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ハンバーグはハンバーグ  作者: 風待望
新人ちゃん

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4/10

はじめてのエントランス

「向こうのハンバーグ定食は美味しいからオススメよ。あー、あと—」


受付ちゃんが、視界の端で何かに気づいたように一瞬言葉を止める。


「—ダンジョンは魔物だから気をつけてね」


「ハンバーグ定食があるならやる気が出てきた!!」


受付ちゃんが手元のレバーを操作し扉を叩くと、窓口の横にある扉の向こう側が《忘却の古塔》へと直結された。少女は上機嫌にスキップしながら軽やかな足取りでゲートをくぐった。


扉が閉じる。


エントランスに、また日常が戻る。




その様子を、眺めている少女がいた。


金髪の、どこかお嬢様のような雰囲気を持つ少女。彼女は今日、初めてここに訪れていた。


朝のエントランスは賑わっている。探索者たちが行き交い、装備を確認し、仲間と話している。受付窓口では次の探索者が順番を待っている。奥には食堂らしき場所が見え、掲示板には何やら情報が貼られている。


「...」


少女は、静かにその光景を見ていた。



彼女はおもむろに壁際のベンチに腰を下ろし、エントランスの空気に身を委ねた。人々の会話が耳に入る。「昨日ドッグタグが溜まらなかったから今日こそ溜まるかなぁ」「昨日のダンジョン、魔物が出たんだよね」「スタンプやっと半分埋まった!」「それなら受付ちゃんに聞いてみたら?」


ドッグタグ。スタンプ。受付ちゃん。


聞き慣れない単語が飛び交う。でも、なんとなく雰囲気は掴めてくる。ここは探索者たちの拠点で、ダンジョンに挑む人々が集まる場所。そして、受付ちゃんがその中心にいる。




「あの、新人さんですか?」


声をかけられて、少女は顔を上げた。


目の前に立っているのは、親切そうな雰囲気の探索者。腰に剣を下げた軽装の冒険者スタイルの男性。二十代半ばくらいだろうか。


「はい」


「やっぱり!ベンチでずっと様子を見てたから、もしかしてと思って。初めてだと、どうすればいいか分からないですよね」


男は、にこやかに笑った。


「良かったら、説明しますよ!僕もそんなにベテランじゃないですけど、基本的なことなら教えられます」


「...ありがとうございます」


少女は、丁寧に頭を下げた。



「じゃあ、まずここがこの町のダンジョンのエントランスで...」


探索者は、熱心に説明を始めた。


「ダンジョンっていうのは、受付ちゃんが管理してる魔物の巣みたいなもので。中に入ると、魔力が溜まってるポイントがあるんです」


「魔力が溜まっている...」


「そう。そこでこれ—」


探索者は自分の首にかけたドッグタグを見せる。銀色の小さなプレート。


「—ドッグタグに魔力をチャージするんです。これを首にかけてダンジョンに入ると魔力が溜まっていくんですよ。ダンジョン内の魔力を減らすことで魔物の発生を抑えているんです。そしてその魔力は電池に詰めて色々な道具に使えるように販売しているんです。」


「なるほど」


「で、満タンになったら受付で溜まった魔力を回収してもらってスタンプを押してもらって報酬をもらう。スタンプが溜まると更に報酬がもらえる、っていう仕組みです」


少女は、真面目に聞いている。時折頷きながら、探索者の説明を一つ一つ確認するように。


「報酬は色々あって。食堂の食券だったり、装備だったり、お金だったり。スタンプの数によって違うんですけどね」


「そうなんですね」


「あ、ちなみにスタンプカードは受付でもらえます。一枚目が終わったら二枚目、二枚目が終わったら三枚目...って感じで。」



「はい」


「で、ダンジョンの中にはたまに魔物がいたりするんですけど、基本的に受付ちゃんが実力に合った場所に送り出してくれるので安心してください。」


「魔物...」


「遠く離れたダンジョンでも、受付ちゃんがレバーを操作してゲートで繋いでくれるんです。帰りは入ってきた扉を通れば戻れますよ」


「レバー...ゲート...」


「そう。でもダンジョンは魔物だから気をつけてくださいね。受付ちゃんの口癖です。」


少女は、先ほどの受付での会話を思い出した。確かに、受付の女性が「ダンジョンは魔物だから」と言っていた。


「わかりました」


「あとは...基本的にチャージはダンジョンを歩き回っていると勝手にされるんですが、魔物を倒してもチャージされます。あと、たまに宙に浮かんだ亀裂が存在していることがあるんです。そこではチャージが早くなるので見つけたらそこで待つのがおすすめです。」


