はだかのおうさま
昔々、ある王国に大変な肉体美を誇る王様がおりました。
そのさまはまことに素晴らしく、フロント・バイセップスのポージングをすれば、そのあまりに見事な上腕二頭筋に家臣も民衆も感嘆の溜め息をつき、アブドミナル・アンド・サイなどすれば、美しい石積みを思わせる深く割れた腹筋と丸太のような大腿四頭筋に酔いしれ、とどめのモスト・マスキュラーに至っては、信じ難いバルクの僧帽筋と三角筋、大胸筋、胸鎖乳突筋に人々はただただ、「切れてる!」、「でかい、でかいよっ!!」と無意識の声を上げてしまうほどでした。
そんな王国にある日、腕が良いと自称する服屋が訪れ、王様へ自分たちを売り込んだのです。
「私たちは世界一、美しい服をお作りすることができます」
これに対し王様は上機嫌で、
「よし、ならば作って見せよ」
即座に命じましたが、服屋は付け加えて、
「ただ、私どもの作る服は、馬鹿には見えないのです」
と言いました。
すると、それを聞いた途端に王様はやにわに激昂し、サイド・トライセップスのポージングで服屋を威圧しつつ、喝破しました。
「痴れ者どもっ! 我の美しさは万人に等しく与えられるべきもの! それを馬鹿には見ること叶わぬなどと民を差別するような服を、余が求めると思うてかっっ!!」
思惑通りにいくかと思った途端、突然急変した王様の態度に服屋も慌ててしまい、これはまずいと思ってか、早々に城を退散してしまいます。
これには家臣たちも大喜び。
王様の筋肉と器の大きさに改めて惚れ直し、
「まさしくにございます王様! 王様の美は万人が等しく享受を許されし有難きもの! よくぞ申して下されましたっ!!」
「何、語るまでも無いこと! よし、気分が良くなってきたわっ! 余の言葉に偽り無きを示す意味でも早速、披露目の行進を支度せいっ! 我が愛する国民たちへ存分に余の美を分け与えようぞっっ!!」
これぞ鶴の一声とばかり、家臣団は大急ぎで王様の行進を準備。
すぐさま誰にも見えやすくするため、絢爛豪華で高さもある輿が用意され、王様はその上に飛び乗ると、各種のポーズを決めながら国中の民衆へ自らの美を施さんと、大規模な行進を行いました。
その最中、王様の行進を見物していた子供の一人が大声で叫びます。
「王様は裸だ!」
と、その声に答えて王様は一言、
「そうだ童子よ! 何物でも飾ること無き純粋なるこの裸体! これこそが唯一にして真実の美なるぞっ!!」
ワセリンで光るジューシーな笑みを送り、そのままパンプアップした裸体を惜しげも無く晒しつつ、行進を続け、通り過ぎてゆきました。
そこで子供の親は大慌てで我が子へ言い聞かせます。
「我が子よ。こういう時、口にすべき言葉はそうではないんだよ。こんな時はそうではなく、こう叫びなさい」
諭すように、
「『ナイスバルク!!』と」
教えるや、一転して子供に加えて周囲の民衆たちも倣うように揃って「ナイスバルク!!」の大合唱。
結局、その日は一日、王様の赤銅色に輝く肉体美が国中へ惜しみなく振る舞われ、ここに歪みねえ筋肉王国の礎が確立されたのでした。
めでたしめでたし。