story.5
店を出たクロスは町を出て森の中にある自分の家へ続く獣道を歩く。
家と言っても住める状態では無い。
昔、たった1人の家族を失った場所。
クロスが今まで生きていて……
幸せだった記憶が眠る場所。
「……ただいま。とうさん」
クロスはそう言うと朽ち果てた家に手をあわし、目をつぶる。
クロスの父親はダークエルフだった。
父親と言っても血のつながりは無く、森に捨てられていたクロスを拾い育ててくれた義理の父親。
一般にダークエルフと言うと邪神を信仰し、人間に危害を加える者であったがクロスの父親である『クオ』はそんな事は無く、クロスに対して愛情を持って育ててくれた。
彼も邪神と言われる神を信仰してはいたが、現教会が一方的に邪神としている神だった。
一般的に邪神を信仰している者達は生贄や暴力と言った血を好むものであったが、クロスの父親が信仰していた神は『やりたい事をやり、知りたい事を知る』無邪気な子供の幼神であり、『知識と好奇心の神』として信仰されていたが、昔の信者が差別され、貧困に苦しみ、暴力や略奪といったものに走ってしまい。教えを歪ませ、邪神と扱われるようになった……
悲しい神である。
(……カッコつけて出てきちまったし)
クロスは父親への挨拶を済ませると朽ち果てた家を見てため息を吐き、
(今日は野宿だな)
今日の宿泊方法を決めると、クロスは荷物を下ろし、野宿の準備を始める。
(……たまに、戻ってくるんだから、家を直すか?)
クロスは集めた薪に火を着け、座り込むと朽ち果てた家をもう1度見ると、
(……このまま、残しておきたい気もするし、簡単な小屋ぐらい建てるか? 金は……足りないよな。あいつには借りたく無いし、依頼が1日で変わっているとは思えないけど、明日、もう1度、仕事見てから考えるか?)
クロスは町に帰ってきた時は必ず、ここに戻ってきているようで、自分とフィルが眠るための小屋を建てるか考えている。
「ガサっ」
その時、クロスから少し離れた場所の茂みから何かが動いた音がする。
(……ん!?)
クロスはその音に気づいたようなそぶりは見せずに、
(……こっちを見てる奴が居るな)
茂みの中の様子をうかがう。