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  作者: ティナ
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【 変化 】

翌日からマルメロは変わりました。


すました顔で、道の真ん中を堂々と歩きます。


以前のような笑顔ではなく、何か企んでいるような笑顔です。


そして、少しあごを上に向け見下すような目で周囲を見るようになりました。


「私は特別なのよ。こいつらとは違うわ」


一人、優越感に浸り笑いが込み上げてきます。


そんなマルメロを見て悪口を言っていた人達は、本人には聞こえないように悪口を言い合います。


「何あれ?すごく態度が悪い」


「まんまるマルメロのくせに勘違いしすぎ」


「性格の悪さが顔に出てるよ」


マルメロは、そんな悪口を言われているのを知っていました。

なぜなら、以前は優しかった人達が偽善者ぶって伝えてくれるからです。


「マルメロ、やめなよ。すごく評判悪いよ」


「みんな口々に悪口言ってるから、駄目だって!」


「マルメロが変わってしまって嫌だ」


マルメロは頼んでもいないのに伝えてくる人達を蔑みました。


「嫌らしい人達だわ」


あまりにも、しつこくマルメロに説教してくる人にはハッキリと言ってやります。


「ご心配どうも。でも、私は気にしてないわ。それに、今は最高に気分が良いのよ。悪いけど、お話し止めてもらえるかしら?」


マルメロは、厭味っぽい口調で言い返すのです。


そんな会話を繰り返していたら、周りに誰もいなくなりました。


しかし、マルメロは全く気にしません。


「どいつもこいつも偽善者ばっか。そんな奴なんて、こっちから願い下げよ」


自信満々に道を歩きながら、思うのです。母親とは毎日が喧嘩です。

母親はマルメロの態度が気に入りません。

以前までのマルメロなら、黙って聞いていた言葉にいちいち噛み付いてくるからです。


母親はマルメロに怒りました。


「いちいち生意気な口をきくんじゃない!誰のおかげで生きてると思ってる?私が、働いて食べさしてやってるのよ!素直に頷いておけば良いのよ!」


「大きな声を出さないでくれる?分かってるわよ、お母さんのおかげでマルメロは生きています。これで良いんでしょ?」


「母親を馬鹿にするのもいい加減にしなさい!私は馬鹿じゃないわ。マルメロが私を馬鹿にしてるのが分かる!私は母親よ!敬いなさい!」


「何よ、馬鹿だなんて一言も言ってないじゃない。私の性格が悪いのかしら?悪気はないのに、必ず相手を起こらせちゃうのよね。それと、ちゃ〜んとお母さんを敬ってるわよ」


「マルメロ!!!」


喧嘩は延々と続き、最後は母親が泣き出します。


「あんたのせいで、生きてるのが更に辛くなった!」


母親は必ずこの捨て台詞を言います。

マルメロが大嫌いだと知っているからです。


マルメロは今でも、この台詞だけは克服できずにいました。


「それは言わない約束でしょ!」


思わず感情的になってしまうのです。

後になってから、「何で、あの言葉にだけは腹が立つのかしら」と、マルメロは考えます。

しかし、答えはでません。

母親が、この台詞を吐いた瞬間に体中の血液が熱くなるのです。


母親が謝罪するまで攻めつづけます。


こうなると、母親は余裕の態度になり「はい、はい。ごめんなさいね」と、わざとらしく謝ります。


形勢逆転してしまい、マルメロは悔しい思いを毎日していました。


どう足掻こうが、母親にだけは勝てないのです。


マルメロと母親の喧嘩は日常的になっていきました。マルメロは自分磨きにも余念はありません。


自室では常に鏡の前で、笑い方、歩き方、座り方…、全てを練習します。


優雅な大人の女性を意識し、凛々しさも感じさせるように練習をします。


「良い女は強さもあるのよ」


マルメロの歳には似合わない仕草を身につけていきました。


頭の中は、豪華絢爛なドレスを身にまとい歩いているのです。


また、話し方も勉強しました。


母親に「気持ち悪い」と、言われても気にしません。


優雅で凛々しいマルメロ好みの女性になるため、必死に努力を続けます。


痛みゴワゴワした髪も、あえて長く伸ばすようにしました。

美しく結い上げるためにです。


しかし、マルメロの髪が伸びるのは遅く13才になってもゴワゴワと肩につくか、つかないかくらいなのです。


「爆発頭のマルメロ」


悪口を言われても、「馬鹿な奴ね」と鼻で笑います。


マルメロは、自分が特別だと信じています。

ですから、悪口を言う奴は「才能の全くない人間」と、思うようになっていました。


母親のことも、当然が如く「才能の全くない人間」と、決め付けていました。ある日、マルメロが普段通り家に帰ると、驚くようなことが起きました。


知らない男性が居たのです。


マルメロは悲鳴をあげました。


「警察を呼ぶわ!!」


