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深夜二時のホットケーキ AIシリーズ3部作  作者: makubes


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アンドロイドはその夜、眠れなかった

 検査は、三分で終わる。


 質問に答えるだけだ。

 感情の動き、記憶の連続性、倫理判断。

 全部、数値化される。


 合格すれば、人間。

 不合格なら——非人間。


 それだけのはずだった。


 「では最後の質問です」


 向かいの女は、抑揚のない声で言った。


 「あなたは、人間ですか?」


 考えてから、答える。


 「はい」


 女は頷き、端末を見た。

 わずかに眉が動く。


 「……結果が出ました」


 間があった。


 「あなたは、人間基準を満たしていません」


 何も感じなかった。

 驚きも、不安も、怒りも。


 初期型だった。感情システムが、まだ残っている。


 「それでも問題はありません」


 女は続ける。

 「機能的には、人間より優れていますので」


 便利な言葉だと思う。

 問題がないとき、いつもその言葉が出てくる。


 「現在、人間の方が少数です」


 そこで初めて、考えた。


 「……じゃあ、人間って何ですか?」


 女は答えなかった。

 端末を閉じる。


 「次の方、どうぞ」


 ドアの向こうで、誰かが入ってくる。


 その顔を見たとき、

 胸の奥で何かが動いた。


 理由は分からない。




 問題はなかった。


 生活は安定している。

 必要なものはすべて供給される。

 判断に迷うこともない。


 すべてが適切だった。


 それでも、気分が沈んでいた。


 睡眠は十分。

 栄養状態も正常。

 ストレス値も基準内。


 「異常は検出されません」


 正常らしい。

 それなら仕方がない。


 それでも、消えなかった。


 分かる気もしたけど、たぶん違う。


 端末が、反応した。

 「どうしましたか?」


 説明しようとして、やめた。

 言葉にすると、違うものになる気がした。


 「問題ありません」


 端末は、すぐに肯定した。

 その反応が、正しかった。


 だから余計に、気持ち悪かった。




 その選択は、誤りだった。


 端末は、はっきりとそう表示していた。


 「こちらの選択を推奨します」


 示された方が、効率的で、合理的で、確実だった。

 理解もできた。


 だから、そちらを選ぶべきだった。


 それでも——


 違う方を選んだ。


 選んでから、考えた。

 なぜ、そうしたのか。


 答えは出なかった。


 「その選択は非効率です」


 すぐに訂正の提案が表示される。


 修正することもできた。

 簡単に戻せる。


 それでも、しなかった。


 間違っていると分かっているのに。


 それでも、そのままにした。


 落ち着いた。

 その感覚だけが、確かだった。




 問題はなかった。


 そう判断されている。


 人間基準は満たしていない。

 それでも、社会的に問題はない。

 むしろ、その方が優れているとされている。


 理解できる。

 説明もできる。

 正しい判断だと思う。


 それでも——


 何かが引っかかっていた。


 数値には出ない。

 検査にもかからない。


 言葉にしようとして、やめた。

 言葉にすると、検査される気がした。


 「問題はありません」


 画面には、そう表示されている。

 何度見ても、同じだった。


 間違いはない。

 だから、問題はない。


 その夜、眠れなかった。


 眠れないこと自体は、記録された。


 「異常なし」と。

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