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Calculated Box  作者: Re:Pu
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近未来ゲーマー

「リアルにもデジタルな完璧さは存在する。

 ある、ない、の二つの可能性でこの世界はできている。クォークだって、グラビトンだってそう。特定の空間にある、ないのどちらか。この世界は、無から生まれた瞬間のたった一つの情報と、二進数の演算と、いくらかのランダム……それだけでできている」(ぼつになった部分の一つより)

 ――そこは澱み無く、どこまでも透明な、無限に続くグリッドラインの世界。


 あー。これでは姉さんに顔向けできない。

 どうしようか。謝って許されるだろうか。

 学校の帰り、心を穿つのは黒曜石色オニキス・ブラック。春の終わり、夕方、空は茜色、街は自転車を漕ぐには最適の温度。大気。

 姉さんはかなり怒るだろう。

 俺も残念だったが、姉さんはその比ではないはずだ。姉さんはかなりこのシリーズに入れ込んでいた。

 どうして“PSO9”が売れ切れるんだ。

 PSOファンタシー・スター・オンライン9――日本の老舗ゲームソフト会社、SEGAの人気(主に日本国内)オンラインゲームソフトの最新作で、本日、発売された。以前は基本プレイ無料のウインドウズマシン向けソフトだったが、現在はニンテンドー、SCE(SONY)、マイクロソフトの各据え置きゲーム機およびウインドウズマシン、SONYの携帯機、各種クラウドゲームシステム、一部の非ゲーム機携帯端末及びそのOSを転用したハードなど、様々なプラットホーム向けに有料で販売。基本無料の時とは違い、純粋なパッケージ版が存在する。

 予約をすればよかったと深く後悔する。しかし、いくら人気のオンラインゲームとはいえ、こんな田舎のゲーム屋で売り切れるとは思わなかった。もちろん、オンラインストアから直接ソフトをダウンロードすることも可能だ。ただ、姉さんとしてはメディア版が欲しいらしい。

 だが姉さんには用事があるらしく、代わりにSONYハード向けのソフトを買うよう頼まれていたのだ。

 SEGAのソフトということで入荷数も少なかったのかもしれない。店長のおっさんめ、いくらSEGAが嫌いだからって、入荷数を減らすことはないだろう。まあ、次の入荷を待つしかないか。

 次の入荷予定日を店員に聞いておけばよかった。まあ、学校の友達におっさんの娘がいる。彼女に訊けば大体わかるだろう。

 俺は家に着いた。

「ただいま」

 そう呟きながら家に入る。

 HMDヘッド・マウント・ディスプレイの端のアイコンが、携帯端末がメッセージを受信していることを示していた。

 バイトにいっている姉さんからだった。内容は想像するに余りある。

 携帯端末をズボンの後ろポケットから取り出すと、新規メッセージを確認する。携帯端末を操作すると、HMDのAR(拡張現実)の付加情報が変化していく。

『PSO買えた?』

 と短いテキストメッセージが表示された。

「……はあ」

 ため息を吐きながら返信する。

『ごめん、無理だった』

 メッセージを送信する。

 少しして返信が来た。俺は端末を操作する。

『まあいいや』

 俺は我が目を疑った。“まあいいや”だって!?