すると、男性の後ろから満面の笑みの母親が顔を覗かせました。


マルメロは訳が分かりません。


母親は言いました。


「今、お付き合いしている人よ。ほら、マルメロ挨拶なさい」


マルメロは力が抜けてしまいました。

「家に男を連れ込むな」と、思いつつも男性に挨拶します。


「はじめまして。先ほどは失礼いたしました。まさか、男性がいるとは思わず…。ご気分を悪くされたでしょう?」


マルメロは優雅に凛々しい声色で話しました。


すると、男性は大笑いしだしたのです。


マルメロには意味が分からず、ただ呆気にとられていました。


男性は笑いを堪えつつ、母親に言いました。


「おもしれぇ、ガキだな!どこの貴族かと思っちまったぜ!お前の言う通り、相当イカれてる!」


母親も大笑いして答えます。


「でしょ!私の苦労わかってくれたぁ?マルメロには、困ってるのよぉ。勘違いもしてるからね!」


マルメロは瞬時に理解しました。

母親一人ではマルメロに勝てないと考え、男性と二人で罵ってくるつもりだと。


マルメロは、顎を上に向け見下す目つきで言いました。


「あら、やだ。私ったら、生ゴミに話しかけちゃったわ。臭くてたまらない」


これを聞いた男性は黙ってしまいました。

母親は焦って言います。


「マルメロ!失礼よ!本当に厭味ったらしい子だわ」


マルメロは、片方の口角だけをあげ笑いました。

マルメロの先制攻撃に男性は怯んでしまいました。


母親は男性に甘ったるい声で訴えます。


「しっかりしてよぉ、貴方だけが頼りなの。私、いつもマルメロに虐められているの…。よく、分かったでしょう?」


男性はハッとします。

しかし、マルメロの方が先に口を開きました。


「まぁ!お母様ったら、生ゴミに話しかけるだなんて!あら?お母様と違う。よく見たら生ゴミが二つだわ。通りで、酷く臭いと思いましたわぁ」


母親はカッとなり怒鳴りました。


「私が生ゴミ!?ふざけないでよ!生ゴミは貴女よ!」


「まぁ、生ゴミが喋ってる。世の中、不思議な事ばかりですこと。」


「マルメロ!いい加減にしなさい!まともに話しもできないわ!」


「私は、人間ですもの。生ゴミと話すことなんてありません。どうぞ、生ゴミ同士、臭い会話を楽しんでください」


マルメロは楽しくて仕方ありません。

口喧嘩が大好きになっていたからです。

それだけ、口が達者になっていました。


母親は涙を浮かべています。

男性がそれに気づき、やっとマルメロを叱りました。


「おい、ガキ。てめぇの母ちゃんに何て口聞いてんだ?良心ってもんが、てめぇからは感じられねぇ」


マルメロは目を見開き、ふざけた口調で言いました。


「ええ。私には父がいませんからね。確かにリョウシンはいませんわ。いないのだから感じられなくて当然」


男性は、馬鹿にされた事に苛立ち言いました。


「母ちゃんは大切にするもんだ!」


「ふぅ、少しは楽しませて下さるかと思いましたが…。残念ですわ、貴方との会話は楽しくありません」


「そういう話しじゃねぇだろ!頭がイカれすぎて話しが分かんねぇのか!?」


マルメロは飽きてしまい、とどめをさしました。


「今日は、私の誕生日ですの。母親なら、まずは祝いの言葉があっても良いのでは?それなのに、帰ってきたら知らない男に罵られ。しかも、頭がイカれてると言われました。私の14才の祝福の言葉は悲しいものでした」


これには男性も黙ってしまいました。

母親もハッとして、明らかに忘れていた様子です。


マルメロは切なそうな表情を見せ最後に呟きました。


「お母様、ごめんなさい。どうぞ、二人で楽しんでください」


言い終えたマルメロは、家から出ていってしまいました。

外に出たマルメロは図書館に向かっていました。


図書館はマルメロの好きな本がたくさんあり、お気に入りの場所です。


何より、静かで決して悪口を言われない場所。


マルメロは、本を読むためでなく考え事をする時にも図書館に行くのです。


図書館についたマルメロは、適当に本を選び席につきました。

そして、考えます。


「存在価値のない男ね」


マルメロは、傷ついてなんていませんでした。

それどころか、自分の存在価値が高まったと思っていたのです。


「やっぱり、私は特別な存在だわ。まぁ、お母さんにはピッタリの男だわね」


考えてると、笑いが込み上げてきますが我慢します。


「お母さんって、男をみる目がないのね。お父さんにも捨てられてるし。いや、そういう男にしか相手にされないのか…」


マルメロは、最高に気分が良くなってきました。


「馬鹿馬鹿しくて笑っちゃうわ」


笑いが堪えきれなくなってきたため、本に目を通しました。


本は、アンブーリンの生涯が書かれた内容です。

アンブーリンとは、王妃の座を勝ち取るために戦った人物。容姿にも、あまり恵まれなかったが戦略的に王を攻め、己の目的を達成しました。しかし、最後は惨めなもので勝利をおさめたとはいえない人物です。


