prologue
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少年の前で彼の父親が教会の旗を掲げた兵士達に暴行を受けている。
少年は1人の兵士の足にしがみつき父親への暴行を止めさせようするが、
「止めて、お父さんをいじめないで」
少年の力で止められる訳が無く、
「五月蝿い!!」
兵士は少年を振り払うとまるで少年を見下すような瞳で見ながらいやらしい笑みを浮かべ、
「ガキ、いいか? ダークエルフは邪悪なんだよ。このまま生かしておくとお前みたいな邪神に洗脳されたガキが増えるんだよ」
少年の父親を『邪悪』だと決めつけ自分の正当性を主張する。
「お父さんは優しいよ。悪い事なんてしてない!!」
その兵士の言葉に少年は納得できるはずもなく声を荒げた時、
「このガキは手遅れだな。いくら教会で愛と正義を教えてやっても信じないだろうし…殺すか?」
少年と兵士のやりとりを笑いながら眺めていたもう1人の兵士が楽しそうな笑みを浮かべて言う。
「そうだな。ダークエルフと邪教徒、2つの首で俺達の株も上がるだろ」
兵士はその言葉に同意すると、
「良かったな。大好きな父親と一緒に神様のところへ送ってやるよ」
兵士達が少年ににじり寄り少年の腕を掴んだ時、
「その子を離せ」
多くの兵士に囲まれて傷だらけの少年の父親が最後の力を振り絞り兵士に体当たりを喰らわせる。
「お父さん!?」
少年は父親の抵抗で兵士の手から解放されるが、攻撃を受けた兵士は面白いわけもなく、
「こいつ、何しやがる!! ガキは後だ!! 先にこの邪悪なダークエルフを始末するぞ!!」
攻撃の対象は少年の父親に向けられる。
「止め…」
少年はその様子にまたも兵士の足にすがりつき兵士を止めようとするが、
「クロス、逃げなさい。お父さんは大丈夫だから」
父親が少年を制止する。
「……でも」
涙を目に浮かべ、父親を助けようとする少年に、
「いいから行くんだ」
父親は微笑み諭すように言う。
少年はその言葉を聞いて、幼い瞳いっぱいに涙を浮かべながら父親を背に走り出す。
(それでいい。もう私はあの子を見守る事は出来ないが……我らが慈悲深き神よ。優しいあの子が道に迷わないように見守って下さい)
父親は最愛の息子の背中を兵士達が信仰する神とは異なる神に祈る。
「さすが邪教徒だ。あのガキ、父親を見捨てやがったぜ」
兵士達はその様子を見て、少年には興味もなくなったのか笑いながら父親を痛めつけている。
(……お父さん、ごめんなさい。ごめんなさい)
耳に入る兵士達の笑い声を聞きながら少年は暗い獣道を走る。
どれだけの距離を走ったかは少年にはわからない。
暗い獣道を抜け、町の光に気づくと、
(灯りだ。誰か助けを……)
町の光を見つけ、父親を助けて貰おうとするが少年の体力はそこで力尽きたようで、急に力が抜け倒れ込む。
「おい!? 坊主。どうした? そんなに怪我して。おい、目を開けろ。誰か治癒魔法を使える奴はいないか?」
少年が倒れ込む様子を見かけたのか冒険者風の男が駆け寄って少年を支えて、助けを呼ぶなか、「…あ、おと」
少年は父親を助けて欲しいと言おうとするが体力が底をついているせいか言葉が上手く出てこない。
「坊主、しゃべるな。治癒魔法を使える奴はいないか? いないか?」
男は少年を抱きかかえると治癒魔法を使える人間を探して走りだす。
しばらくして、冒険者風の女が男に声をかけ、少年に治癒魔法をかけるが、
「どうして!? この子には治癒魔法が効かないの?」
少年に治癒魔法は効果がなく、驚きの声をあげる。
「知るか!! それなら医者だ。この子を助けるぞ」
「えぇ」
2人の冒険者は医者を探しに駆け出し、少年は男の腕に抱きかかえられ、薄れゆく意識の中、
(……どうして神様はお父さんを助けてくれないの? あんなに毎日、お祈りしたのにどうして………そうだ。神様なんてい・な・い・ん・だ…………)
この日、少年はたった1人の『家族』と信じていた『神』を失った。