 姉さんは“SEGAにだったら魂を二度捧げられる”と公言する程のSEGA好きだ。それが“まあいいや”で諦めるはずがない。

 何があったのかは分からないが、今はとにかく、PSO9を手に入れることに専念しよう。

 居間の椅子に座ると、携帯端末で友人の日改空理ひがい くうり、前述のゲーム屋の娘にテキストメッセージを送信した。

『今日発売のPSO9、売り切れってなってたけど手に入んない?』

 普通に考えると手に入るはずがないが、少しだけ希望があった。あのゲーム屋のおっさんのSEGAに対する恨みはかなりのものなのだ。

 おっさんの恨みにはドリームキャストだとか、メガドライブだとか、ゲームギアとか、聞いたこともないようなハードが関係するらしいが、詳しくは知らない。

 数分後にボイスチャットが起動した。

『あ、売り切れって書いてあるけど、あれ嘘だから。いっぱいあるよ、明日“燃えないゴミ”に出されると思うけど』

 話をしてよかった。あのおっさんめ、そんなに嫌いなら入荷しなければいいのに。“燃えないゴミ”に捨てるためだけに入荷したのか。

 俺もボイスチャットを始める。

『それ、買える?』

『明日学校に持ってくから』

『よし、ありがとう!』

 チャットを終了する。

 よし、これでミッション・アコンプリッシュドだ。

 その数十分後、バイトを終えた姉さんが帰ってきた。

 謝るために玄関の方へ行く。

「ごめん買えなくて。でも、明日手に入っから」

 と言いつつ玄関の姉さんの手を見ると、明らかに駅中の電気屋や、某書店の袋らしきものが下がっていた。四つ。

「まったく、予約しておいてよね」

 少し不満そうな顔をして姉さんはそう言った。

「えっと、それはなに?」俺は姉さんの持つ袋を指して言った。

「ん、PSO9だけど」

「ちょっと待って、いくつ?」

「四つだけど」

「そりゃわかるよ、どうしてそんなに!?」

「遊ぶ用、保存用、布教用、観賞用」

 そういえば。

 確かに、姉さんは毎回そんなこと言って三、四本買っていた。

 ソフトの予約は、多くの店で一人一本に限られる。

 要するに姉が独力で全て買ったとしたら、“四店舗”に予約しに回り、買ってきたことになる。

 ここはまあまあ田舎だ。かかる手間は相当なものだろう。

 しかし、ではなぜ俺まで買う必要があった?

「じゃあ、なんで俺にPSO9買えって言ってたんだ?」

「え? ああ、予約し忘れたのよ。“布教用(二人目)”……つまりあんた用よ」

 俺は拍子抜けした。

「俺用?」

「そう、あんたもやれ」

「やらねーよ!」

 俺もゲームが好きだ。ただ、基本的にFPSファースト・パーソン・シューティングTPSサード・パーソン・シューティング専だ。RPGロール・プレイング・ゲームとかはあまりやらない。

 PSOのシリーズはMO/MMO・RPG(多人数同時参加型オンライン)に分類されることが多いが、戦闘システムはむしろアクション寄りだ。シューティング要素もある。

 しかし、それでも性に合わない。どこかでRPG的な“作業感”が生まれると、瞬時に醒めるのだ。

 RPGは苦手だ。それでもレビューサイトで高評価を得ているゲームは押さえておきたいと思い、そのとき最もユーザのメタスコアが高いRPGゲームを遊んだことがあった。レビューアが皆、「これはいい」、「この王道+α感が最高」、「まさしく傑作」等と賛美の声を上げていたソフトだった。

 ……俺は二匹目のモンスターが「目の前に現れた」時点で、経験値ゲージが目障りになってやめた。このとき、俺は悟ったのだ。

“RPGゲームは無理”だと。

 アドベンチャーゲームはできる。ノベルゲーム、シム系も不快ではない。だが、RPGだけは駄目なのだ。

「せーがー♪」

 スキップしながら階上の自室へ向かう姉さんを横目に見つつ、俺も同じく二階の自室へ行く。

 コンピュータデスクの椅子に座ると、デスクの脇に置いてあるSONYの携帯ゲーム機を手に取り、スリープを解除した。そしてそのゲーム機でデスク上のSONYの据え置き型のゲームマシンを起動し、操作する。デスク上のモニタは起動していない。視界の端にモニタの下の、3Dモーションキャプチャセンサのカメラのステータスランプが捕らえられる。作動中を示している。

 頭に掛けていたメガネ型HMDを外し、SONYゲームマシンのそばに置いてあるVR(仮想現実)用ガジェットの電源を入れる。ゲームの映像出力先にVRガジェットが加わったことを確認する。デスクのモニタへの出力を停止する。

