表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

8th.少女の名前


「…というように、邪馬台国では、支配階級の王と大人が存在し、逆に支配される側の、下戸と生口という、言わば奴隷のような者達もいたという訳だ。」



法堂は2-Dにて授業をしていた。



教えている間、法堂は何度か昨日の出来事を思い出していた。



昨日の夜、少女の怨念が浄化された後―


―12時間前―



怨念が完全に浄化された少女は、光に包まれたままだった。



しばらくすると、少女を包んでいた光は、段々小さくなって、やがて、野球ボール程度の大きさになった。



法堂は目をパチクリしながらその様子を見ていた。



とその時、野球ボールサイズの光は、ものすごい速さでどこかへ飛んでいった。


「えっちょっ…。」


法堂は何が起きたのかわからず、とりあえず光の玉があった場所まできた。



「なっ何だったんだ…。なあ、これってどういう…。」



法堂は後ろを振り向いてそう言いかけた。




法堂の後ろには、誰ひとりいないのだ。



「帰るの早っ!!」



法堂は誰もいない学園で、一人そうツッコミを入れた。




結局、何も分からずじまいのまま今日を迎えた訳だが、やはりG-クラスの事が気になって仕方がないのであった。



本人達に直接聞くってのが1番手っ取り早いけど、俺みたいな普通の教員は、あまりG-クラスと関わりがないから、直接聞くってのはなかなか難しいかもなぁ。



とっくに授業を終えた法堂は、職員室に向かうため、廊下を一人で歩いていた。



そういえば、あの子はどうなったんだろう。あの後怨念が浄化された訳だけど、何だかあの子がまだこの学園の中にいる気がする…。



そう思った法堂は、職員室とは違う方向へと歩みを進めた。









法堂は、生物室の前に立っていた。



確かこの時間は生物室は使われないはずだから…。



ゴクッと唾をのむと、法堂はゆっくり生物室の扉を開けた。


とその時、



扉を開けた瞬間に、何かが飛んで来て法堂のおでこに直撃した。



「痛たっ!!」



法堂は後ろに反れるが、なんとか体制を保って、おでこを摩った。



「なっ何だ…。」



法堂はおでこに直撃した物が何かを見ようとした。





自分の目の前にはいない…。



そう思った瞬間、



ひょいっと横からそれは姿を現した。




目の前にいたのは、サキぐらいの大きさの小さな女の子だった。



髪型は、邪馬台国にいたような、ツイン団子で髪が長く、服は、まるでマーメイドのようなワンピースを着ていた。両肩には魚のひれのような物がついている。


「えっと、君は…。」



『貴様、我の事が見えるのか?』



目の前の少女は、突然そう聞いてきた。


「えっまぁ。」



『そうか。まあとりあえず入れ。』



小さな女の子は、特に疑う事もせず、まるで自分の家に招き入れるようなそぶりでそう言った。



法堂はともかく中に入る事にした。







中に入った法堂は、1番前の机の椅子に座っていた。



「君はいつからここにいるんだ?」



法堂は机の上に座っている少女を見てそう尋ねた。



『分からない。』



「えっ!?」



『分からないんだ。気付いたらここにいて、それで…。』



少女はそう答えた後、下を俯いて黙ってしまった。



「いつ気がついたんだ?」



『だいたい9時ぐらいだったと思う。その時人が沢山いて、そのざわめき声で気がついたんだ。』



「そっか…。」


少女の話を聞き終えた法堂は、考え事をし始めた。




この子から、怨念が浄化された後のあの女の子と同じようなものを感じる。



もしかして、この子はあの女の子なのか?だとしたら、何となく辻妻があう。あの光の玉の中にいたのがこの子で、ここに来たんだとしたら…。



『おいっ!!』



いきなり少女に呼ばれたので、法堂は少々驚いた。



『貴様、何をぼーっとしている。』



「ゴメン。ってか、俺“貴様”じゃなくて、法堂小暮っていうれっきとした名前があるんだけど。」


法堂は“貴様”呼ばわりされる事に不満を抱いた。



『知るか。そんなこと。まぁ、確かに、“貴様”と呼ぶのもあれだしな、貴様にはこれからいろいろと世話になりそうだし。名前で呼ぶとするか。』



世話になる前提かよっと内心ツッコミながら少女を見ていた。



『そうだなぁ、法堂小暮…ほーどー…。よし、決めた。おまえを“法堂”と呼ぶことにしよう!!』



まんまかい。と思いながらも、貴様呼ばわりされるよりはいいと考え、それでいいと言った。



『じゃあ、よろしくな。法堂。』



「よろしく、えっと…。名前、なんていうの?」



『分からん。』



「はぃぃ?」



『分からんのだ。自分が何なのか…。だから、名前は法堂が決めてくれ。』



「いや、突然そんなこと言われても…。」



そう言いつつも、とりあえず名前を考えてみた。



えっと、“魚ちゃん”は普通すぎるし、なんかの魚の名前をつけるか。“マグロ”じゃちょっとなぁ…。ウーン。



法堂はとにかく必死に考えていた。



魚…。魚といえば寿司。そういえば前、井森先生が…。










―数日前―



「はぁ、キャンプへ行きたい。」



「どうしたんですか、急に?」



「いやな、この前テレビの特集でやってたんだけどな、ある魚の塩焼きをみたら、何だか食べたくなって。」



「ある魚?」



「それはな…。」




―今―



「アユ…。そうだ!!アユちゃんなんてどうだ?」


『アユちゃん…。なかなかキュートな名前だが、まあいい。気に入った。我の名は今日から“アユ”だ。』



「それじゃ、改めてよろしく。アユちゃん。」



そう言うと、法堂は手を差し延べた。



『よろしく。』



アユは小さな手で法堂の手(の人差し指)を握った。










職員室へ戻った法堂は、教員数名がなにやらざわざわとしていた。



あれって確か、生物の先生たちだよな。どうしたんだ?



「あっ法堂先生。」


法堂が入ってきたのに気付いた久本は、法堂のところに近づいてきた。



「久本先生、何かあったんですか?」



「実は、G-クラスから議案書が提出されてね。」



「G-クラスから…。一体どんな議案書なんですか?」



「魚の解剖で使われた魚を、家畜などの餌に全部回せっていうのなんだけど…。」



えっ!?と、久本の話を聞いていた法堂は驚きの声をあげた。



まさか、再び怨念を生まないようにするためにそんな事を。


法堂はG-クラスのしてくれた事に有り難さを感じた。




「法堂先生はいらっしゃいます?」



と、浅見が法堂を呼ぶ声が聞こえた。



「はい、ここにいますけど…。」



法堂はとりあえず応答した。





「理事長がお呼びですわよ。」




はい!?




法堂は、浅見の言葉をすぐには理解できなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