まっちうりのしょうじょ
昔々、雪の降り積もる夜の町。
ジャニー[検閲により削除]務所に所属する近藤雅[検閲により削除]通称マッチを、町の通りに立って凍えながら一生懸命に売る少女がおりました。
「マッチはいかがですか? マッチはいかかですか?」
ですが誰もマッチを買いません。
当然と言えば当然です。
何せ、こんなものを買ったりしたら人身売買ということで即、逮捕されてしまうのが目に見えていますから。
そのためか、今日もマッチはひとつも売れていません。
というかマッチは複数いませんので、ひとつ売れれば終わりなのですが。
さておき。
マッチがひとつも売れなければ、アイドル嫌いのお父さんは決して家に入れてはくれません。売れるまで、少女は家に帰ることすらできないのです。
そうこうしているうち、寒さに疲れ果てた少女は寒さを避けるため、狭い路地の入口へ身をひそめるようにしてしゃがみこんでしまいました。
雪はやみそうになく、寒さは増すばかり。
手袋もしていない小さな手はかじかみ、白くなった息を吐きかけますが、そんなことで暖を取るなど土台、無理な話です。
と、ふとそこで少女は思いつき、
「そうだわ、マッチに火をつけて暖まろう」
言って、マッチへ懐から取り出したジッポーで火をつけました。
マッチの火はとても暖かでしたが、マッチの上げる悲鳴が少し耳障りです。
それでも暖かいことには変わりなく、少女はなんだか心地良くなってきました。
しかし、マッチもただ燃やされていたのでは死んでしまうので、地面に積もった雪へ身を転がすと、全身に燃え広がりそうになっていた火を掻き消してしまいました。
そこで少女は、今度は簡単に消えないよう、道の脇に置いていたガソリンの入ったポリタンクを持ち上げると、蓋をあけて中身をありったけマッチに浴びせ、再びジッポーで火をつけることにします。
予想通り、マッチは凄まじい勢いで燃え上り、耳をつんざくような叫声をとどろかせて闇雲に走り回る、ちょっとした「走るキャンプファイヤー」状態になりました。
「うん、これはもうマッチというよりも、むしろ郷ひろ[検閲により削除]的な何かね。『アチチ、アチ』はそのままとして、『燃えてるんだろうか』って疑問形じゃなくて、がっつり燃えてるんだけど」
などと少女が一人で勝手に納得していると、遠くからサイレンの音がたくさん聞こえてきました。
次の朝。
少女は放火と殺人未遂の現行犯で逮捕され、少女のいた場所には真っ黒に焼け焦げたマッチが半死半生で転がっていました。
その様子を見た町の人々は、
「かわいそうに。マッチを燃やして暖まろうとしたんだろうね」
と口々に言いましたが、誰一人として救急車を呼ぼうとか、医者に連絡をとか、そういった気遣いをする人はいなかったのです。
今も昔も人情、紙の如しだなあと現場保全に当たっていた警察官の一人が思いはしたものの、彼もまたマッチを放置したままで与えられた仕事だけに終始したそうな。
救いようが無いな。いろいろと。でも、
めでたしめでたし。