はじめてのハンバーグ
「ところでドッグタグを貰ってたってことは新人ちゃんだよね!じゃあお祝いにハンバーグを奢ってあげる!ついてきて!」
そう言われてから、手を引かれ気づけば食堂のテーブルに座っていた。
周りを見回す。
探索者たちが行き交い、笑い声が響く。
カウンターでは料理人が忙しそうに動いている。
掲示板には何やら情報が貼られている。
賑やかな、日常の音。
「ハンバーグ定食二つ!」
風使いちゃんが元気よく注文する。
「はーい、少々お待ちくださーい」
料理人が答える。
テーブルを挟んで向かい合う二人。
風使いちゃんは、既にフォークとナイフに手を伸ばしかけている。
「新人ちゃん、ハンバーグ好き?」
風使いちゃんが聞く。
新人ちゃんは、少し考えるように首を傾げた。
「...わかりません。食べたことが、ないかもしれません」
「え!?マジで!?」
風使いちゃんの目が輝く。
「じゃあ今日は記念日だね!初ハンバーグ記念日!」
「記念日...」
新人ちゃんは、その言葉を小さく繰り返した。
「そうだよ!人生で初めてのハンバーグなんて、超特別じゃん!」
風使いちゃんは、嬉しそうに笑う。
「楽しみにしててね!絶対おいしいから!」
「...はい」
新人ちゃんは、小さく頷いた。
「あ、ちょっとトイレ行ってくる!新人ちゃん、ここで待ってて!」
「はい」
風使いちゃんは、ぱたぱたと食堂の奥へ消えていった。
ーー
新人ちゃんは、一人、席に座っていた。
食堂の喧騒。
探索者たちの笑い声。
料理の香り。
新人ちゃんは、椅子に座り直し、テーブルに置かれた水のグラスを手に取った。
一口、飲む。
「おまたせー!」
風使いちゃんが戻ってきた。
「待った?」
「いえ」
新人ちゃんは、小さく首を振った。
「あ、ちょうどよかった!」
「お待たせしましたー。ハンバーグ定食二つ」
運ばれてきた。
湯気の立つ、丸い肉の塊。
照り焼きソースが艶やかに光っている。
新人ちゃんは、それをじっと見つめた。
動かない。
ただ、見ている。
「...これが、ハンバーグ、ですか」
「そう!見て、このツヤ!この香り!最高でしょ!」
風使いちゃんは、既にフォークを握っている。
「じゃ、いただきまーす!」
「...いただきます」
新人ちゃんは、恐る恐るフォークとナイフを手に取った。
ーー
ハンバーグを、切る。
肉汁が、じわりと滲み出る。
フォークに刺して、口に運ぶ。
新人ちゃんの手が、少し震えていた。
口に、入れる。
ーー
新人ちゃんの目が、大きく見開かれた。
じっと、動かない。
フォークを口元で止めたまま。
咀嚼する。
ゆっくりと。
そして。
「...っ」
新人ちゃんの目が、潤んだ。
「新人ちゃん?どうしたの?大丈夫?」
風使いちゃんが心配そうに覗き込む。
「...いえ」
新人ちゃんは、小さく首を振った。
「おいしくて」
「でしょ!泣くほど美味しいよね!わかるー!私も初めて食べた時、感動したもん!」
「...はい」
新人ちゃんは、もう一度小さく頷いて、
静かに、もう一口、ハンバーグを口に運んだ。
ーー
二人は、ゆっくりとハンバーグを食べ進める。
風使いちゃんは、あっという間に半分食べてしまった。
新人ちゃんは、一口一口を大切に、時間をかけて食べている。
その様子を、風使いちゃんは微笑ましそうに見ていた。
「ね、新人ちゃん」
「はい」
「今度、一緒にダンジョン行こうよ!」
新人ちゃんは、少し考える。
「...はい。ご一緒させてください」
「やった!じゃあ明日行こうね!」
「...」
新人ちゃんは、風使いちゃんを見つめた。
「...なぜ、そんなに喜んでくれるんですか?」
「え?」
風使いちゃんは、きょとんとした顔になる。
「だって、友達が増えるの嬉しいじゃん」
「友達...」
新人ちゃんは、その言葉を繰り返す。
まるで、初めて聞く言葉のように。
風使いちゃんは、少し首を傾げる。
「友達って言葉、変だった?」
「いえ...」
新人ちゃんは、小さく笑った。
「...はい。私も、嬉しいです」
その笑顔は、さっきまでとは少し違っていた。
少しだけ、柔らかい。
「よかった!じゃあ明日も一緒に行こうね!」
「はい」
二人は、再び食事に戻る。
風使いちゃんは、もう完食しそうな勢い。
新人ちゃんは、まだ半分も食べていない。
「お代わり頼んでいい?」
風使いちゃんが聞く。
「...私のも、食べますか?」
新人ちゃんは、自分の皿を風使いちゃんの方へ押した。
「え!いいの!?」
「はい...少し、お腹がいっぱいで」
「やった!新人ちゃん、大好き!」
風使いちゃんは、嬉しそうに新人ちゃんのハンバーグに手を伸ばす。
新人ちゃんは、その様子を静かに見ていたがぽつりと言葉が漏れる。
「ハンバーグは、おいしい」