 ヘッドセットとVRガジェットを装着する。

 目の前の世界がHMD上の仮想空間へと変わる。耳を覆うヘッドセットは三次元音響。脳波の一部が端末にとらえられ、ゲームのインタフェースとなる。

 ポリゴンとテクスチャの世界。どこまでも透き通り、汚れのない、完成された、色褪せることのない世界。

 脳波コントロールに慣れるまでは従来のコントローラやキーボード&マウスを接続してプレイすることも可能だ。しかし、VRを最大限に味わうには脳波コントロールが必須だろう。

 脳波コントロールはコントローラの“右スティック”と“左スティック”の役目を担う。また、モーションキャプチャで首の向いた方向も感知される。それ以外の入力はコントローラその他の入力で行う必要があるが、それが没入感を削ぐことはない。

 俺はオンライン・FPSゲームを起動した。

 さあ、始めるか。

 このゲームには明確な「部屋分け」が存在し、複数のサーバでゲームが行われる形式となっている。

 自分の参加しているクランのうち二、三人が戦っているサーバがあったので、そこのゲームに参加した。

 チームデスマッチ。

 バーチャルの地面に立つ。

『よっ』

『こんばんはっ、“Shin”!』

 クランのプレイヤのボイスチャットが聞こえた。

“Leo”と“KANON”だ。

“Shin”は俺のプレイヤ・ネームだ。

 両チームのポイントを見る。

 292vs310……ややこちらが劣勢だ。

『ちょっと負けそうだな』

 今は差が少し開いているだけに見えるが、弱いプレイヤーはどんどんデスを重ねる。こちらが負けるのは時間の問題か。

 しかし、少しすると敵の一、二人がゲームから抜けた。その途端、自分のキル数が延びやすくなるのが解った。全体でもキル数が上がっているようだ。

 最後、リスポンしてから三連続でキルを続けたところでスコアリミットを迎えた。

 500vs492。ぎりぎり勝った。

 その後数回戦うと、俺はサーバを抜けた。

『またね!』と“KANON”が言ってくれた。

 俺はメニューを開くと、VRガジェット搭載のHMDへの画像出力を止めた。

 今日はけっこう勝てたぞ。

 母に呼ばれ、飯を食うと、居間のニンテンドーでカプコンのTPSゲームを姉さんとCoop.(協力プレイ)でしばらくし、それを終えると、学校の課題をいくつかして、風呂に入り、寝た。

 寝る前にゲーム系のニュースサイトをいくつか覗き、めぼしいニュースがないのを見ると、SNSや巨大匿名掲示板にも騒ぎがないのを確認し、ブラウザを閉じた。

 日改へ断りのメールを送ることは完全に忘れていた。


「昨日いわれた通り、持ってきたよ」

 翌日、日改が持ってきた袋を俺の机の上に置くと、そう言った。

 おそらく今日“燃えないゴミ”に出すはずだったものをそのまま持ってきたのだろう。

「あ!」

「ん? どうしたの」

 忘れてた。

「ごめん、いらない。それ」

「いらないって。何があったの?」

「姉さんがいつも通り四本買ってた」

 日改は四本という数字に少し動揺しつつも、再び元の困り顔に戻った。

「って言われてもね、持って来ちゃったし……私もこんなにいらないんだけど」

 どうしようか。俺がもらったところで、やるようなゲームじゃない。

「どうした田崎、その袋」

 大きな袋を不思議に思ったようで、友人の冷泉れいぜいが話しかけてきた。

「PSO9か、どうしたんだこんなに?」

 冷泉は袋の中の大量のパッケージに驚愕する。 

「えっと、私のお父さんが捨てようとしていたから持ってきたんだ」

「捨てようとしていた? これ全部か?