「宙に浮かんだ亀裂...」


「そうそう。言われてもピンと来ないかもしれませんが見たら一発でわかると思います。」


探索者は、身振り手振りを交えて説明する。


「で、亀裂の近くでチャージ中は、安全が確保できれば飴とか食べながらのんびり待つ感じですね。数分でキィィィィン……って鳴り終わったら満タン。そしたら出口に戻って、受付でスタンプ押してもらって終わりです」


「なるほど...」


「満タンになる前に戻った場合は報酬は貰えませんが、続きから溜めればいいので無理せず途中で帰っても大丈夫ですよ」


「シンプルなんですね」


「そうなんですよ。最初は難しそうに見えるけど、やってみると意外と簡単で。スタンプラリーみたいなもんです」


少女は、小さく頷いた。


探索者は、説明が一段落したのか、満足そうに頷いた。


「とりあえず、基本はこんな感じです!どうですか、なんとなく分かりました?」


「はい。とても分かりやすかったです。ありがとうございます」


「いえいえ!」


探索者は嬉しそうに笑った。ちゃんと理解してくれる新人は、教え甲斐がある。


「あ、そうだ。もっと面白い話もあるんですよ」


少女は、静かに待っている。


「例えば...受付ちゃんのこととか」


探索者の目が、少し輝いた。噂話や与太話が好きなタイプらしい。


「受付ちゃんって、実は色々と謎が多くて。興味あります?」


「...はい」


少女は、丁寧に頷いた。


探索者は、少し声を落とした。


「受付ちゃんって、全部同じ人らしいんですよ」


「同じ...人?」


「そう。あ、ちなみに新人さんはこの後、通常受付に行くことになるんですけど、そこにも受付ちゃんがいるんです」


「通常...?」


「そうそう。さっき緑のポニーテールの子が使ってたのは専用受付で、受付ちゃんが指名した人専用なんですよ。新人さんは行列ができてる方の通常受付を使うんです」


少女は、小さく頷いた。


「で、そこにも受付ちゃんがいて。しかも、どこのダンジョンに行っても受付ちゃんがいるんです。全員同じ顔で、同じ喋り方で」


「不思議ですね」


「でしょ?姉妹なのか、分身なのか。まあ、誰も真相は知らないんですけど」


探索者は、楽しそうに話を続ける。


「あと、色々と面白い噂があるんですよ」


少女は、静かに待っている。


「まず、受付ちゃんがダンジョンを作ってるって話」


「作ってる...?」


「そう。魔物も、ダンジョンの構造も、全部受付ちゃんが作ってるとか。で、ダンジョン自体も魔物らしいんです」


「ダンジョンが...魔物?」


「そうそう。『ダンジョンは魔物』って受付ちゃんの口癖、あれはダンジョンに魔物が居るから気をつけろって意味じゃなくてダンジョンが魔物だから気をつけろって意味なんです」


探索者は、楽しそうに指を折りながら数える。


「で、受付ちゃん自体も数千年生きてて魔物の親玉だとか。しかもその時代に上位の存在として君臨していたとか。しかもその頃はかなり暴れていて手が付けられなかったとか。だから受付ちゃんいつも退屈そうにしてるんだって。もし同じ仕事を数千年もやってたらそりゃ退屈ですよね」


「数千年...上位...」


「そう。で、極め付けはダンジョンには何かが封印されてるって伝説。ダンジョンのどこかに、めちゃくちゃ強い存在が封印されてて、いつか復活するとか」


少女は、黙って聞いている。


「受付ちゃんを怒らせた探索者は帰ってこれないようなダンジョンに向かわされるとか。受付ちゃんの総資産は国家レベルだとか。実はダンジョンに入った人間はダンジョンに食べられていて出てきた人間は全部人間に擬態したモンスターで成り代わっているとか。」


探索者は、肩をすくめる。


「まあ、どれも与太話ですけどね。受付ちゃんが何人も居るのは確かですけど普通に見えますし、ダンジョンもどう見てもただの建物ですし。そもそもダンジョンがモンスターで全部管理しているなら探索者を送り込む意味も無いですよね。僕らは魔物が湧かないように魔力を回収してるので魔物を作っているなら矛盾しますよね。その回収した魔力だって魔導ランプとかの道具用の電池として目に見える形で販売されてますし。封印ってのもファンタジーですよ。証拠もないですから。ただ受付ちゃんの総資産だけは本当かもしれません。」


探索者は、楽しそうに笑う。


「でも、こういう噂話って楽しいじゃないですか。真偽はともかく」


「そうですね」


少女は、丁寧に相槌を打った。


その後もメニューはわからないがとても料理のおいしいダンジョンがあると言った他愛のないうわさ話が探索者から延々と続いていた。


それに対し新人ちゃんは律義に相槌を返していたのだった。

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