでも付き合ってなかったっていうの!?」
「断言しよう、付き合ってなかった!!!」
お前の付き合っているという定義はおかしいっ!!
病院か警察に行くべきだ!!
最後の方はもうホラーしかないじゃないか。なんだよベッドの下での熱い一時って。恐ろしいっ!!
ぞわわ~と鳥肌が立つ私に、涙目の敦がさらにのしかかるようにして近寄る。
「あーちゃんあーちゃん、俺のあーちゃん。あーちゃんと生涯を共に出来ないなんて俺死ぬ。ね、今まで通り恥ずかしがり屋のあーちゃんの為に登下校は一メートル離れるし、デートも一メートル離れる。だから、だからまた付き合おう!?」
「いやいやいや、付き合ってなかったし。お前のそれは甘酸っぱい純愛という名の青春ではなく、ただのストーカーという名の犯罪だ!!! てか離れろ、抱きつこうとするなっ!!」
「ああ、あーちゃん柔らかい。あーちゃん超いい匂い。俺あーちゃんの匂いだけで5回はイケる自信ある」
「そんな自信はドブにでも捨てちまえっ!! うわ、どこ触って、ちょ、服を捲ろうとすんな頬を舐めるな息が荒いっ!!!」
「ハァハァ恥ずかしがってるあーちゃん可愛い。縛って家に閉じ込めたいあーちゃんを白濁まみれにしたい…」
「誰か!! 誰か病院呼んできて!! 頭イってる人がいる!! 医者も首を横に振るレベルの!! 誰か、誰かぁ~!!!」
翌日から、敦は私の幼なじみからストーカーという名の恋人になった。どうしてこうなった。
こんな勘違いから生まれる恋だってあるはず(笑)。