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Calculated Box  作者: Re:Pu
2/3

オンライン

 翌日、昼休みに俺は図書室テキスト・データベースに向かった。大量の紙の本とデジタル・ガジェット、書物のテキストデータ及び画像データの入ったネットワーク・ディスク群が置かれている。

 その奥。科学書棚の裏。ローカル・ゲームステーション。事実上の“勉強室”である隣の読書スペースと違い、張りつめた空気も、筆記用具やキーボードの耳障りな打撃音もない。

「よう、“Shin”」

 既に“Leo”が来ていた。

 ゲーム機を手に持ち……恐らく音ゲー(音楽ゲーム)だろう、目にも止まらない速度でインタフェースを叩いている。

「何するんですか? “Leo”さん」

 俺が声を掛けると“Leo”はゲームを中断し、ディスプレイから顔を上げた。

「うーん、俺らがみんな持ってるゲームっていうと。そうだ、あれ持ってるか」

 彼が言ったのは新興のメーカーのソフトだった。ジャンルはRPロールプレイングTPサードパーソンシューティング/アクション。フランスのデベロッパだが、日本のRPGメーカーの息もかかっているという。少し前に発売されて、俺もオンラインモードに少し触れてあり、ゲームシステムについても調べてある。

 独特の世界観が特徴的だ。SF的な描写、フランスの大手デベロッパのそれに似たリアル系だが少し靄がかかったようなグラフィック。J(日本製)RPGを思わせるストーリや、「魔法使い」、「僧侶」、「戦士」といったスタイル。魔法文明と機械文明の混じった世界。

 ファンタジックで、近未来的な世界。魔法の灯火と、ホログラム舞う街並み。雷と銃口炎マズル・フラッシュの交わる戦場。過去にもこのようなタイプのソフトがあったらしいが、最近は珍しいという。

 TPS(サードパーソンシューター)視点で仲間と協力して敵モンスターと戦うスタイルは、「ハンティングアクション」として少し前まで日本が世界において独壇場だったものだ。今や一つのゲーム形態として確立しており、世界中のメーカーやデベロッパが手を出している。

「もう来てたんだ、何のゲームしてるんですか?」

 そこに女の子が来たようだった。

 俺は声の方を向く。

「よう“Tune”。何を持ち合わせてる?」

「えっと、こんな感じです」

 あの白髪の少女だった。持ち合わせのソフトを“Leo”に見せている。

「えっと、“Tune”……さん? クランメンバーですか?」

 俺は“Leo”に訊いた。

「ああ、昨日クラン入隊申請が来てね」

 俺は再び“Tune”の方を向いた。調度“Tune”もこちらに顔を向けたところで、一瞬目が合う。

「あなたもクランメンバーなんだ。初めまして、私は“Tune”。よろしく」

「あ、ええと、俺は“Shin”。よろしく」

 すぐに俺は“Tune”とフレンド登録をした。

「さーて、始めっか」

 と“Leo”。俺たちはソフトを起動した。

 MMOモードを選択する。

“Leo”が腕のキーボードになにやら打ち込む。

 彼のHMDのハーフミラー・グラスに光が走る。

「侵入完了ー」だらしなく“Leo”が言う。

“Leo”のコンピュータが生徒に開放されていない学校のネットワークに接続された。そしてコンピュータの無線コネクタを介してゲーム機が新しいネットワークを認識する。インターネットに接続される。

「これ、バレないんですか。ネットワーク上の機器デバイスが増えたらすぐバレるのでは?」

“Tune”が“Leo”に訊く。

「大丈夫、他からは見えないから。通信データ量(トラフィック)を常時監視していたら気づかれるかもしれないけど、まさかそんなことしていないだろう。気づかれたとしても、他の教師の端末による負荷か何かだと思われるだけだ」

 ゲームが開始されると画面端に他プレイヤが発信した情報が表示される。

 このゲームの主流のオンラインモードは対AI戦だ。大量の魔物と、仲間とともに戦う。

“前衛募集!! 酒場のカウンター右端か三つ目の席ぐらいで待ってます!!”、“回復担当が足りません! MPに自信のある人いませんか?”、“魔術、銃器技能の両刃募集”等のパーティメンバー募集のメッセージの中に“防御陣地の一部の人手が足りない!”という内容がいくつかあることに気づいた。

 このゲームはオープンワールドだ。広大な国土は、常に魔王軍が侵攻を掛けようとしている。それを我々は防ぎ、そしてもちろん、こちらからも攻撃する。時には輸送機に乗り空挺し、敵の主要陣地を奇襲する。国境を這って進み、狙撃をして再び這い戻ってくる任務もある。

