story.96
「クー?」
フィルはセフィが声をあげた意味がわからずに首を傾げると、
「クー」
もう1度、辺りを照らすために小さく炎を吐き、セフィを確認する。
「クー」
フィルはセフィを確認して、セフィに歩み寄り、
「クル?」
セフィの顔を覗き込むと、
「フィルちゃん」
セフィはフィルをしっかりと抱きしめ、身体をふるわせている。
「セフィ、フィル、どこだ?」
地面が崩れる音に混じり、エリトラの声が暗闇の中に響き、
「クー」
フィルはセフィの腕の中からエリトラを呼ぶと、
「無事か?」
エリトラはフィルの声をたどりに着きセフィに声をかける。
「……エリトラさん?」
セフィはエリトラの声に声を振るわせながら返事をすると、
「何があったんだ?」
エリトラは周りを警戒しながら、セフィの叫び声をあげた理由を聞き、
「そ、そこに大きな蜘蛛が!?」
セフィは蜘蛛が苦手だったようで、フィルが辺りを照らした時に蜘蛛が見えたために声を上げたと言う。
「………何?」
エリトラはセフィの言葉に一瞬、何を言われたか理解が出来なかったようで、聞き返すのに間が開き、
「……蜘蛛くらいで、あんな声をあげるな」
呆れたようなため息を吐きながらセフィに言うが、
「だ、だって、ものすごく大きかったんですよ」
セフィにとっては一大事だったようで、フィルを抱きしめながら泣き出しそうな声で言う。
「でかいと言ってもたかが蜘蛛だろ」
エリトラがため息を吐いた時、
「グルル」
フィルが何かを感じたようで唸り声をあげ、セフィの腕からすり抜け、
「フィル」
エリトラはフィルの唸り声に何かを感じたようでフィルの名を呼ぶと、
「グー」
フィルは暗闇に向かい炎を吹き、炎で照らされた場所には、人と変わらない大きさの大蜘蛛がこちらをうかがっている。
「いやぁぁぁぁ!?」
セフィは蜘蛛を見て、再度、悲鳴を上げ、
「……確かにでかいな」
エリトラは蜘蛛のサイズを確認して引きつった笑みを浮かべ、
「グル」
フィルは唸り声をあげたまま、暗闇を睨みつけている。
「だ、だから、大きいって言ってたじゃないですか!?」
セフィはエリトラに向かい言うと、
「……だからと言って、あれはでかすぎだろ」
エリトラはセフィの言葉に答え、
「セフィ、立て。やるぞ」
大蜘蛛の相手をするために、セフィに立てと言うが、
「む、無理です。私、蜘蛛だけはダメなんです」
セフィは蜘蛛が苦手なようでそう叫ぶ。
「……んな事を言ってる場合か」
エリトラはセフィの言葉にそう言うと、
「グル」
フィルが大蜘蛛と戦闘を始めたようでフィルの炎が辺りを照らして行き、
「立て、前衛がいないと俺は魔法を使う時間が取れない。見えないままではフィルだけじゃ手詰まりだ」
エリトラはセフィに立てと言うが、セフィはただ首を振るだけで立ちあがらない。
「……ちっ」
エリトラはセフィの様子に舌打ちをすると、待ってはくれない大蜘蛛との戦闘に対処をしようと詠唱を始めるが、
「……ちっ」
大蜘蛛はエリトラに向かい糸を吐き、エリトラはその糸を交わすが、魔法の詠唱は途絶えてしまう。
「……不味いな。俺の魔法は詠唱に時間がかかるのに、セフィがこれじゃあな」
エリトラはロッドを構えるが、自分の使う妖精魔法に時間がかかる事を理解しているせいか、今のままでは魔法の詠唱ができないため、背中にいやな汗が伝い始め、
「グー」
フィルは上手く大蜘蛛の攻撃は交わしているようだが、フィルより、大蜘蛛の方が暗闇の中でも相手を視界に捉えられるようで、フィルに向かい繰り出される攻撃は徐々に正確になって行く。
「……おい」
エリトラは今の状況を打破しようともう1度、セフィに声をかけるが、
「……」
セフィはただ首を振るだけで何もする事はない。
「……どうする?」
エリトラは今の状況を覆すために考え始めるが、
「……ちっ、今は防戦するしかないか」
セフィがこんな状況ではどうしようもないようで防戦を決めて、クロスとエリスが追いつくのを待とうと考えを決めた時、
「みなさん、目を閉じてください」
エリスの声が響き、
「ライト」
エリスが先ほど使用した辺りを照らす魔法を唱えると、暗闇は昼間のように明るくなり、
「……」
クロスの剣がフィルと対峙していた大蜘蛛の1匹を1振りで斬り捨てる。