story.98
「それじゃあ、どうします。帰っちゃいますか?」
「ずいぶんと後ろ向きの提案だな」
唸り声が近づいてくるなか、エリスは撤退を提案し、エリトラはため息を吐くと、
「でも。今の状況では1番無難な策ですよ。クロスくんの剣は使えない。フィルちゃんもガス欠、セフィちゃんは言うまでもなく」
「クー……ぷすぷす」
エリスは現状を正確に判断しているようで苦笑いを浮かべ、フィルはエリスの言葉を否定しようと炎を吹こうとするが、炎は上がらず、恥ずかしそうに頭を掻く。
「……確かに、俺の魔法でしばらくは足止めできるだろうしな」
「そう言う事です。唸り声の原因はつかめてませんが、この大蜘蛛の生息地を発見できました。本来、いるはずのないものがここにいるのも先ほどの壁の件も、誰かの作為を感じますが全滅だけは避けないといけません」
エリトラはエリスの提案に納得しかけた時、
「……いつまでそうしてるつもりだ?」
「!? ……クロスさん、痛いです」
いつまでも呆然としているセフィの頭をクロスが叩き、セフィは頭を押さえながらクロスの顔を見上げると、
「くるぞ」
「おい。クロス」
クロスは一言そう言い、刀身の歪んだ剣を構え、燃え上がっている炎に向かい駆け出し、エリトラはクロスを呼び止めるが、クロスは炎の後ろから近づいてくるものに集中しはじめたようで振り返る事はない。
「……どうやら、逃げられないみたいですね」
「グー」
エリスはクロスの様子にため息を吐き、フィルもクロスと同様に向かってくるものの気配を感じ取ったようで唸り声を上げ始める。
「おいおい。帰るんじゃ無かったのかよ」
「まぁ、そうしたいのはやまやまなんですけど、どうやら、後ろの方を怒らせちゃったみたいですから」
エリトラはため息を吐きながら言うと、エリスは炎に映っている巨大な影を見て苦笑いを浮かべ、
「……また、蜘蛛ですよ」
「それもさっきのは比べられないサイズのな」
「たぶん、さっきの蜘蛛さんの親御さんでしょうね」
セフィはその影を見て涙を浮かべて言うなか、エリトラとエリスは苦笑いを浮かべながらもしっかりと戦闘態勢を整えようしているようで、魔力を集中させて行く。
「バカ女、さっさと用意しろ」
「は、はい!?」
クロスはセフィに向かい前に出て来いと言った時、
「!?」
「クロスさん!?」
炎の隙間からクロスに向かい糸が吐き出される。
「ちっ……」
「だ、大丈夫ですか?」
クロスは後方に跳び、糸を交わすとセフィはクロスに駆け寄るが、
「どん」
「きゃ!?」
クロスはセフィを押しのけると彼女を狙っていたのかセフィが駆け寄った場所には糸が吐き出されている。
「人の事を心配できるほど、お前に余裕はあるのか?」
「ですけど、押す事はないじゃないですか?」
セフィはクロスに押された時に腰をぶつけたようで腰をさすりながら立ち上がると、
「いちゃついてないで、準備しろよ」
「そうですよ」
2人の様子を後ろから見ていたエリトラとエリスの2人から冷やかしの言葉が飛ぶ。
「い、いちゃついてなんていません!?」
「……くだらない事を言う暇があったら、支援魔法の1つでも唱えろ」
セフィはエリトラとエリスの冷やかしに声をあげるが、クロスはセフィとは対照的に表情を変える事なく炎の奥からこちらを狙っている敵を睨みつけたまま言う。
「はいはい。わかってますよ」
「ふえっ!?」
エリスがため息交じりに頷いた時、彼女は支援魔法を唱え終えたようで、クロスとセフィの剣が炎をまとい赤く輝き出し、セフィはその様子に驚きの声をあげる。
「……」
「それじゃあ、わたしも前に出ますから、エリトラさん支援お願いしますね」
「……あぁ」
セフィが隣で驚きの声をあげているのを無視して、クロスは改めて剣を構えるとエリスはクロスの様子に苦笑いを浮かべながら炎の前に駆け出す。
「……お前ら、タイミングを合わせろよ」
「ふぇっ!?」
エリトラは魔法の準備を終えたようでそう叫ぶと、炎の後ろにいる巨大蜘蛛の立っている地面が揺れだし、大蜘蛛を燃やしていた場所の地面が沈み土煙が上がる。
「行くぞ」
「はい」
「ま、待ってください!?」
土煙が上がる中、地面が沈んだ事により、大蜘蛛を燃やしていた炎が弱まり、クロスとエリスは巨大蜘蛛に向かい駆け出して行き、セフィは目の前の巨大蜘蛛に怯みながらも2人の後を追いかけて行く。