 昨日発売したばっかじゃねーか。いくつあるんだ……一、二、三、四……二十本! どうかしてる!」

「うん、どうかしてる」

 一応、そこは否定してやれよ。と心の中でありきたりのつっこみをする。

「そうか、お前の父さんはSEGAを嫌ってたな。もらってもいいのか」

「うん」

 日改はうなずいた。

「よし、マイクロソフト版を一本買おう。いや、ソニーのも一本買って妹にあげようかな。よし、それぞれ一本くれ」

 といって冷泉が財布をズボンのポケットから出そうとした。

「あ、いいよ、お金は。どうせ捨てられるところだったんだし」

「いや、やるよ。それと、お前のお父さんをPSOを売るように説得したほうがいいんじゃね? さすがにそれを捨てるのはもったいなさすぎるって」

 まったくその通りだ。しかし、あのおっさんがそれを呑むだろうか。

「ん、ありがと。わかった」

 冷泉がこちらを向く。

「そういやお前、昨日夜いつもの部屋にいなかったよな。どうしたんだ?」

「あ、悪ぃ。姉さんと遊んでてさ」

 冷泉は俺とゲームアカウントの“フレンド登録”をしているため、ハード使用状況はどちらからでも知ることができる。何のソフトで遊んでいたかは分かっているはずだ。

「あー、姉さんか。そういやなんだっけ、お前が遊んでたゲーム。TPSだよな。インフィニティ・ワーズのじゃないし、UBIのゲームだっけ? ベセスダ? いや、日本の会社か……プラチナゲームス?」

「いや、違う違う。あれはカプc」「うにゃぁーーーーーーーー!!」

「「!?」」

 何が起きたのか、いきなり日改が叫んだ。

「あ、そういえば」

「え……あっ!」

 記憶に思い当たる節がいくつか見つかった。

 そういや、こいつ。

「カプ」「あーー! 聞こえない聞こえない聞こえない!!!!」コンが嫌いなんだ。

 理由は詳しく知らない。「バイオなんとか」だか、「なんとかハンター」だか、「ロスト・プラなんとか」だったか、ちょっと聞いたことはあるがよく知らないソフトが関わってるらしいが、詳しい事情を教えてくれたことはない。

「5のせいで……6のせいで……オンライン・マルチプレイがもっと洗練されていれば……ユーザが飽きる前にオープンワールドにしていれば……」

 日改は何かをさっきから呟いている。

「ごめん、悪かった。大丈夫?」

「ああああ……ああ、なんtか。ダイジョb」

 どこが大丈夫なんだ。パッチが必要だろう。

 しばらくすると朝礼のチャイムが鳴り、冷泉と日改は席に戻った。日改はPSO9の大きな袋を持てそうになかったので、俺が預かることにした。

 俺は教室から出て、廊下の雨具掛けにその袋を掛ける。そして急いでドアに向かった。

 ……ん?

