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ハンバーグはハンバーグ  作者: 風待望
風使いちゃん

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2/9

たまにはカツサンド

現場の扉をくぐり、彼女は本部のエントランスへと戻ってきた。窓口では相変わらず退屈そうに指で頬を突いて受付ちゃんが座っている。


「あ、おかえり。コンプリートおめでとう。はい、これ約束の二枚目のカードと、報酬」


「やった!これで2枚目!やっとこれがぶつかった時の綺麗な音が自分で聞ける! 受付さん!この食券でハンバーグ定食食べれるよね?」


「ええ、特に指定は無いからハンバーグ定食も頼めるはずよ。特別清掃手当、しっかり使いなさいな」


彼女は新しいカードと食券を握りしめると、そのまま緑のポニーテールを嬉しそうに揺らしながら食堂へと向かっていった。


「ごちそうさまでした!」


ハンバーグ定食を平らげた風使いちゃんは、満足げに食堂を後にし、いつもの受付窓口へと戻った。


「受付さーん、二枚目の一箇所目どこがいいかな」


窓口では、受付ちゃんが相変わらず退屈そうに指で頬を突いている。


「おかえり。……そうね、二枚目からは少し離れた場所も選べるわよ。例えばここ、《風の回廊》なんてどう? あなた風使いだし、相性いいんじゃない?」


「風の回廊? 名前はカッコいいけどどんなところ?」


「向かい風が強くて歩くのも一苦労な場所ね。風の中を走り回るのが好きならぴったりでしょ?それに向こうの売店有名なベーカリーが出張してるらしいわよ。」


「……よし、そこにする」


即決だった。 受付ちゃんが手元のレバーを操作し窓口の横にある石造りの扉を叩く。カチリ、と空間が噛み合う音がして、扉の向こう側が《風の回廊》へと繋がるダンジョンのエントランスへと直結された。


「はい、いってらっしゃい。ダンジョンは魔物だからしっかり気をつけてね。」


「はーい、了解でーす。噛まれないように頑張りまーす」


彼女は適当に手を振りながらエントランスへ移動し、まずは扉のすぐ脇にある売店へ吸い込まれていった。


「焼き立てのカツサンド一つ。あ、あとチョココロネも」


食料を確保し、彼女はそのままゲートへ向かう。


「カツサンド買ったんですね。そのベーカリーのカツサンド大人気なんですよ。ダンジョンは魔物だから気を付けてね~」


「はいはーい。」


一歩踏み出せば、そこはもう切り立った崖の隙間に作られたダンジョンの中だ。風が強く吹き抜け、通路の脇にはよく分からない古い石像や崩れた柱が転がっている。


「うーわ。聞いてた以上に風、強すぎ」


一歩踏み入れた途端、激しい風が緑のポニーテールを激しく揺らした。 普通の攻略者なら顔をしかめて踏ん張るような場面だが、彼女の瞳はパッと明るくなった。


「……あ、でもこれいい感じ。浮けそう!」


彼女は手慣れた手つきで杖を振った。 周囲の風を自分の足元に集めふわりと体を浮かせる。向かい風のエネルギーをそのまま揚力に変えて、彼女はスケボーにでも乗るような軽快さで、風の上を滑り始めた。


「あはは、すごーい! 漕がなくても進む! 楽ちんだし、アトラクションみたいで楽しいー!」


本来なら侵入者を阻むための絶望的な暴風を、彼女は「天然の動く歩道」として全力で遊び始めた。 時折、風に煽られてバランスを崩しそうになると、空中でくるりと一回転して見せる。攻略というよりは、完全に遊び場のようなノリだ。


しばらく風に流されて遊んでいると、通路の先で「ギチギチ……」という不快な音が響き、巨大なクモのような魔物が上から降ってきた。 風の回廊の捕食者、《ウィンド・スパイダー》だ。


「げっ、出た」


魔物が鋭い脚を鳴らして飛びかかってくる。


「あー、もう! せっかくいい気分で滑ってたのに! ……えいっ」


彼女は進行方向の風の塊をさらに凝縮し、魔物の正面から叩きつけた。 戦闘というよりは、「邪魔な障害物を魔法で弾く」ような無造作な動作。 巻き上げられた魔物は、抵抗する間もなく岸壁に叩きつけられ、そのまま後方の暴風に飲み込まれて豆粒のように遠ざかっていった。


「ふぅ。お邪魔虫退散。……あ、あそこに亀裂あるじゃんラッキー!今日もいい感じに裂けてるね!」


通路の突き当たり、崩れた石柱の破片がちょうどいい高さで転がっていた。その傍らの中空には異質な亀裂が存在していた。 彼女は滑り降りるように着地すると、その適当な石の塊に腰を下ろし、カツサンドの袋を広げた。


「チャージ早いからここでランチタイムにしようかな。いただきまーす」


首にかけたドッグタグが「キィィィィン……」と鳴り始める。チャージが終わるまでの間の時間を使ってカツサンドの厚切り肉を夢中で頬張った。


「んー、この店、ソースが美味しい! 風で遊んでお腹空いたし、最高だなぁ」


彼女にとっての「攻略」とは、こうして風と戯れ、チャージの合間に美味しいものを食べ、予定通りにスタンプをもらって帰ること。 それ以上でも、それ以下でもなかった。


満タンになったタグの重みを確認すると、彼女はよっこらしょと石から飛び降り、帰り道の「追い風」を利用すべく、再び杖を構えた。


窓口に戻ると、受付ちゃんは出発前と同じような姿勢で爪を弄っていた。


「おかえりー。早かったわね。ベーカリーどうだった?」


「美味しかったよ。あの回廊、風が強くて最高に滑りやすかった! あそこ、スタンプのためじゃなくても通いたいくらいだったよ!」


「あら、気に入ったなら良かったわ。また必要になったらお願いするわね……はい、これ」


彼女がドッグタグをトレイに置くと、受付ちゃんは慣れた手つきでスタンプカードに二枚目の「一つ目」を刻印した。


「はい、お疲れさま。二枚目の一箇所目、完了ね。報酬は今受け取る?」


「うーん、もうお腹いっぱいだし手持ちはあるから今日はお風呂に寄ってから帰るよ」


ドッグタグを首に掛け、彼女は軽い足取りで出口へと向かっていった。

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