story.9
「剣の腕だけではなく洞察力もある。噂以上ですね♪」
男が笑いながらクロスを誉めると、
「……人の能力を試そうとした割にはずいぶんとお粗末な奴らを連れてきたみたいだな」
クロスは男の思惑を探ろうとしているようで男を睨みつけたまま答える。
「なかなか評判と威勢は良かったんですけど、口先だけでしたね。アナタの能力を測るには役不足でした」
クロスの様子に男は苦笑いを浮かべながら言うと、
「何? てめぇは隠れてたくせに言うじゃねぇか」
襲撃の実行犯達は面白いわけがなく、襲撃を依頼した者と受けた者の間に緊張感が走るが、
「仲間割れなら余所でやってくれ」
その様子にクロスは付き合っていたくないようでため息を吐くが、不意に真剣な表情になり、
「……それとお前らが束になったところでかなうとは思わないがな」
男と襲撃者達の実力差を感じているようでそう言うと、
「……ちっ」
その言葉を聞き、襲撃者達は捨て台詞を吐きながら帰って行く。
「ずいぶんとお優しいですね」
男はクロスが襲撃者達をかばった事に驚いたような表情をすると、
「これでもこの場所は親父の墓だからな。バカな奴らの血で汚したくない。それで、何のようだ?」
クロスは父親との思い出の場所をこれ以上汚したくないと言った後、男に向かい聞き返すが、
「少々頼みたい事が有ったのですが、そんな気分では無くなってしまいましたので、今日は失礼します」
クロスの言葉が期待外れだったようで、男はため息を吐くと男は姿を消した。
(……あいつは何者だ? あの動きはアサシンの類か? ……底も見えなかったし、あいつが本気できたらまずかったか?)
クロスは男の実力をはかり損ねたようで首を傾げていると、
「消えましたよ!? どういう事ですか? クロスさん」
セフィが驚きの声をあげる。
(……まだ居たのかよ)
クロスはため息を吐き、
「どうでも良いだろ。それよりいつまで居るつもりだ? さっさと帰れよ」
セフィが邪魔なようで帰ろと言うと、
「どうしてそんな事を言うんですか?」
セフィはクロスの言葉に不満げな声をあげるが、
「邪魔だからだ」
クロスはきっぱりとセフィを拒絶する。
「わかりました。これで失礼します!!」
セフィは立ち上がり町へ帰ろうとするが薄暗い森を目にして、立ち止まる。
(まさか、そんなわけないよな?)
クロスの頭はそんなセフィの様子にある答えを導き出したようで、
「……まさか、帰れないなんて言わないよな?」
帰り道がわかるか確認をすると、
「……はい。帰れないです」
セフィは小さな声で、返事をする。
(……こいつ、やっぱりバカだ)
クロスはセフィを見て呆れたように深いため息を吐くと、
「仕方ないじゃないですか。来る時はこんなに暗くなかったですし、道もわかりましたけど」
セフィは反論を始める。
「……バカ女」
「だから、私にはセ……ふぇっ!?」
反論するセフィをクロスが呼ぶとセフィはクロスに文句を言おうとするが、クロスはセフィに予備の毛布を投げつける。
「クロスさん、これ?」
セフィは驚いた様子でクロスの顔を見るが、
「……朝になったら消えろ」
クロスはそう言うと、もう関わり合いたくないと思っているようで、自分の毛布を被る。
「……ありがとうございます」
セフィはクロスに向かいお礼を言うが、
「……」
クロスからの返事はない。