 俺は視界の端に一人の女の子を捕らえた。

 あんな生徒いたっけ。

 俺はその姿に驚く。調和的でありながら、奇妙な。純白の長い髪に、黄色に光る目。

 どちらも自然な発色ではない。それぞれ染め、カラーコンタクトだろうか。かわいいと思う。

 俺は席に座りながら、何回もその姿を脳内で反芻リフレインさせた。

 まあいいや。とにかく、今は提出物の準備をしよう。

 俺は眠たい目を擦った。


「うーん」

 結局あいつから買ってしまった。PSO9。

 キャラクタ造形が気になってしょうがない。

 SONYの携帯ゲーム機にソフト・カードを挿入する。ゲーム機の画面に読み込まれたソフトが表示される。

 しかし、結局PSO9は起動しなかった。オンラインRPG……とっつきにくい、億劫なイメージがある。

 しばらくアイコンを眺めた後、ソフトカードをゲーム機から外して、カードケースにしまうと、ブラウザを起動した。ニュースサイト巡りを始める。

 数十分後、母に呼ばれた。晩飯だという。

 俺はゲーム機を置くと、部屋を出た。

 姉は夕食後バイトに行った。

 俺はいつものオンライン・FPSを起動する。

 クランのメンバー“Leo”、“KANON”、“Habeco”、“Kiriya”が一つの部屋に集まっていた。

『今日は会えたな。“Shin”』

“Kiriya”が俺に言う。“Kiriya”……つまり冷泉のことだ。

『さあ、Let's do this!』

 チームデスマッチが始まる。

 数回ゲームをしたところで、俺は“Kiriya”をチャット・ルームに誘った。結局クラン全員がチャットに参加した。

 この“チャット・ルーム”ではフレンドやクランのメンバーと“ゲーム・プレイヤ”としての姿で、即ち、自らの“アバター”の姿で、音声を中心に3Dマップの部屋でコミュニケーションがとれる。いくつものゲームと連動しており、様々なゲームの姿や、さらにはユーザが完全新規に作った3Dモデルを使用することもできる。近々新バージョンが公開予定で、日本のデベロッパの技術提供により2Dの画像ライブラリのみによる3D的表現も可能になるという。

 今回は、皆がオンライン・FPSでの姿でチャット・ルームに集まった。衛生兵(メディック)の男性や、分隊支援狙撃銃マークスマン・ライフルを背負った偵察兵(スカウト)の女性の姿等が見える。

『ちょっと、訊きたいんだけど』

 俺は“Kiriya”とのパーソナル・チャットを要求した。俺と“Kiriya”は完全に周りと遮断されたチャットを始めた。個人情報が漏れないように。

『うちの学年に、白髪の女の子っている?』

 俺は“Kiriya”にそう訊いた。

『いるけど、お前が“リアル”の女に何の用があるんだ?』

『あのな、別に俺は“バーチャル”でしか生きられない訳じゃないんだからな。今のところは』

『わかってるよ、冗談だ。

 で、白髪の女の子だけど、たぶん今年から学校にいる子じゃないかな。名前は聞いたことがない』

『へー』

 知らなかった。

『まあ、お前なんかは知らなさそうだな』

『悪かったな』

『そんなことより、何でそんなこと訊くんだ?』

 気になったから、が妥当な答えだ。からかわれるかもしれない。

『別に、ちょっと気になってね。ゲームのキャラクタっぽい雰囲気がする』

『なるほどね。確かにそうかもしれない。そりゃ、気になるな』

 俺は机の上のPSO9の空パッケージを見る。

 ……今日はやらなくていいか。

「ほら、風呂空いたぞ」

 パジャマを着た姉さんが俺の部屋のドアを開けてそう知らせた。ヘッドフォン越しのこもった音。

 というかもう姉さん帰ってきたのか。けっこう長く遊んてしまったらしい。

『悪い、抜ける』

『ああ、じゃあな』

 俺はVR・ガジェットを外すと、部屋の外へ向かった。


「姉さん、今日はやる?」

「え、どうしようかな、疲れたし」

 部屋の前の廊下でいつものCoop.を誘ったが、断られる。遅くなってしまったし、しょうがないかもしれない。

“疲れた”……か。PSO9だろう。

「PSO9……総プレイ時間は?」

「十五時間」

「十五時間!?」

 十五時間!? まだ買ってから一日しか経ってないというのに。まともに講義受けてるのか?

「だから言ってるでしょ。“SEGAには魂を三回捧げられる”って」

「回数増えてる!?」

「大丈夫、SEGAに勤められるようにそこら辺の勉強は欠かせてないから」

「勤める気なのかよ!?」

 魂をSEGAに“売る”気なのか。姉さんは。

「ま、じゃあそういうことだから。おやすみ」

「姉さん寝んの?」

「私はまだ寝ないわよ。あんたが早く寝ろってこと」

 はいはい。

 俺は自室に入ると、残った課題を済ませ、ニュースを見て、寝ることにした。

『ねえ、もう寝た?』

 ドア越しに姉が尋ねてきた。

「いや、まだ起きてるけど」

『……最近、たまに遅くまでゲームしてるっしょ』

「たまに、な」

『やめときな、どうにもならなくなるよ、私みたいに』

「……」

 姉さんは自室に戻ったようだった。

 やめられるものか。あの世界は、あの空間は、俺の世界なんだ。

 しばらくして、俺は眠りに堕ちていった。

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