マルメロは興味がなかった本ですが、読んでいるうちに真剣になっていきました。


「何て素晴らしい人物!まさに私と同じだわ!」


恐れを知らないマルメロは、自分をアンブーリンと重ねました。

そして、決意します。


「彼女は最後に失敗したわ。目的を達成したとは言えない。これは、私に託されたということ!」


マルメロは、自分はアンブーリンの無念を引き継ぎ託された者だと感じたのです。


「やってやるわ!やっぱり、私は特別だったのね。必ず、証明してみせる」


マルメロは、大きな野望を胸に本を閉じました。家に帰ると、男性はいませんでした。


母親が猫なで声でマルメロに話しかけてきました。


「マルメロの誕生日を忘れてた訳じゃないのよ。今日が何日だったかを忘れてただけなの。許してね」


無茶苦茶な言い訳に、マルメロは呆れました。

しかし、マルメロは特に気にしていなかったため言いました。


「別に良いわよ。あの男性は?」


「あぁ、彼とは別れたわ!マルメロに酷い事を言ったからね。あんな最低な男だとは思わなかった!」


マルメロは馬鹿馬鹿しくなりました。

母親が嘘をついてるのが分かるからです。

男性に頼み、マルメロに暴言を吐かせてたことを無かったことにしようとしています。

本当に別れたのかは分かりませんが、マルメロにとっては何ら関係のない話しです。


マルメロは冷静に言いました。


「そうなのね。まぁ、その方が良いわよ」


母親は、力強く答えます。


「そうなの!あの男は最低よ!暴力だってあったのよ!?私が、どれだけ泣かされたことか…。金もないし、不細工だし。何が良かったのかしら!?」


マルメロは聞きたくもない話しを聞かされ苛立ちます。


「お母様が選んだんでしょ。私に聞かれても知らないわよ」


「冷たいわね!マルメロには、可哀相という感情はないの!?」


「あるわよ。正当な理由なら可哀相と感じるわ。でも、お母様のは理由じゃない。ただの愚痴よ」


「何なの!?本当に可愛いげのない子ね!そんなんだったら、一生結婚は無理ね!」


「さぁ、どうかしら?私は、選ぶ立場なのよ。私が気に入る男性がいれば結婚を考えても良いわ。でも、選ばれての結婚はごめんね」


「よくもまぁ!!信じられないわ!自分の顔をよく見なさい!」


マルメロはカッと頭に血がのぼりました。


「私の容姿について、貴女にどうのこうの言われたくない!」


「母親に向かって、貴女なんて言うんじゃないわよ」


母親は、少しニヤつきながら言います。

マルメロが容姿を気にしている事に気づいたからです。

母親は、わざとらしく言いました。


「マルメロは、父親似だからね。仕方ないわよ」


「聞いてないでしょ!もう、ほっといて」


マルメロは、母親との喧嘩を中断し自室に向かいました。

母親は笑いながら言います。


「可哀相なマルメロ」


マルメロは、激しく苛立ちましたが無視をして自室に戻りました。


部屋に戻ったマルメロは、息があがっていました。

苛立ちすぎて、興奮状態なのです。


「とにかく、落ち着こう」


マルメロは、ベッドに腰掛け深呼吸をしました。


「私って、ダメね。あれくらいの事で動揺するだなんて。私の野望を叶えるには克服すべきだわ」


マルメロは落ち着きを取り戻し、鏡の前へ行きました。


「さぁ、どこをどうする?」


マルメロは自分の顔を見つめます。


釣り上がった目、薄い唇、ゴワゴワの髪…。


治したいところばかりです。


しかし、マルメロは「ふん!」と鏡に向かって言いました。


「この全てを魅力として、最大限にいかしてみせるわ。高貴な雰囲気を出すには、もってこいの顔立ちよ」


マルメロは背筋を伸ばし、見下すような目をしました。


釣り上がった目と薄い唇が、冷たさを増します。


マルメロは身長も高いため、威圧感が強く更に冷たく感じさせます。


マルメロは、そんな自分を完璧だと思いました。


あとは、髪がもう少し伸び美しく結い上げればマルメロの理想とする女性になれると思ったからです。


「そうよ。私は自信を持つべき人間。低俗な奴らには分からないでしょうがね」


マルメロの理想とする女性とは、冷たく凛々しく誰も近づけない雰囲気を持った女性です。

それに近づいている自分を嬉しく思い、また誇りにも思いました。


マルメロは、14才の誕生日に新たな自信を身につけたのです。

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