 今はこちら側の“防御陣地”が手薄らしい。隙を見つけたらすぐに奴らは攻めてくるだろう。攻め込まれて国が陥落したとき、このゲームはニューゲームを迎える。

 兵員輸送車に乗り、国境間近の防御陣地へ行く。

 後部ハッチから降りる。俺は小銃手だ。

 すぐそこで戦闘が行われている音がした。林の方に向かう。

 そこには戦士二人と賢者らしき者のパーティが魔物の群れと戦っていた。魔物が次々と現れてきている。

「“Tune”、攻撃力上昇魔法を!」“Leo”が指示を出す。

「はい!」

“Tune”が攻撃力上昇魔法の呪文を唱える。唱え終えるよりも先に、俺は敵の魔物の一匹の頭の付け根に狙いを定めていた。

 二発、銃弾を放つ。その間に“Leo”は別の魔物と戦っていた。

 また一発、敵の頭に叩き込む。まだまだ敵の攻撃範囲まで遠い。また一発。ここで魔物が一体倒れる。

 小銃はパワーがまあまああり、しかもレベルに関係ない。ただ、それでも小銃手はそれほどメジャーでない。弾薬がそれほど多く入手できないためだろう。魔物を倒すとその報酬として金がもらえるが、弾薬はその金で買う必要がある。要するに、ぶちかませない。

 慎重に、精密に撃たなければならない。

 こちらが戦っている間に戦士も応戦する。賢者が回復魔法を自分のパーティにかける。そして直後に魔物の群れに攻撃魔法をかける。

 黒いローブが翻る。

 やがて魔物も少なくなり、出会ったパーティの一人が最後の一匹を斬った。

『サンキュ! 俺がこのパーティのリーダー、“Kage”だ。よろしくな』戦士の一人がいった。ややノイズ混じりの声が本体の指向性スピーカから聞こえる。

『私は“Nurse”、よろしく』賢者の女性が言った。

『俺は“Rase”』もう一人の戦士が言う。さっきは槍で戦っていたが、よく見るとマークスマンライフルを背負っており、オリーブドラブ系の迷彩装備に黒いコートを羽織っている。スカーフが口元を覆っている。

 こちらも自己紹介をし、挨拶を終える。

「『これから俺たちは最前線へ行くが、あなた方はどうする』」“Leo”がボイスチャットで尋ねる。直接聞こえてくる声に指向性スピーカからの声が重なる。

『ええ、一緒に進みましょう。ここからはさらに敵が多いです』賢者が言った。

 俺たちは彼らとともに前線へ向かった。

 前線に近づく。やはり激戦が繰り広げられていた。倒れ、運ばれる者。切り刻まれる魔物。

『先に行け。俺はここで、やる』

“Rase”はマークスマンライフルを構える。

 ボイスチャットの相手を“近くのパーティ”から“Rase”に設定する。

「槍とそいつと、どっちがメイン?」

『どちらもだ』

「好きなのはどっち?」

 俺が訊くと戦士は少し黙ったが、数体の魔物を撃った後、彼はチャットを再開した。

『好きかどうかじゃない……こいつは仕事だ』

 冷たい声がそう言った。


 予鈴が鳴ると、文字チャットで一言断ってオンラインを抜けた。

「そういえば“Leo”さんはどうやって校舎に入ったんですか?」

“Leo”は黒のジーンズに斜めのシアンブルーのラインの入った黒いシャツ。本来首に提げているはずの入校許可所はどこにも見あたらない。

「シーっ」

“Leo”は口の前に人差し指を立て、そしてその指でHMDを指す。

“Leo”がキーボードを打つとこちらのHMD中央左上のチャット欄に文字が表示された。

『入校許可証のチップのランダム生成コードのlogデータが4文字パスワードで守られただけのファイルに入ってたwww。決まって学校はセキュリティが甘すぎるんだよね。生徒の個人情報とかだいたいバレバレだし』

