story.92
「ま、待ってください」
セフィはコウモリとの戦闘がきつかったようで肩で息をしながら言うと、
「クー」
フィルはセフィの意見に賛成し、
「そうですね。一旦、休憩にしましょう。これで過半数です」
エリスはクロスに言い、
「……」
クロスはその様子を見て、何を言っても無駄だと判断したようでランタンを置いて通路の脇にある岩に腰かける。
「お前、無愛想な面してる癖に甘いよな」
エリトラはクロスの様子に苦笑いを浮かべながら言うと、
「……昔、世話になった人の教えなんだ」
クロスは面倒くさそうに言い、
「……」
腰にかけてある道具袋から、薬草らしきものを取り出し、腕の小さく皮膚が切れている箇所に貼る。
「ケガか? 薬草なんかで治療しないで、セフィがいるんだ。治して貰えば良いだろ」
エリトラはクロスの様子を見て言うと、
「必要ない」
クロスはセフィの治癒魔法はいらないと答える。
「クロスさん、ダメですよ。何があるかわからないんですから、回復はしっかりとしておかないと」
セフィは息が整ってきたようで、クロスに向かい言うが、
「……何度も言わせるな。必要ない」
クロスはセフィの言葉が鬱陶しいようで、冷たく言う。
「ダメです。それにそのキズは私のせいですし……」
セフィはエリトラとエリスが話し込んでいる間にクロスに庇って貰っていたようで、クロスの腕のキズは自分のせいだと言い、責任を持って治療したいと言うが、
「何度も言わせるな。必要ない」
クロスはセフィの治療を受ける気はない。
「セフィちゃん、クロスくんのキズはかすりキズですし、先に何があるかもわかりませんから、治癒魔法は止めておきましょう」
エリスはクロスに治癒魔法が効果がない事を知っているようで、クロスとセフィの様子を見て苦笑いを浮かべながら言うが、
「ですけど……」
セフィは納得がいかなさそうな表情で言う。
「……」
クロスはセフィの様子を気にする事なく、自分の治療を続けていると、
「なぁ、治癒魔法を受けたくない理由でもあるのか?」
不意にエリトラがクロスが治癒魔法を拒否しているのに何か疑問を感じたのかクロスに向かい聞く。
「……」
クロスはエリトラの疑問に表情を変えることなく、自分のキズの治療を終えると、
「……俺は神を信じていない」
エリトラに向かい言い、
「そう言う事か」
「また、そんな事を言ってるんですか? そんな事を言ってないでキズを見せてください」
エリトラはクロスの一言で、全てを理解したようで頷くが、セフィはクロスの言葉では『クロスに神の奇跡は与えられない』事に気づいていないようでクロスにキズを見せろと言うが、
「必要ない」
クロスは再度、セフィに必要ないと言う。
「ですけど」
しかし、クロスが治癒魔法を受けないのに納得がいかないセフィは引かず、
「まあまあ、セフィちゃん、今回は無しの方向で魔力は貴重ですしね」
「クー」
フィルとエリスがセフィをなだめ始め、
「お前もその若さでずいぶんと難儀な道を歩いてきたんだな」
エリトラはクロスの肩を叩く。
「……叩くな」
クロスは鬱陶しそうにエリトラの手をはたき、
「それで、いつになったら出発できるんだ?」
立ち上がり、休憩はここまでにしろと言い、
「そうだな。あれだけ騒げるなら行くか」
エリトラはセフィをなだめているフィルとエリスを見て苦笑いを浮かべて言うと、
「そうですね」
「クー」
フィルとエリスは頷く。