したきりすずめ
昔々、あるところに『舌切り雀』の異名で呼ばれる恐ろしい犯罪者がいました。
舌切り雀は夜な夜な人気のない街の裏道へ身をひそめ、通りがかった人の背後にそっと近づくと、筋弛緩剤を注射して相手を動けなくし、裁縫バサミで被害者の舌を切り落すという残忍な犯行を幾度も重ね、街の人々を恐怖に震えあがらせていました。
無論、警察も黙っていたわけではありません。
被害者や、数少ない目撃者からの証言によって犯人の正体を必死に探っていたのです。
ところが分かったことは、犯人が犯行時には全身を黒いマントで覆い、顔には雀の仮面をつけているということだけで、直接犯人へとつながる情報は一向に得られませんでした。
さらに自らを犯人だと名乗る人間から警察へ、挑発するような内容の手紙と、切断された被害者の舌が小包で送りつけられるなど、進展しない状況に街の人々も警察も苛立ちを募らせてゆきました。
しかしある日、事態は急転します。
犯行に筋弛緩剤が使用されていることから、犯人は医療関係者ではないかとのプロファイルにより、被疑者としてマークされていた一人の医師が突然、警察の網をかいくぐってアメリカへと渡ってしまい、その日を境に舌切り雀の被害はピタリと止んだのでした。
結局、事件は迷宮入りとなり、今となってはその医者が真犯人であったかどうかを確認する手立てもなく、多くの謎を残したこの事件は現在に至っても様々な憶測を人々にさせ、現実の事件でありながら現代でもなお都市伝説的な一種の魅力をもって語り続けられているのです。
未解決事件。
それはもしかすると、現実と空想の狭間に揺れる、ラプラスの悪魔なのかもしれません。
【余談】
冗談めかした内容に仕上げるつもりだったのですが、実際に書いてみたら本当の事件を元にしているからなのか、単に脚色する側の私の力量不足か(まず後者だとは思っていますが)、ジョークどころか変に怖くなってしまいました。
やはり二次創作って、オリジナルとは違った難しさがありますね(さすがに今回は冗談でも『めでたしめでたし』では〆られませんでした)。