story.97
「……フィル、行くぞ」
「クー♪」
クロスはフィルと背中を合わせると、剣を大蜘蛛に向け、フィルはクロスの到着に一先ず危機を脱したと感じたようで嬉しそうに返事をする。
「エリトラさん、今のうちに魔法の詠唱を始めてください」
「お、おう」
エリスはエリトラの前にいた大蜘蛛を鎚で殴りつけるとエリトラをかばうように立ち、エリトラに魔法の詠唱を始めるように言い、
「セフィちゃん、怯えてる暇なんてありませんよ。クロスくんもフィルちゃんもこの数を相手にするのは大変なんですから、そこで怯えてたって、誰も守ってくれないんですからね」
「ですけど……」
エリスはセフィに向かい言うが、彼女は半泣きでエリスに向かい何かを言おうとするが、
「自分が苦手なものでも、顔をあげなさい。あなたの行動次第で、この中の誰かが死ぬかも知れないんですよ。これはあなたが考えも無しに歩きだした結果です」
エリスは今までのおっとりとした口調とは異なり、セフィを怒鳴りつけながら、クロスとフィルが仕留め切れなかった大蜘蛛を殴りつけている。
「……サラ、頼む」
エリトラは魔法の詠唱を終えたようで、サラを呼び出すと、
「立て、さっきも言ったが、このままじゃ、ジリ貧だ。蜘蛛どもは奥からどんどんと湧いて来てやがる」
エリスの魔法で明るくなっているため、全体を見渡し、蜘蛛達が洞窟の奥から現れている箇所を見つけて言う。
「ふぇぇぇぇ!?」
セフィは辺りが明るくなった事で、苦手であるはずの蜘蛛を目の当たりにしたようで情けない声をあげると錯乱しているのか立ち上がり、剣を振りまわしはじめる。
「……これはどうしたら良いでしょうか?」
「……知るか。とりあえず、立ち上がったんだから援護くらいすれば良いだろ」
「……ですよね」
エリスがセフィを見て、苦笑いを浮かべながら、隣で大蜘蛛の死体の山を積み重ねて行くクロスに聞くと、クロスはセフィを無視して淡々と大蜘蛛を斬り捨てて行くが、
「……ちっ」
何体もの大蜘蛛を斬り捨てて来たせいか、剣の刀身が歪んできたようで、大蜘蛛の牙に剣が止められてしまう。
「クロスくん、大丈夫ですか?」
「……あぁ」
エリスはクロスの剣を受け止めた大蜘蛛を鎚で殴り飛ばし、クロスと背中を合わせると、
「らちがあきませんね。……退きますか?」
「この状況じゃ、どうにもならないだろ」
退却を提案するが、クロスはすでに退路は大蜘蛛の大群により、断たれていると判断しているようでそう言い、
「俺とフィルで時間を稼ぐ、その間に支援を頼む」
「その剣で持ちますか?」
「当然だ」
クロスはエリスに魔法を使って欲しいようでそう言うが、エリスは今のクロスの剣では持たないと思うが、その杞憂をクロス自身が否定し、
「行くぞ。フィル」
「クー」
フィルに向かい言った時、
「クロス、フィル、セフィ、エリス、下がれ」
エリトラの声が響き、
「燃え散れ」
エリトラは今まで、魔法の詠唱を始めていたようで大蜘蛛の群れに向かい大きな火球が飛びだし、
「ふぇっ!?」
「……」
「……凄いですね」
「クー」
クロスは火球に驚きの声をあげているセフィを抱えて火球を交わし、フィルとエリスは大蜘蛛に向かい放たれた火球を見て驚きの声をあげている。
「これで、少しは借りを返したな」
エリトラは今の状況が自分が突っ込んで行った事にも責任があると感じているようでぼそりと言うと、
「……気を抜くなよ」
「わかってるよ」
クロスはその言葉に何も言うわけではなく、この大蜘蛛の群れの中心にいるであろう存在を警戒したように言い、エリトラは真剣な表情で頷く。
「……」
「セフィちゃん?」
「……」
「クー?」
エリスが目の前で大蜘蛛が燃えている様子を眺めているセフィに声をかけるが、彼女はエリスの声が聞こえていないか呆然としており、その様子にフィルがセフィの顔を覗き込むが反応しない。
「……しかし、こいつらここら辺に生息してたか?」
「いや、今まで見た事がないな」
「えぇ。何度もこの辺の鉱山にはきてますが、1度も見た事はないです」
エリトラはクロスが斬り捨てた大蜘蛛の死体を見ながら言うと、この一帯を主な活動地域にしているクロスとエリスの2人はその言葉に大蜘蛛の群れがこの場所にいる事を不思議なようで怪訝そうな表情をする。
「ぐおおおおお」
「……考えるのは後にするか」
「そうだな。今の状況を考えると大ボス登場って事だろうし」
大蜘蛛がこの場所にいる理由を考え始めた時、唸り声が響き、その唸り声は大きくなりながらこちらに近づいてくる。