story.99
「……やっぱり、怒ってますね」
「……」
炎を抜けた先にはエリトラやエリスが予想した通り、先ほどまで相手をしていた大蜘蛛の親だと思われる巨大な蜘蛛が不気味に光る赤黒い瞳に殺意を込めてこちらを見つめている。その巨大蜘蛛を見て、エリスは苦笑いを浮かべ言うが、クロスはエリスの言葉に答えるわけでもなく、巨大蜘蛛に向け剣を構える。
「……エリス、あいつのカバーを任せるぞ」
「はい。任されました」
「……」
クロスはエリスに向かい、セフィの援護を任せると言い、エリスはなんだかんだ言いながらもしっかりとセフィの事を気にかけているクロスを見て微笑むがクロスはエリスの返事を聞く事なく、巨大蜘蛛との距離を縮めて行く。
「ク、クロスさん、速いですよ」
「セフィちゃん、わたしたちの仕事はエリトラさんが魔法を使うまでの時間を稼ぐことです。クロスくんが囮を買って出てくれましたけど、さっきも見た通り、糸による遠距離攻撃もありますからね」
セフィは先に進むクロスに向かい言うが、彼は振り返る事なく巨大蜘蛛の目の前まで移動すると真っ先に巨大蜘蛛の視界を奪うために巨大蜘蛛の右目を潰そうと勢いよく地面を蹴り斬りかかるが、
「……ちっ」
巨大蜘蛛はその大きな身体の割には素早いようで、大きな牙でクロスの剣を防ぐと、剣を弾かれ体勢を崩しかけたクロスに向かい糸を吐く。
「クロスさん!?」
「……」
その様子を見て、セフィは慌てながらクロスの名前を叫ぶが、クロスは剣を弾かれ、巨大蜘蛛の反撃を受ける事をあらかじめ予想していたのか空中で体勢を整え、ギリギリで糸を交わす。
空中で体勢を整えたクロスは地面に着地をすると、先ほどのエリトラの魔法で地面がもろくなっているようで、土煙りが上がる。
「ぐる」
その土煙により巨大蜘蛛の視界からクロスが一瞬だけ消えたのか、巨大蜘蛛は小さな唸り声をあげると、
(……)
クロスはその時を見逃さなかったようで土煙が上がる中、再び、巨大蜘蛛に向けて斬りかかり、
「……ぎゃああ」
クロスの剣の軌跡は的確に巨大蜘蛛の右目を斬りつけると、エリスから受けている支援魔法の効果なのか肉が焦げる匂いがただよう。
「あの、私達が援護する必要ってあるんですかね?」
「そうですね」
目の前で、優位に戦闘を繰り広げているクロスの様子を見て、セフィはあの中に飛び込む勇気がないのか引きつった笑みを浮かべると、エリスもクロスの足を引っ張ると思ったのか苦笑いを浮かべながら答える。
「へたにあそこまで行くと事故になりそうですしね。セフィちゃんは攻撃魔法って仕えます?」
「は、はい。あまり多くはないですけど、神聖魔法にも攻撃魔法はありますから」
すでにエリスの中では、巨大蜘蛛への直接攻撃はクロスに任せる気になっているようで、セフィに魔法の事を聞くと、彼女は自分も攻撃魔法を使う事ができると答え、
「それなら、クロスくんにあたらないようにここら辺から狙いましょうか?」
「で、でも、良いんですかね?」
「良いんです。良いんです」
セフィはエリスの言葉に苦笑いを浮かべるが、すでにエリスはここから魔法を撃つために詠唱を始めだす。