 階段を降りる。俺と“Tune”は二階の教室へ向かった。

「じゃ、またな」

“Leo”は手を振ってそう言うと、一階の玄関へ向かった。

「“Shin”、あなたの本名は何ていうの?」

 教室の前で“Tune”が俺に訊いた。

「俺は田崎新而。そっちは?」

 俺も訊き返した。

「私は椎原。椎原 奏。じゃあね!」

 椎原がそう言い、隣の教室に入ると、俺も自分の教室に入った。


『“Shin”、PSO9ってやってる?』

 家で寝転がっていると、携帯端末がテキストメッセージを受け取った。“Tune”からだ。

 俺は携帯端末で返事のメッセージを打つ。

『いや、やってない。ソフトは一応持ってるけど』

 すぐにそれへの返事が来た。

『じゃあ、一緒にやろうよ! 私“Ship 4”にいるから』

『“Ship”?』

『起動してみて、したらわかると思うから』

 PSOを起動すると、ムービーの後に利用規約の文章が表示された。SEGAのアカウントを持っていない。

 SEGAのアカウントを所得し、再びPSOの画面に戻る。SEGA IDとパスワードを入力し、サーバ“Ship 4”に接続する。

 次にキャラクター選択画面になった。ヒューマン、ニューマン、キャストの三種。

『なんだこれ』

『どうしたの?』

『キャラクター選択』

『画面に書いてある通りよ。ヒューマンはバランスがとれていて、ニューマンはフォース向け。キャストは射撃が得意』

『ふーん。キャストだな』

 俺はキャストを選び、毎回の如く時間のかかるキャラメイクをする。

『まだ?』

『まって、もう少し』

 キャラメイクを終え、ゲームを開始した。


「あんたー。メシだよー」

 しばらく遊ぶと、姉さんが呼んできた。

『抜けるね』

『どうしたの?』

『晩メシ』

 俺はヘッドセットを外しかける。

『さっきの声はだれ?』

 俺はヘッドセットを付け直し、答える。

『姉さん』

『……ふーん。わかった、じゃあね』

“Tune”との時間は楽しい。会話が軽く、心地よい。

 PSO以外にも一緒に遊びたい。今度誘ってみよう。


 夕飯の後、自室でオンラインFPSを始めようとしてると姉さんが部屋に入ってきた。

「あんたもPSOやるのね。意外」

「クランのメンバーに誘われた。まあまあ面白いんじゃない?」

「SEGAのゲームが面白くないわけないじゃん」

 きたよ、いつもの。

「それより誰とやってたの? いつもの相手じゃないね」

「わかんの?」

「会話の調子が全然違うじゃん。クランリーダーにはもっと丁寧な言葉を使うし、友達との会話ほどには親しさを感じない。新しいクランメンバー、多分女の子」

「……凄いな」

「伊達に長年あんたの姉やってないわよ」

 俺はVRガジェットを付け、オンラインFPSを開始した。

「仲良くやれるといいわね……」

 姉さんに何か言われた気がしたが、ヘッドフォンがキャンセルした。


 いつものアサルトライフル。クランが集まっている部屋に入る。ドミネーション。

 クラン間のボイスチャットをオンに。

『こんばんは』と俺。

『よっす』

『こんばんは!』

『よう』

“Leo”と“Habeco”、“Gave”が返事を返してくる。

 ふと思い出して、HOME画面に戻ると、“Tune”にメッセージを送る。

“このオンラインFPSやってる?”

 すぐに返信が来る。

“やってるよ!”

 今いる部屋を教えると、すぐに画面左端下に、

 Tune Connected

 と表示された。

『こんばんは!』

“Tune”……椎原が挨拶した。こちらも挨拶を返す。

 マップの途中で、後ろから“Tune”が来るのが見えた。

『あ、“Shin”!』

“Tune”が俺を呼んだ。

 そのとき、視界の端に敵が見えた。

『“Tune”! 隠れて!』

 俺は近くの建物に入り、身を隠す。

 手榴弾が転がってきた。

 焦ってはいけない。

 このマップはイスラム諸国の市街地をモチーフにしてある。ここは何かの店。

 クレイモアを仕掛けつつレジの裏に隠れる。

 手榴弾が爆発すると、敵が入ってきた。

 しばらくしてクレイモアの爆発音が聞こえた。

 レジから出ようとしたとき、クレイモアの爆発音に紛れて銃声が聞こえていたことに気が付く。

 敵は死んでいない。クレイモアは敵に撃たれた。

 アサルトライフルを撃ちながらレジの脇を通る。

 すると目の前に現れた敵を倒した。

 Shin[AK12]NonO

 息を吐きつつ、建物の出入り口に近づく。

 建物から出たところで、敵にはち合わせた。

 反応しきれない、撃たれる。

 しかし敵は攻撃してくることなく、その場に倒れた。

 Tune[Scorpion Evo3]JeeK0

“Tune”が倒してくれた。

『サンキュ!』

 礼をすると俺は先に進んだ。

 進むと敵のフラッグの位置に近づいてきた。ドミネーションはフラッグの取り合いがメインのルール。

 何人かの敵とぶつかったが、デスはしない。

 けっこういいぞ。

 フラッグまであと少しというところで、右隣の仲間が撃たれた。

 Rase[M110]TackJA

 スナイパーが建物に潜んでるのか。

 ん、“Rase”?

 昼間のあいつか。

 俺は道を挟んだ向こうの建物の陰にいる“Tune”をみる。

『“Tune”、グレネードランチャーかなにか持ってる?』

『うん。M25があるよ』

“Tune”がM25 IAWSを構える。

 最適だ。

『“Tune”向こうのビルの二階の一番左の部屋、合図したら撃って!』

 角から身を乗り出して敵の居たところを撃つ。

 プツッ、プツッという命中を示す音。

『今!』

“Tune”が撃つ。

 Tune[M25]Rase

 俺たちはフラッグへ向かった。

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