恐ろしい魔物の親玉
どうやら執行猶予は終わりを告げたらしい。
私は親切な探索者に連れられ一般受付に向かっていた。
(戦っちゃだめ。相手は数千年の経験を持つ武闘派よ。ここは……そう、徹底的に『弱者』を演じるの。野生の世界では、弱すぎると逆に捕食対象から外れることもあるって聞いたし!)
そう心に決めた瞬間、あの「魔物の親玉」が、獲物を捕らえるかのような鋭い動きで私に手招きをした。
(……呼ばれた!? 逃げ場なんて、あるはずないわよね)
私は処刑台に向かう囚人のような心持ちで窓口へ向かった。 そこで交わされた会話は、まさに薄氷を踏むような緊張感だった。
『まずは、お名前を伺っても? 』
(自己を主張するかどうかを聞かれてる!?下手に名前を言って即戦闘になったら目も当てられない)
「し、しんじん……と呼んでください」
『……ええ、分かりました。新人ちゃん、ですね』
(…よ、よかった~即戦闘は回避できた。あとは素直に答えていけば戦う意思は無いって伝わるはず!!)
『得意な武器や、扱える魔法はありますか?』
(戦闘意思の確認。ここは正直に答えよう。基本は素手で戦うから…)
「武器はあまり……魔法は護身術程度であれば少々嗜んでおります。あと攻撃を避けるのは自信があります。」
『……記述しておきます。魔法での戦闘がメインで体捌きは自信あり。』
(これは今後接近戦はするなってこと?)
『……最後に。あなたがこのダンジョンに来た理由は?』
(まさか『五度寝してたら迷子になった』なんて言えない……いえ、待って。事実をそのまま言えば、呆れられて放免されるかも?)
「迷子になっていたら、いつの間にかここにいたんです」
そう答えると、受付ちゃんは一瞬、般若のような恐ろしい表情を浮かべ……それから、悟りを開いた仏のような無表情になった。
(……助かった? 呆れられた?)
最後にドッグタグを渡される。
(……合格ってこと?)
私は頷いて受け取る
(…た、助かった~)
そう安堵するも受付さんは間髪入れずにさらに追撃してきた。
『ここまでの建前はいいので本当のことを教えてください。……その、ここに来た理由は何ですか?』
(建前?来た理由?来た方法じゃなくて目的ってこと?それも特に無いんだけど…)
私は受付さんの言ってる意味がわからず首をかしげる。
こちらが答えないことに痺れを切らしたのか口を開こうとした瞬間に何かに気付いたのか両手を振って誰かに合図を送る。
そこに現れたのは朝に受付さんとやり取りをしていた少女だった。どうやらダンジョンから戻って報酬を受け取っているようだ。一旦解放された私は一度呼吸を整える。受付さんはたまにこちらに視線を向け離れるなよと脅しをかけてくる。
どうやら少女とのやり取りは終わったようだ。ここから始まる尋問に身構えた瞬間強張った手を少女が掴んで走り出した。
「ところでドッグタグを貰ってたってことは新人ちゃんだよね!じゃあお祝いにハンバーグを奢ってあげる!ついてきて!」
(...ハンバーグ?)
受付さんが後ろで何か叫んでいた気がしたが、腕を引かれている以上止まるわけにはいかなかった。受付さんが本気で止める気なら既に腕が切り飛ばされているはず。それがないということは、きっとこの少女——風使いちゃんに免じて、一時的な「外出許可」をくれたに違いない。安堵と困惑が混ざった不思議な感情を胸に風使いちゃんに連れていかれるのだった。




